王都見学③
どうして倉久手メグルはオレらと王国との対立を望んでいるのか?
もし聞いてみても信じられる答えは返ってこないだろう。これは相手の誠実さに問題があるわけじゃなく、ただ単にオレがコイツらを信用してないだけ。
「どうせオマエら、オレらを目立たせてデコイにするのが目的なんだろ。あとは裏切れないようにして退路を塞ぐとかか」
パッと予想できたものを口にすると、
「ん? べつにミナは美味しいゴハンとお風呂が欲しいだけだけど」
「確かに魅力的ね。やはりいくら個室とはいっても、そういうときに、ワタシたちが休める宿ではちょっと……。あっ、でもべつに倉久手くんの甲斐性についてなにか言ってるわけじゃないのよ。ただ、その、ねぇ」
ハァ〜。心底アホらしくなる要望を聞かされてしまったぞ。
つまり、しけこめる部屋が欲しいと。まぁ歳相応のお悩みなんだろうけどさ。
「うーわ。でたよビッチィ。ミナは生活環境のこと言ってるのに、な〜んでエロい話になっちゃうかなぁ」
「言いがかりはやめて、ジミナのくせに!」
さっさと止めろよと倉久手メグルを見やれば、参ったなとでもボヤきたそうな困ってない困り顔。
「千来寺さんも御三尾さんも、気持ちはわかるけどいまは時間をムダにしたくない」
「「……はい」」
しおらしくしてみせる女子二人。
この倉久手メグルの余裕っぷりにイラっとくるのは、前世の非モテというオレのカルマが原因なんだろうか。
「否定はしないんだな」
「ボクも、監視の目を気にしないで寛げる場所は欲しいから」
惚けやがって。
でも嘘ではないらしい。ただ、極めて短期的な希望を述べただけ。
長い目で見たときになにを求めてくるのか……だが、そんなことは考えるまでもない。そろそろハッキリ言ってやるべきか。
「オレらが王国を相手取れると仮定して、勝利条件はなんだ? 泥沼の抗争なんてごめんだぞ」
「泥沼になんてならないよ。皇帝からレガリアを与えられた唯一人、カレックス国王を倒せばキミの勝ちだ」
「ああ確かに独裁国家みたいな体制なんだから、斬首作戦は有効だろうさ。でもだ、」
オレが言葉を区切ると、つづきは倉久手メグルが巻き取る。
「レガリア自体は皇帝の元にある。だから特別なスキルはないはず」
「……そうか。当たり前だよな。普通にそうするか」
皇帝が配下にレガリアの所有を許したとしても与えるのは支配力に限り、その所持を認めなければ、国王個人として特別なスキルは得られない。そういう話をされた。
しかしオレはステータスの魔力値が増えるのを知っている。倉久手メグルに自覚があるのかは知らないが、元から強い人間なら、それだけでも充分な脅威だ。
これを伝えるべきかは迷うところ。でも聞いてばかりというのも良くない。
「知ってるかもしれないけど、レガリアを所持すると魔力は増すぞ」
「……魔力?」
ステータスを見てなければ、そういう反応になる、ん、いいや待て。
「オマエ、そういう不必要なスッ惚けは信頼をなくすぞ」
「ごめん。試すつもりじゃなかったんだ」
だったらなんだよ。
「やっぱり鑑定の皿はキミが所有したんだなって」
「こっちこそやっぱりだ。メグルみたいなヤツが、手に入れたアイテムを試しもせずに渡すとは思えないからな」
「アハハ」
笑って誤魔化すな。まぁ、説明の手間が省けるし、それでいいや。ついでに話もお終いでいい。
「じゃあそういうことで」
「——待って待って、話を打ち切らないでよ」
「まだなんかあるのか。ただでも強い人間がレガリアを所有して魔力が倍増してるんだぞ。か弱いピクシーが勝てるわけないだろ」
「もし勝てたとして、統治に役立つレガリアがあったとしたら」
同種でなくても支配力が及ぶ……、違う、統治に役立つと言ったな。
「メグルみたいな嘘つきを見破れるのか?」
「…………」
なにを黙りこくってるんだ。
「おい、いまのは軽い皮肉だぞ。妖精さんジョーク。いちいち真に受けるなって」
「驚いただけ。キミの言い当てたとおり、嘘をつけなくさせるレガリアがあるんだ。それをいまボクらは手に入れようとしている」
そいつは皇帝に提出しなきゃなんだろ。その設定はどこいった。
「別のレガリアを渡すから大丈夫」
「ふーん。オレに預けた他にも持ってるんだな。ああいい、いい。隠すつもりじゃなかったとか言いたいんだろ。ぼっち特有の言葉足らずと受け取っておくから気にしないでくれ」
「……うん」
いまのは効いたようだ。
誰から聞いたのかは、うん、黙っておくのが身のためっぽい。千来寺ミナの鋭い目が『喋ったら、わかってるよね』と告げてきてるからな。
「とにかく、そのレガリアをキミに渡せばボクらを信じてもらえると思うんだ」
それはどうだろう。事前に所有して抜け道がないかを試しておくくらい、オレでも思いつくぞ。こんなこと言い出したらキリがないか。
「実は、すでに冒険者や王国の兵士を手薄にする方法も考えてある」
倉久手メグルはどうあってもオレに奮起させたいようだ。
「オマエは『はい』と答えるまで同じ話を繰り返すつもりか。勇者のする嫌がらせじゃないだろ、それ」
「ハハッ。そうしないと物語が進まないからね」
「オレはそれでも一向に構わないんだが」
「いまのままだと後手後手にまわるだけだよ。少なくとも、あの村は……」
あながち間違いじゃないから腹立たしい。
「ホント、メグルって性格悪いな」
「それは『はい』と受け取っても?」
「違う。勘違いするなよ、王都見物くらいは付き合ってやると答えたんだ」
ということで不本意ながら、ぽっちゃりピクシー大都会へ行く、が決定した。




