王都見学①
頬が腫れてるとか青痣をこさえているだとか、倉久手メグルたちにそういった目立つ外傷ない。しかし、かなりのことをされたのだと瞳の仄暗さが物語っていた。
「やっぱりコンテニューのあとは、レガリアの所有が解除されるんだな」
「うん。ここへ来る前に監視を撒こうとしたら……」
つづく話をまとめるにあたり、まず前提を。
基本的に魔王を倒すには、周りの配下をほぼすべてを排除しなければならない。だから手間も時間がかかるとのこと。
これについては自分の立場で考えてみればわかりやすい。もしオレが襲撃者を迎え撃つ場合、他のピクシーたちと協力して事に当たる。そう考えると魔王の首を直接狙うなんて至難の業だ。
こういった状況を利用して監視の目を振り切ろうしたらしく、倉久手メグルたちは魔物を避けつつ強引に進み、帝国兵を置き去りにしようとした。そして失敗。死んでもコンテニューとなったんだそうだ。
「でも二度目は上手くいった」
となると、しばらくは自由に動けるわけか。
しかし……、あれだけ喧しかった千来寺ミナと御三尾チイが大人しい。
「アハハ、まぁすぐに元気になるから」
乾いた笑いが虚しく聞こえた。
倉久手メグルが言っているのは、レガリアを再び所有して『その影響下に置けば』という前置きがある。
でもどうなんだろうな。それって本当の意味でこの娘たちにとっての救いにはなっていない。
……いいや、これは余計なお世話か。そんなことくらいきっと本人も納得づく。
だとしても、かつてのように明るく振る舞っていてもらわないとコイツ自身がやってられないんだろう。
「自己満足だと笑ってくれてもいいよ」
どこを笑えと。
「レガリアは前に話したところに置きっぱなしだ。案内する」
その場に着くなり、倉久手メグルは花に埋もれた『闇の石板』を手にして「所有する」と呟いた。つづけて、
「千来寺さん、御三尾さん。〝このことは内緒にしてね〟」
ハッキリとした優しい声音で。
すると途端に女子二人のツヤ消しされた瞳に光が戻り、それは瞬く間に危ない色へと染まっていく。
「許さない許さない許さない、絶対に許してやらない」
「殺さない殺さない殺さない、楽には殺してやらない」
怖い怖い、怖いって。
せめて依存先に甘えるくらいの可愛げをだなぁ……、ハァ〜。
「怖い思いをさせて、ごめんね」
この倉久手メグルの語りかけは、もちろんオレへではなく、元気に呪詛の念を口にする連れの女子二人に向けて。
いまさらながら知った。オレとの接触には途方もないリスクを負うのだと。
「しかしスゴイものだな。レガリアの拠り所としての影響力は。あれほど鬱になってたミナとメグが——」
「その話やめて!」
「本当に余計なことしか言わないのね」
やっぱり落ち着かせるのは、ここを去る前の方が良かったんじゃないか。
見たまんまの精神状態でないのは、倉久手メグルの左右にベッタリ侍っていることからもわかる。おそらく、もう大丈夫だという虚勢だ。
「こっち見るなっ」
「あまり不躾な目を向けないで」
はいはい、すみませんね。
ここまで邪険にされると気を使うのもバカらしくなる。なのでオレはゴロリと寝転がり、涅槃ポーズで茎ストローの先をしゃくった。が、
「前向きに考えてくれたようで、嬉しいよ」
「どうしてそうなる⁉︎」
突飛な結論を突きつけられ、すぐさまコロンと身体を起こすハメに。
「だって、さっきの穴は牢だよね」
コイツどこまで調べてからここに来たんだ?
「話を聞いたりはしてないよ。でもボクらが通っただけでも、村の人たち、ものすごく身構えてたから」
あとは、残してきた馬を見ての推測なんだろう。他人の足元ばかり見やがって。
「オマエさぁ、そういう交渉の持っていき方は良くないと思うぞ。互いの利点を提示したうえで進めていくのが大人の取り引きというものだ」
「その大人になれないまま、ずっとボクらはこの世界に囚われている」
「……だったな」
オレを頷かせるために最善を尽くしたまで、か。
「正直ぜんぜん判断材料が足りてない。メグルには悪いけど、こっちはかなりの面倒事を背負い込んだばかりだ」
よって、妖精の森を守るために帝国とやらに頭を下げ、今回の王国との件を執りなしてもらうという手もあり得るわけだ。
あくまで可能性としてだけど、それくらい返答に困っていると言外に忍ばせた。
すると予想どおりジロリ。千来寺ミナからも御三尾チイからも物騒なマネをしかねない目つきが。
しかし倉久手メグルは穏やかさを保ったまま。
こっちが火遊びみたいな駆け引きをしたがってるわけじゃないのを察してくれただけで充分だ。
「たぶん、王国を滅ぼしても帝国は動かないよ」
「は?」
「キミが思っているような世界じゃないんだ、ここは」
ぽっちゃりピクシーに転生した時点で、想定もなんもない、摩訶不思議なゲーム的世界だということくらい知ってるつもりだが。
「違うよ。まだ歴史の授業で習ったような人間社会があると考えてない?」
レガリアという権威を魔法的に叶えてくれるアイテムがある。ついでにモノによっては実行力も得られる。
この前提を踏まえたうえで、皇帝がいて、国王がいて、家臣や臣民がいるんだから、なにも違ってはいないんじゃ……。
「絶望的なチカラの格差で成り立つ、古代エジプトとローマを混ぜたような支配体制というとわかりやすいかも」
倉久手メグルは、寄り添う賢そうな方に答え合わせの目を向けた。
しばし御三尾チイは考えたのち、
「……そうねぇ。神権的専制で周辺の衛星国から搾取しているから、あながち的外れと言えないわね。けれど、やはり特筆するべきは神話のような軍隊で治めているところよ」
と。さらに、
「アナタも理解しているとおり、一騎当千の戦士を、極めて属人的な集団を抱えているの。だから組織というより、強大な支配層が武力を備えた個人を多く囲っているという方が正しいわ」
なるほど、コイツらの年代だと知らないのも当然だが、オレのなかではもっとわかりやすい例が挙がった。
——世紀末、もしくは修羅の国。
これはもっと詳しく聞かないと、なんとも判断できなくなってきたぞ。




