大魔王ぽっちゃりピクシー③
別の場所に隠してあるレガリアも持ってこい。こうオレが告げるなり、倉久手メグルは「それは——」と難色を示した。
「おいおいメグル、若いくせにリスク分散とかちまちましたことを考えるなよ」
「キミが正しく運用してくれるってこと?」
「違うな。オマエは、魔物である妖精ピクシーのオレにレガリアを預けた。自由に使ってもいいとな」
それ即ち、
「魔王になれってことだろ」
実際に『鑑定の皿』で鑑たステータス上ではもうそうなっている。この世界において一部に知られる魔王の定義も、レガリアを所有した魔物のことだ。
「半端のままでいると狩られる側で終わる。今回のことで、それがよくわかった」
あえて責めるような口調を使ったのもあり、倉久手メグルは責任を感じたような沈黙。
オレとしては『あわせて前に言ってた嘘発見器みたいなレガリアも』と欲張りたいところだったが、
「ちょっとアンタ! さすがに図々しくない」
そうは問屋が卸さないらしい。
声を荒げたのは千来寺ミナ。ずっと妖精の森の惨状を目の当たりにして口を挟まないよう自重していたようだが、オレの言いたい放題にとうとう我慢できなくなったか。
それに御三尾チイもつづく。
「気の毒だとは思うわ。けれど、ワタシたちにすべての責任があるわけではないでしょう」
ああ、本当にたまたま。たまたま不運が重なった結果、森の妖精たちは無防備なまま悪意を被った。すべては偶然が連鎖しただけのこと。
オレの精神年齢からしたら充分子供なコイツらに対して、ゴネる。こんな道理を心得ない発言は憚られるというのが本音だけど、酷だが、いまは引けない。
「ほほーう。よくもまぁそこまでの無責任を言ってのけたものだな。ほぼほぼ原因はオマエらにあるんだぞ。事の発端は、オレらが村を訪れた徴税官を捕らえたこと」
「だったら——」
という御三尾チイの反論を「なぜ!」と強く遮り、
「あの日、なにを目的に徴税官が村に来たと思う?」
わかりきったことを拡大解釈して、さも確からしく。
「税を徴収するためだ。しかし村には蓄えがなかった。ゴブリンに畑を荒らされたからな。おかげで、ご婦人方は子連れで野草摘みだ。言っておくがグリーンレジャーなんてお気楽な野遊びじゃないぞ。食うに困ってだ。わかるか? 迷子が頻発するほど深くまで森に分け入りらなければならなくなった事情がなにに起因するか」
これ以上は言い募らなくてもいいか。
「「「…………」」」
千来寺ミナは微妙なところだが、倉久手メグルも御三尾チイも、しっかりと想像力を働かせたことだろう。
こんな詰めるようなマネ……正直、気分はよくない。それでも結論までつづけなければ。いまはまだ前談だ。
「村娘のエルラーレが連れていかれそうになったのも、村のご婦人方が貧乏してるのも、コボルトの棲家が襲われたのも、オレが王都にいってたあいだに森に被害があったのも——」
もう聞きたくないと背ける顔に向けて、極めつけの結びを。
「ぜーんぶ、オマエらとは無関係だ」
「「「…………え?」」」
「悪いのは帝国だろ。今回は傀儡の王国か。で、実行犯は冒険者ギルド所属の冒険者ども。これも帝国が管理しているわけだから、うん、やっぱり一番の悪党は帝国だな」
反応はそれぞれ。千来寺ミナはパッと表情を明るく、逆に御三尾チイは次になにを言われるのかと警戒心を強め、倉久手メグルは諦めたような暗い目をした。
こういうリアクションは、どれも、けっこう心の深いところが痛む。
「つまりなにを言いたいのかと言うと、オマエらと共有できるのはそれだけってことだ」
だからオレがどれほど邪悪なことを考えていても実行したとしても、オマエらとは無関係。もし許せなくなったときは、勇者らしく魔王を討てばいい。
「……つまりキミは、お互いに利己的な、そういう付き合い方を求めていると」
「理解が早くて助かる」
倉久手メグルたちは、元の世界に帰ることだけを考えたらいいし、その前に異世界召喚の術式やらを消し去りたいって言うんなら好きにすればいい。それについては手を貸さないし邪魔もしない。
ただ、レガリアを集めて帝国に対抗できるチカラをつける。この一点に限れば協力できる。
「ずいぶんと回りくどく話すのね。アナタは、ワタシたちとの関係を共犯ではなく、利害だけの関係と言いたいのでしょう」
この御三尾チイの露骨な憎まれ口には、少しだけホッとしたような気配が滲んでいた。
「そういうこと。だからオレのやりように対しての苦情諸々、一切受け付けないぞ。ただただオマエらはオレの元にレガリアを持ってくればいいんだ」
「待って。なんかそれって不公平じゃん」
「ごもっとも。でもミナ、対価はあるから安心してくれ。オレが王国を乗っ取った暁には、お望みのラブホと現代人の舌にも合うメシを用意してやろう。ついでに目障りな監視役を過激な接待で骨抜きにするオマケ付きだ」
線引きは大事だもんな。
かつてのオレは、コイツらと同じ現代を生きていた。その価値観をかなりの部分共有していた。
しかし今は違う。この世界の人間からすると魔物、妖精のピクシーだ。いいや——
「これより、数多の魔王を統べる『大魔王ぽっちゃりピクシー』その爆誕となるのだ。クワーッハッハッハッハァ!」
だいぶ仲間が減ってしまった現状は虚しい限り。だけど、それでも前向きにお気楽アゲアゲな妖精らしく。
おいおい。せっかくオジサンがテンションを上げているというのに、ティーンたちよ、白けた目を向けてくれるな。
「おっと、そういえばオレの自己紹介がまだだったか」
「キミに名前はないって」
以前はそう言った。よってここで伝えるのは——
「米田堀フトシだ」
「「「…………」」」
おい! 黙らないでくれ。少しは笑いを隠せ。肩を震わせるな。
「それって転生する前の……」
と、遠慮気味な倉久手メグルにつづくJK二人は、
「プッ、なーんかすっごく生きづらそうな名前ぇ」
「気の毒に。名は体型を表す、なんて洒落になっていないわね。こないだ名乗らなかったのは名前のせい?」
言いたい放題。おデブ認定までしてくれちゃって。
まぁ慣れてる。というより、いまのオレにはこれくらいの気安さがちょうどいい。
「いちおう注意しておくが、」
「なに、メタボくん」
「ああそれそれ、それだ。オレの名は米田堀。間違っても『リ』を省略してくれるなよ。千来、寺ミナ」
「こんのっ」
すぐさま倉久手メグルが割って入り『メグルどいて。ソイツ殺せない』のあと、勇者御一行にはお引き取りいただいた。
次にアイツらが来るまでにやっておくことは盛り沢山。いくら辛くたって、いつまでも与太話で気を紛らしてばかりはいられない。
こうして今日この日、オレは大魔王への第一歩を踏み出したのだ。




