王都見学②
聞けば聞くほど、確かに……となった。
魔法により山をも穿つ個人、剣や槍を携えて大型肉食恐竜サイズのドラゴンすら屠る個人、この世界の人間は同じ種なのに個体差が開きすぎている。
加えて、知性にはそのまでの乖離がない。だから支配という構造は成り立つ。しかし集団を形成する重しとなるのは血統でも神託でも、ましてや民意でもなく、純然たるチカラに依るわけだ。
オレが学んだ人類史とはまるで異なる統治体制が敷かれていて当然。だからこそ、
「……確かに」
と納得するわけだ。
つまり、この世界は暴力、それも埋め難いチカラの格差によって支配されているのか。
「全人口の数パーセントが世界の半分以上を自由にできるという点においては、ワタシたちのよく知る『お金持ちよりお金持ちにはなれない』世界観と変わらないわ」
なるほどと腹落ちした。
しかし御三尾チイ、オマエは高校生のくせに考え方がスレすぎじゃないか。
「もし王国を滅ぼしたら、新たな国王を据えて領土を取り返せと命じるかもしれない。他の国に切り取り自由と告げるくらいはするかもしれない。それでも帝国自体は動かないとボクは思う。レガリアが絡まない限りは」
聞くと、帝国の周辺にあるいくつもの王国は収奪の地としてだけでなく、周囲の魔物に対する緩衝地帯としてみなされているとのこと。
かといって、大々的な武装組織などは有しておらず、それを維持するチカラがそもそもないそうだ。
では、防衛を担うのは——
「魔王には異世界人が、村々を荒らす魔物には冒険者が対応している」
冒険者ギルド。これが雑多な魔物対策を担うんだそうだ。
この仕組みがかなりの悪辣で、被害が出てから都度の討伐依頼をすれば済む。維持費が不要なのはもちろん、採用から教育までのすべてを省けてしまう。
そうとなれば為政者は飛びつく。そして、腕に自信があるものは効率よく稼ぎたいとギルドに取られていく。
多額の防衛費を他国に支払い用心棒をしてもらうのは前世の現代社会でもあったことだし、古くは傭兵と似たようなものか。
「運営は帝都が一括していて、各地にある冒険者ギルドは下部組織って聞いた」
より効率的に現地の富を吸い上げる仕組みなんだな。しかも被害も犠牲もコントロールできるのだから、言われた額を払うしかない。
「だったらむしろ、王国としては自衛のために男手を村に残した方がいいんじゃないか?」
「そんなことを考えるような人種じゃないよ」
少し言い淀んだ倉久手メグルは、
「キミも言ってたじゃないか、現物もないのにマニュアルを音読されてるようだって。だから一度、この世界の人間を自分の目で確かめてみたらどうかな」
ちょっと露骨すぎる提案をしてきた。
「オマエ、オレを誘導しようとしてるだろ」
「そんなつもりはないよ。ただ、」
つづく言葉は想像がつく。
「キミらの森と、あの村を守るために王国はどうにかしなくちゃならない」
徴税官らの未帰還を受けて調査の手は入るかもしれない。それくらいは考えていた。
だから妖精の森に入って以降に、消息が途絶えたと口裏を合わせたんだ。
「尖兵は冒険者か?」
「どうだろう。彼らも討伐した証明が必要だから」
死んだら綺麗さっぱり消えてしまう妖精は、連中の討伐対象にはならないってことか。いいや、依頼内容が調査なら行方不明者の身柄があれば問題はない。楽観視はできないな。
「ボクらも統治の事情に明るいわけじゃないし」
「詳しい人ならいるでしょう」
御三尾チイの言う詳しい人とは、牢穴の底にいる徴税官を指しているに違いない。でも会わせてやらないぞ。
「却下だ」
「なぜ? アナタたちにとって、けっこうな危機が迫っているというのに」
「どうせ聞くだけ聞いたら消すつもりだろ」
当たり前のことだと頷く女子二人。だから怖いって。
「うまい具合に王国と話をつけられないのか? 幸い生け捕りにしたんだ。それにオマエら勇者なんだろ、渡りをつけてくれよ」
「ミナたちにそんな権限あるわけないじゃん」
千来寺ミナはバッサリと。
とするとオレの出せる結論は……、
「最悪、村人は森に避難させる」
問題の先送りだ。
「魔王らしく滅ぼせばいいのに」
ステータス上は否定できないが、オレはそんなもんになったつもりはないぞ。
「まだこの世界の人間の薄汚さを知らないのでしょう。幸せなことね」
「二人とも。彼が守りたいと思っている人だってこの世界の人なんだよ。そんな言い方は良くない」
できるできないは別として、ずいぶんと引っかかる言い方をしてくれる。わざとか?
「勝手に決めつけるな」
「決めつけ、かな。ここへ避難させようと考えてる時点で——」
「ああもう! いちいち話が飛躍してるんだよ。避難民の受け入れ先イコール交戦国と言ってるようなもんだ。暴論すぎるだろ。そもそもの話、人間の国に抗えるほどのチカラなんかオレら妖精にはないんだぞ」
かなり強く言って、ようやく倉久手メグルたちは黙った。
これほどまでに異世界ナイズされてしまった境遇には同情するけど、だからってオレらを巻き込まないでくれ。
とはいえ、レガリアをまとめて返してお帰りくださいってわけにもいかず……。正直なところ守るチカラは必須で、コイツらを敵まわしたら脅威なのも確か。だからだ。
「しつこくしてごめん。だけど言わせてもらうね。キミは自分の目で、王国がどういうことをしてるのかを確かめてみるべきだ」
どういうつもりで言ってるんだよ。オレの義侠心にでも期待してるのか?
「ハァ〜。あのなぁ、もし奴隷が鞭打たれて強制労働をしいられている場面を目の当たりにしても、気の毒に思う以上の感情は沸かないぞ」
「そこに、村の子供の父親がいたとしても?」
チッ。倉久手メグルめ。
「……嘘をつくのはよくないな」
「誤解だよ。こちらから村の緊張感については聞いてない。これは本当だ。ただボクらが森に入ろうとしたら、」
エルラーレあたりが話しかけたのかも。
「妖精さんをイジメないでって」
やっぱりか。
あとは村の男手が極端に少ない様子から推測してブラフをかけてみた。おそらくそんなところだろう。
「オマエさぁ、あまり幼気な少女のお願いを無碍にするもんじゃないぞ」
「どういうこと?」
「自覚がないのか。いままさに妖精さんをイジメてる真っ最中だ」
「……ハハッ、心外だな」
もっと悪びれとけ。面白そうにするな。




