王都見学⑤
出向く先は王都。なにが起こるかわからない。多少なりとも交流のある村へ行くわけではないので、変装には念をいれて。
まず用意したのは靴を履かせた竹馬。あとは手首から先を模ったパーの彫り物に手袋を被せたものも。それらの上からブカブカのフード付きローブを目深に被る。
これで歩いているように見えるし、身長も誤魔化せるという寸法だ。
ちなみに、以上の品々は毎度のことながらコロポックルから提供してもらった。
「オマエらはそのままか? 目立つだろ」
「アンタに言われたくない」
「そうね。アナタの怪しい装いをワタシたちの現地協力者という設定にしておかないと、怪しまれるでしょう」
怪しいって二回も言われた。
この格好、悪い魔道士っぽくて気に入ってたのに。
「「「ぴ?」」」
左右の袖が持ち上がり、袖口からピクシー四天王が小首を傾げた不思議そうな顔を見せた。そう、こうやってローブのなかに控えてもらっているのだ。
◇
森の外の村に着くまでのあいだで、竹馬の扱いには慣れた。いまでは進むたび、靴のつま先が左右交互イイ感じにローブの裾から覗く。
他にも——
「あちらが王都か?」
と訊ねたのに合わせ、バッチリなタイミングで袖が持ち上がり手のひらがを行く先へ向く。
ピクシー四天王に任せた腕部の挙動も、すでに完璧。なんならロケットビンタをかませるくらいの練度でなのである。
「ホント緊張感ないよね、アンタらって」
わかってて聞いたから返事が千来寺ミナの呆れ声でも構わない。
「なるべく不自然さは減らしておいた方がいいだろ。そもそもオレらはピクシー、イタズラ大好きな妖精さんだ。似合わないシリアスなんて三分と保たないぞ」
「……アナタは、ワタシたちの手間を増やさないよう大人しく見学していればいいのよ」
御三尾チイの言いようは素っ気なくも聞こえるが、いちおう、余程のことでもない限りは見捨てないとも受け取れた。
というか、道中、倉久手メグルはほとんど口を開かない。
これは機嫌がどうのではなくて、ただ歩きながらの他愛もない雑談が苦手なんだろう。誰が喋るかも話す内容もあっちいってこっちいってなので、コミュ力不足な者は黙っているのが無難とでも思っているのかも。
森を出てからも、かなりの距離を歩いた。
道中に宿はない。この世界、生まれついた立場に縛られて同じ土地で終生まで過ごすのが基本。よって旅人などいないのだ。
だから野宿したり空き家を借りたり、三泊四日……。
とうとう王都に到着。
その街並みは絵に描いたような雰囲気ファンタジー。いかにもな風景。かえって拍子抜けさせられるほどの。
「なかなか立派な街だな」
「表はね」
なるほど。大通りを少しでも外れると、目を覆いたくなるようなこの国の実情が広がっているわけか。
倉久手メグルの呟きには『そんなリアルさは要らない』という皮肉が含まれているようにも聞こえた。
「なんとかしたいのか?」
「まさか。自分たちのことで手一杯だよ。それに、ここの人たちとボクらは違う」
キミもだろ、そんな同意を求める目を向けられてもな……。
コイツら死んでもコンテニューできる異世界人から見ると、ここの住人はみんな自由意志のない人形みたいに映るのかも。
でも、みんな実在していて、オレからすると倉久手メグルの語り口はやや傲慢にも聞こえてしまう。
それもこれも、この世界に拉致されたという立ち位置に引き摺られた見解なんだから、しかたのないこと。
かくいうオレだって、己の身体に考え方が引きずられているのを否めない。
こうやってノコノコと王都まで来てしまう危機感の足りなさは、まさに能天気なピクシーそのもの。そもそも妖精という種は自分の生命にそれほど重きを置いていないように思う。
かつての感覚がピリピリ『しっかり考えてから行動しろよ』と咎めてくるが、それも囁き程度で、本能に基づく好奇心の方が影響は大。
やはりコイツらとは思考回路そのものが違うんだな。
「オマエの言うとおりだ」
すげなく仲間意識のないニュアンスで返したにも関わらず、倉久手メグルは満足げに頷いた。
さて、王都に着いて最初に向かったのは、
「ほほーう。ここが」
冒険者ギルドだ。
テンプレっぽく受け付けと酒場が併設されているなんてことはなくて、極々ありきたりな職業斡旋所みたいな雰囲気。
いくつも要件別のカウンターがあり、手狭。ただ、二階三階と上の部屋もあるようだ。
「ここなら食事も休む場所も無料で用意してくれるから」
「ん? メグルはカネ持ってないの?」
「ボクらの行動範囲を絞りたいのさ」
「もしオマエらと外で逸れても、最寄りの冒険者ギルドで待ち構えていれば見つかると」
「監視の立場からしたら、そうなるね」
協力者という体のオレにも、特別な手続きなく寝床を提供してくれるらしい。これを太っ腹というか、徹底していると言うべきか。
勇者一行に便宜を図るという建前で、帝国が運営する冒険者ギルドで寝泊まり……。
「住み込みバイト、いや、まるでタコ部屋みたいだ」
「ひどい喩え」
苦い笑みを浮かべた倉久手メグルの後ろに怖い顔が見えたので、軽口はこのくらいにしておいて視点を変える。
「へえ。依頼の掲示板なんてあるのか」
そこには誰もいなかったのでウキウキと近寄ってみたが……、うん。読めない。
「ええと『捕獲依頼。王国南方、妖精の森において、肥満体のピクシーの目撃情報が多数寄せられている。件の魔物の捕獲を求む。態度は尊大、されど危険度は極小なり。デッドオアアライブ』と書いてあるわ」
御三尾チイの読み上げに一瞬ドキリとさせられた。
だがな、適当に言ったのなんてバレバレだ。なんだよ、デッドオアアライブって。妖精さんは死んだら綺麗さっぱり消えちゃうんだぞ。
「そういう冗談はよせ」
「フフッ。でも妖精の捕獲依頼なのは本当よ。誰もやりたがらないみたいだけど」
「どうして?」
「アンタのせいでしょ」
明け透けな口調でオレの疑問に答えたのは、千来寺ミナだ。
「妖精を捕まえにいった冒険者、みーんな裸にひん剥かれて放置されたって噂になってたもん」
「生かして帰すだけマシだろ」
「アハハ、そうでもないかな」
「ええそうよ。所持品も装備も失い身持ちを崩して、しかも妖精にコケにされたのだから、無事に戻れても立つ瀬ないでしょうね」
ほうほう。ひん剥いた妖精拐いどもは、パンツ一枚で王都までトボトボと帰ったわけか。しかもひもじい思いまでして。
で、プライドはベキベキにへし折られて仲間内ではバカにされ、挙句この土地にいられなくなってしまったと。
ぜんぜんそこまでは考えてなかったけど……。
「ククッ。いい気味だ」
おい、そんな『性格ワルッ』みたいな顔を並べるなよな。被害者はこっち。攫われそうになったからこその対応なんだぞ、まったく。
風評被害についての是非はともかくとして、倉久手メグルたちがオレを転生者かもしれないと目星をつけた原因はこれで間違いないだろう。
たしかに、社会的な抹殺で報復する魔物がいたら、そう考えても不思議じゃないよな。




