大魔王ぽっちゃりピクシー①
ここまで律儀に竹馬とローブで身を隠してきた。だが、そんなものは放りだしてオレはエルラーレの側へ。
「ぽっちゃり妖精さん……」
すると、こっちに泣き腫らした目が向けられた。未だに口許は震えは収まらず。
急いで伝えたいことがあるのに、なにから話せばいいのかわからないでいる。そんな様子が痛ましい。
「なにが、いや、誰が来たんだ?」
「冒険者って、言ってた」
エルラーレはつっかえつっかえオレの問いに答えていく。
いくつか聞いていくと、だいたいの事情は窺えた。
「入れ違いになったみたいだね」
「……。メグルたちはもう行けよ。これはオレらの問題だ」
なにがあったのかは単純で、いつまでも帰ってこない徴税官の捜索に冒険者が派遣されてきたんだ。
で、現在進行形でどんな状況なのかといえば、ソイツらがエルラーレの母親を含めた村人から乱暴に聞き出した情報を元に、妖精の森へ捜索に入ったところ。
「徴税官の件に関しては、そうだね」
レガリアの心配か?
「そのあたりの情報はほとんど広まってないんだろ。だったら冒険者が現物を発見しても、気づかないんじゃないか」
なにより、妖精の森でオマエらの顔が帝国紐付きの人間の目に触れるはマズイ。お互いにな。
「万が一のとき、キミは自分の手を汚せるのかい?」
「覚悟はできた。そう言ったはずだが」
倉久手メグルからの返答は、沈黙。こちらの真意を見抜こうっていうんじゃなく、念押しするみたいな圧をかけて。
「それに、まだボクらは今後のことをちゃんと話し合えてないよ」
たしかにここでは口にできないか。レガリアのことなど、村人の耳に入れるのは危険すぎる情報が多すぎる。彼女らに要らないリスクを負わせてしまうのは、オレとしても本意じゃない。
「目につかないところで見ているぶんには構わないけど、お節介は自重してくれ」
「わかった」
しかたなかったこととはいえ、倉久手メグルとの線引きに時間を使ってしまった。一刻も早く冒険者たちを追わなければならないのに。
心苦しいがエルラーレへのお見舞い気遣いは後回しにして、オレは礼を告げるなり妖精の森へと向かった。
◇
どうして……。
「「「ぴぃ……」」」
真っ先に向かった花の群生地は、ズタズタに踏み荒らされていた。
そこに転がる真新しい死体がいくつか。もちろん妖精ではなく、冒険者の亡き骸だ。
「冒険者は徴税官たちを探しているんじゃなかったのか。それがどうしてピクシーに危害を加える!」
この問いに答えてくれる者は、ここにはもういない。存在した証を残すこともなく消え去ってしまったんだろうから。
いまにも『ドッキリ大成功』とニヤケ顔を見せそうなヤツらだが……、やめておこう。この手の淡い期待はするべきじゃない。
同胞らの遺品がないことを喜ぶべきか、それとも悲しむべきか。
呆然と、変わり果てた自分の住処を眺めていた。現状が安全かの確認すら未だなのに。
焦点は定まらず、でもオレの視点がそこから動かない。
ここに着いてからどれだけ経ったのだろう。ずいぶん長いこと呆けていた気がする。
「一足遅かったニャ」
ボロボロになったケットシーが二名、よろよろと、花の群生地より奥にある茂みから顔を出した。
生存者を見つけるなり、
「——ピクシーたちは?」
と、つい口を突いた言葉を打ち消すように、
「冒険者はオマエらがヤったのか⁉︎ コボルトの魔王はどうした! アイツの咆哮なら対抗できただろ‼︎」
荒い口調で、オレは矢継ぎ早に問いを重ねてしまう。肝心なときに外出していた分際で、それを棚に上げて。
「知るか! いっぺんに聞かれてもわからニャいっつうの!」
「オイラたちもフェアリーに呼ばれて駆けつけたら、もうドンパチ始まってたんでい!」
ケットシーたちは未だ戦闘の余韻が冷めやらぬといった興奮ぶり。おそらく、コイツらにも少なくない犠牲もあったに違いない。
「……すまなかった」
「ぁあ! ニャにが?」
「オレが居なかったばっかりに——」
落ち着いてもらいたくて『もっと被害は抑えられた』そう詫びようとした、が、つづきは眉間スレスレへ突きつけられた猫爪によって遮られてしまう。
はじめて拝むケットシーの鋭い目つきに、オレはなんの反論もできない。
「テメェこら、ニャめてんのか」
「あんまし調子のるニャよ」
あまりに言葉足らず。でも言いたいことはわかった。
自分たちの生き死には自分たちに責任があって、たとえピクシーひとりが居たところでなにができるんだ。おそらくこんな趣旨だろう。
と、ケットシーなりの矜持を示されたところで——
「もうっ。いまごろ来たのー」
フェアリーが。見たところ、避難が間に合ったのかコイツには争った形跡はなし。
「オマエが顔を出すってことは、もう侵入者の対処は済んだってことでいいのか?」
「なにその言い方ぁ。ぜんぶアンタのせいなんだからねー」
あまり健全ではないけど、こうやってプリプリと非難がましくされていた方が気が楽に思えてしまう。
対処は済んだということで、詳しく聞くと、たった数名の冒険者相手に妖精の被害は甚大らしい。
まずコボルトの魔王が仲間を連れて出張った。しかし、冒険者たちは二手に分かれての侵入だったそうで、一組を戦闘不能にしたあと現れた新手を前に敗走。白目剥いたコボルトの魔王を引きずっての撤退戦で、かなりの数がやられてしまったとのこと。
「その時点で、みんな森の奥まで逃げたらよかったのに」
「ねー。でも言ってもあのコたち聞かなくって」
どうしてピクシーたちが戦ったのか?
その答えは、無遠慮に花の群生地へ踏み入られたことにキレたから、だそうだ。
さらに喧嘩っ早いケットシーらも腕まくりして参戦。
よりにもよってここで戦うなよな。とは、さすがに言えないか。
幸いなことにコロポックルは集落ごと無事。フェアリーたちも。だが……。
「ピクシーはオレを含めて五名、ケットシーは二名、コボルトは十も残ってない感じか」
ただ生存者数を把握しただけの、なにげない呟き。
だというのにフェアリーは不思議そうな顔を向けてきた。
「どうした?」
「ん〜、なーんか珍しいなって」
端から具体的な仲間の数を知らなければ、増えても減っても心を病まなくて済む。だからオレは転生してからずっと、そういう諸々を気にしないようにしてきた。
だけど、もう、雑魚だ最弱だピクシーだと自嘲してなんかいられない。
「倉久手メグル。出てこいよ」
「……もういいのかい」
その強張った表情は、オレの覚悟を感じ取ったのか、フルネームで呼ばれたことに違和感を覚えたのからなのか。
なんでもいいさ。オマエのお望みどおりにしてやるよ。だから倉久手メグル、オマエも——
「オレに協力しろ」
「ボクらは、なにを手伝えばいいの?」
「惚けたことを抜かすな。ステータス上の表記だけではなく、本当の意味で、魔王になってやると言ったんだ」
「「「…………」」
倉久手メグルたちがみせる驚きのリアクションなど気にもせず、オレは要求を告げる。
「手始めにオマエが隠してるレガリアをぜんぶ持ってこい」
そうしたら、一年以内に王国を終わらせてやるから。




