森の妖精たち③
この程度の反応なら、洞窟の広さからして滅多なことにはならないだろう。いくらゴブリンが相手でも殺生は精神的に堪えるからな。
だから追い払う。二度とここに戻ってこようと考えられなくらい脅しをかけて。
ピクシーたちは今もパリパリと塩水を電気分解していて、発生した塩素ガスをフェアリーが洞窟内へ風で送り込む。
いまごろゴブリンどもは横になっているだろうから、もうじき効き目が現れるはず。
オレはオレで準備だ。大きな布を頭から被り、
「乗っかるぞ」
「「「ワゥ」」」
組体操のピラミッドをしているコボルトの上へ。
ヨジヨジよじ登るなんて非力な赤ちゃんボディでは無理なので、飛ぶ。羽だけでは浮かないから腕もジタバタさせ、なんとか頂点にちょこんと鎮座。
はみ出したコボルトの顔や尻尾は、他のコボルトたちがイイ感じに布の内に隠してくれた。
暗がりだし、これで充分だろう。
外が見えるよう二つ空けておいた覗き穴から洞窟の様子を確かめてると……、きたきた。
真っ先に飛び出してきたゴブリンはゲホゲホ咽せ返り、涙も鼻水もダラダラ。
計画どおり足掛け罠にズテンと引っかかった。さらに、転けたヤツに足を取られて後続もまた次々と転ぶ。
「フェアリー、ダメ押しの目潰しだ。余った塩粒も風で巻き上げてやれ」
「「「きひっ」」」
「「「——ゴ、ゴブギャあああああ〜ッ!」」」
この世界の魔物はゴブリンまでもが、もれなくあざとい口調らしい。
さて互いの立ち位置だが、ゴブリンどもは洞窟前でドミノ倒し。バタバタ重なって地べたに這いつくばっている。
そしてオレはといえば、月明かりを背負っていて、つくられる影はコボルトのピラミッドに乗っているから長くて大きい。相手を見下ろすカタチだ。
「聞け、矮小なるゴブリンどもよ」
なるべく声が怖くなるよう布で音を籠らせ、ゆっくりと言葉にした。
「「「ゴ、ゴブゥ……」」」
うんうん。畏敬畏怖の念がひしひし伝わってくるぞ。
「我が支配地を犯した貴様らには、凶悪な呪いをかけた」
「「「——ンゴッ⁉︎」」」
よしよし、信じてるっぽいな。
「息が苦しかろう。毒だ。この森のすべては貴様らにとっての毒と化したのだ」
「ゆゆゆ、許してゴブゥ」
真っ赤に腫れたお目めの視界は、きっとボヤンボヤン。さぞ怖いんだろう。
「否だ。呪いは解かぬ」
「「「……ゴブゥゥ」」」
「生きながらえたくば、この森より離れるがよい。なるべく遠くへ、それが唯一の方法だ。フッ、逃げ切るまで貴様らの生命がつづく保証はできぬがな。クワーッハハハハハハッ‼︎」
オレのマネして、ピクシーたちもフェアリーたちもコボルトたちもワッハワッハと高笑い。
するとゴブリンたちは、
「「「お、お助けゴブぅうぅうううう〜!」」」
一目散に逃げ出した。
「おーい、なるべく遠くまで逃げろよー。森の外の村も安全じゃないぞー!」
これでよしっと。
一件落着のあとは注意事項を。
「コボルトたちには悪いけど、しばらく洞窟には入るないでくれ」
「ワゥン?」
「オマエらもさっきのゴブリンみたいになりくないだろ。洞窟の中にたっぷり水を撒いて、数日もすれば大丈夫なはず。ツーンと嫌な匂いがしなくなったら入っても大丈夫だぞ。いちおう念のため、戻る前はフェアリーたちに換気をしてもらうといい」
「「「ワウ!」」」
お利口さんな返事のあと、さっそくコボルトたちは水を汲みに川へ向かった。手ぶらで。
桶が必要だと知るのはあっちについてからか。教えてやる間もなかったから、これは不可抗力。
「でー、この瓶の水はどーするのー?」
フェアリーやつ、鋭いな。
「これは蓋して保管かな。ちょっと作りたいものがあるんだ」
「なになにー、美味しいものー?」
「違う。いいか、これは身体を溶かす怖い水だ。間違っても飲むなよ」
「そんなのいらなーい」
「「「ねー」」」
この程度の濃度ならヌルヌルするだけで大したことない。お掃除には使えるくらいか。
捨ててしまってもいいけど、せっかく異世界転生したからには、オレも定番の手作り石鹸にチャレンジしてみたい。もしかしたら対人間との交渉で役に立つかもしれないしな。
そのためにはアルカリ水の濃度を上げるのはともかく、たくさんの油を手に入れる必要がある。でもオレには菜の花から植物油を絞る道具も力もない。
だからこの案はしばらく保留。いや、コロポックルに相談してみるのもありか?
とにかく今日は充分働いた。ということで、
「はい。みなさんお疲れさまでした。解散おやすみ」
「「「おつかれー」」」
「「「ぴぴー」」」
お開きを告げたら、オレらピクシーはいつもの花の群生地——寝床へと戻った。
◇
ゴロリゴロリしながら、ときおり花の蜜を啜り、またゴロリ。
それにしても喜ぶべきは、我が同胞ピクシーたちの成長っぷりだよな。あんなにたくさん発電できたのは嬉しい限り。
なんとかこれからも自発的に練習してもらえるように、髪を逆立てる以外の遊びも考えなきゃか。
オレ? オレはやらないよ。だって面倒だもん。
しかしだ。やっぱりファンタジー世界、あるのかもしれないな、ステータス的なモノが。
使用頻度で能力が伸びていることから推測するに、レベルというより熟練度に近いパターンだろうか。
……って、
「おいオマエら。オレはクッションじゃないぞ」
ひとりがやると他のみんなもマネをする。オレが嫌がって寝返りを打つたび、乗っかってくるヤツが増えていく。
いくら手のひらサイズのピクシーとはいえ、数が多いだけに鬱陶しい。
「ええーい。やーめーろって」
えいやと身体を起こすと、ブチッ。キレた。
オレの堪忍袋の緒ではなく、唯一の衣服である葉っぱを腰に巻きつける紐が。
もしや、また太っ——
「ってない。紐が古くなっただけだ。オレは断じてデブったりしてないぞ」
ちょうどいい。コロポックルには礼を言いにいくつもりだったし、ついでに新しい紐を貰ってくるとしよう。




