王都見学⑥
なんというか、モサモサパサパサしてて顎が疲れるだけ。花の蜜が恋しい。
「……不味いな」
これは冒険者ギルドの二階、宿泊スペースで提供された食事に対しての率直な感想だ。
「まぁ、慣れかな」
「「…………」」
倉久手メグルたちに、不満がないわけじゃないらしい。
パンを食わないピクシー四天王のためにメープルシロップを持ってきてはいる。正直いえば、オレもそっちのご相伴に預かりたいところ。
しかし、すでに森を出て五日目。帰りの分が足りなくなっては困るので、食い物が手に入るあいだは我慢しないと……。
「そういや、オマエらは王宮にも入れたりするのか?」
「そんなわけないじゃん」
「監視の帝国兵はお城でお持て成しされるんだけどね」
「そのあいだ、ワタシたちの見張りは冒険者ギルドが受けもつのよ」
こんな溢れ話からも帝国と王国の力関係が窺える。
あと、コイツらが言ってたこともあながち嘘じゃないと思えてきた。
王国を潰したのち、嘘発見器みたいなレガリアを使って傀儡国家を作れっていう、あれだ。
ハッキリそう言われたわけじゃない。だけど、こないだの話はそういう要求を示唆していて、少しでもマシな滞在環境が欲しいというコイツらの動機は理解もできる。
王都に滞在中は監視の目が途切れるのなら、尚更だろう。
あとは冒険者ギルドをなんとかしてしまうか、もしくは王宮に滞在できるよう便宜でも図ればいいだけ。そういう融通をさせるための、権力転覆。
もしそれが叶えば、あれやこれや隠し事をしていても帝国にも疑われずに済む。なんなら、他の異世界人と密かなやり取りさえ可能だろう。
ただし問題は、オレ自体にやる気がないこと。
前にも触れたけどコイツらとは前世では同胞だった。だがいまは違う。これ重要。
「で、今日はどこに連れていくつもりだ?」
「川と、市場へ」
目的地を告げたあと、
「——あっ。ボクが案内するから」
倉久手メグルは慌てて二人に留守番を頼んだ。
「ほうほう、やはりエッチぃところか?」
「「……はぁ?」」
な、なんでもないです。ただ、水場と市場と聞いて、なんとなくそういう想像しただけで……。
だから千来寺ミナも御三尾チイも、そんなに氷点下の目つきで睨んでくるなよ。怖いなぁもう。
朝食と呼ぶのも憚られる激マズなパン擬きで、腹をパンパンにしたら、お出かけ。
はじめに向かうのは川だそうだ。
せっかく王都に来たのに街を出て、貧民街を抜け、さらに進むと山から蛇行する川が遠目に見えてきた。そこでオレらと倉久手メグルは足を止めた。
「……砂金か」
「うん」
どうしてそうなる? こんなのバカげてる。本当に不快感ばかりが先に立つ。
見るからに非効率な大所帯。ひしめき合う男たちが川で砂を篩にかけているんだ。この光景は、川上に向かってびっしりとつづいていて芋洗い状態。
川に足を取られないようにしながら、ずっと中腰の前屈姿勢か。……あれはかなりキツそうだ。
使う側はタダ同然の労働力だから酷使して、使われる側はなんの見返りもないからと工夫をせず、ここにいる全員が言われたことをこなすだけ。
腰を逸らしてほぐす労働者らに「休むな!」とガンガン怒鳴りける役人風のヤツだって例外なくな。
「たぶん、あの娘のお父さんも……」
ほとんど口にしたも同然だが、倉久手メグルはつづくセリフを自重した。
チッ。もしエルラーレの父ちゃんがここにいたとして、だからなんだっていうんだ。オレには関係のないこと。しょうもない労役を強いられていることには同情するけど、それだけだ。
「ずいぶんとこの国には余裕があるんだな」
「——来るとき貧民街は見たよね」
非難がましい目を向けてくれるなよ。そもそもオマエにそんな資格はないだろ。もちろんオレにもない。
「ここまで効率悪く労働力を割いておいて、それでもごく限られた上層部はしっかりと肥え太り、国体も維持できている。これを余裕と言ってなにが悪い」
「キミはあれを見て、なんとも思わないの?」
倉久手メグルが言わんとするところはわかる。
どれだけコイツが『自分は異世界人』『この世界の人とは違う』と冷めた態度をとっていても、理不尽を目の当たりにして不愉快に感じてしまうんだろう。
「思うさ。で、オマエはなにをした?」
「……」
「聞き方が悪かったか。メグルはなにをしてやりたいんだ? ここで黙るようだと、オレを嗾けるために気の毒な人たちの現状を見せたようにしか聞こえないぞ」
ままならないコイツらの事情の一端は知っているから、ちょっと言いすぎたかもしれない。
でも酷だが、スッパリと割り切るなら割り切っていてほしいし、中途半端な正義感に共感を求められても困る。
得てして、こういう立ち位置のブレは信用をなくすものだ。
「けっこう容赦ないね」
ここでヘタな言い訳をしないでくれてよかった。もし自分たちの境遇を訴えでもされたら、妖精の森に回れ右していたところだ。
冷たいようだけど、倉久手メグルたちと森の妖精たちとを生命の天秤にかけた結果は、語るまでもないからな。
「さっきの感想はポジティブに捉えてくれ。もしオレの気が変わって、もしもカレックス国王を密かに討てたとして、仮に国を乗っ取れたとしよう」
「ポジティブって言う割に、仮定が多いよ」
「まぁ聞けって。その万が一が訪れたとき、いろいろと手の打ちようがあるってことじゃないか。あのムダだらけな労役の光景は」
これでも言いすぎた分のフォローを入れたつもりだ。
慰めではなく実際に、この砂金取りをやめるだけでかなりの効果があるはず。ちゃんと対価を得られるようにして、やりたいヤツだけやればいいとするだけでも生産性は大きく増すに違いない。
「なんでもかんでも一人じゃできない。かといって頭数ばかりが多くてもダメなのは、あの有様が物語っているだろ」
「キミの前世って学校の先生かなにか?」
「違うが……。いまのオレ、そんなに説教くさかったか」
「アハハッ。うん、かなり」
オッサンと言われたようで、少しハートブレイクなぽっちゃりピクシーでした。
——で、終わったらよかったんだが、このあと、もう一つの見学先で想像を遥かに超えた悪趣味を目にすことになる。




