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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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穴牢の底にて②


 コボルトとケットシーが材料を揃えてくれたところで、ではさっそく。


「オマエら人間も、灰を混ぜた上澄みを煮込んで石鹸を作るんだろ?」

「「「……」」」


 倉久手メグルたち以外にも異世界人がいるんだ、それくらいはもうやってるだろ。

 一瞬『もしかしたら魔法の電気を利用してたり』との考えと頭をよぎったが、だったら、こないだ説明があってもよかったはず。

 徴税官たちの持ち物や村の暮らしぶりからだけでは断言できないけど、聞いてないのが証拠とばかりに話をつづけた。


 というか、どちらでもいい。作り方など本題ではないんだ。実演してみせること、なにを目的としてかをハッキリ見せてやることこそが重要。


「この水も似たようもんでな、油を混ぜてやると石鹸になる」


 本当は混ぜながらグツグツしなきゃならないので、非常に危険な工程。それをいまは伝えない。

 地面に転がる三人の目の前に、皿を置き、匙で掬った強アルカリ水をポタポタと……。


「気をつけろ! 飛沫が目に入っただけでも一大事だぞ」

「「「——ッ」」」


 脅かすように声を張ると、三人一斉に固くまぶたを閉じ、おかしな角度まで顔を背けた。

 そのさまを、


「ビビリすぎだニャあ」

「「「ぷぷ〜う」」」


 ケットシーたちとフェアリーたちが煽る。

 というかギャラリー増えてないか。まぁいいや。


「冗談で言ってるわけじゃないぞ。ホントに危ないから遊び半分で触るなよ」


 揃ってコクコクコクと。

 こうやって、ちゃんと注意をすれば聞き入れる連中だからな。

 さてと、問題は目を瞑った三人だ。これだとつづきを見せられない。


「目を開けろ」


 と言ったところで、目どころか、鼻の穴までもシュッと縮めてる始末。


「言うこと聞けないなからしかたがない。おいケットシー、この人間たちは目蓋が重いみたいだ。手伝ってやれよ」

「しょうがないニャー」

「「「————ッ⁉︎」」」


 きっとシャキーンと伸びた猫爪を思い出したらしく、頑なに瞑られていた三人の目が、こぼれ落ちそうなほどにカッ開いた。


「見逃すなよ」

「「「——ン、ン、ン」」」


 鼻息だけで返事をするさまを見て、今更ながら、首から下を埋めてから見学させてやった方が効果的だったかと思いつく。

 ダメだなぁ。オレもストレスを溜めたせいで、だんだんと物騒な思考に偏りはじめてるのかも。


 気を取り直して、実験再開。

 強アルカリ水の皿に油を垂らす。つづけて匙で混ぜ混ぜ。

 なかなか反応は起こらない。正確に表現するなら、目に見えるほどに、という注釈をつけるべきか。

 しかしいいのだ。オレの意図としては、じわじわを強調したいのだから。


「「「…………」」」


 なにも起こっていないと見るや、徴税官は少し肩を抜いたらしい。

 わくわくして待っていた妖精の面々も飽きたようでどこかへ行ってしまった。それでも延々と混ぜ混ぜ……。

 するとやがて——


「少し白っぽく、とろみが出てきただろ」


 どうやら兵士の一人は、オレがなにを示唆しているところを理解したようだ。もし靴を舐めろ言えば迷わず舐めてきそうな、そんな慈悲を乞う目を向けてきた。

 狙いどおりなんだが、ただ単に不愉快なだけ。オマエはそういう目をずっと無視してきた立場じゃないか、と。


 まだ想像が及ばない二人のために、新たな皿に干し肉を一枚。そこへ強アルカリ水を匙三杯分。


「これがオマエらの運命だ」


 ずいぶんと芝居がかった言い方をしたのに、皿の上ではなにも変わりはない。

 しかしコイツらは目の当たりにしたんだ、油と強アルカリ水がじわじわじっくりと石鹸と化していくさまを。

 

「では、のちほど」


 放っておいても暴れたりはしないだろう。手足が縛られていて口にはボロ布が詰められている。なにより、一番問題ありな徴税官の手首は折れたままなんだから。



 翌日——

 輪郭がドロドロに溶けた干し肉を放心状態で眺める徴税官と兵士二人。一晩中泣き明かしたのか、顔がめちゃくちゃ汚れている。


 大勢で囲んだ方が圧をかけるのには都合がいいんだろうけど、そろそろ話をしたい。なので、ここにいるのはオレとコボルトの魔王二名。

 口に詰めた布を取るように頼むと、さすがにコボルトの魔王でもバッチィと思ったのか、取り出した途端に掘りっぱなしの穴へ放り込んだ。


「朝食はいかが?」


 ニッコリ丁寧に訊ねてやったというのに、


「「「……ッ」」」


 怯えた顔をされてしまった。カッサカサな唇を震わせていて、歯もガチガチと噛み合わない。

 まっ、勧めたのはドロドロ干し肉と石鹸スープだから当然の反応か。


 さっそく命乞いをはじめるのかと思いきや、


「「「…………」」」


 ダンマリがつづく。どうにもクスリが効きすぎたらしい。

 聞きたいことはある。しかしそれを先に伝えてしまえば、変に話を引き延ばされたり勿体つけられかねない。そんな面倒な交渉はごめんだ。

 とくに、徴税官はいろいろとズレたヤツだからな。


 ひとまず雑談でもしてみるとしよう。


「質のいい石鹸を作りたいんだけど、大量に油を絞るのも一苦労でな」

「……ま、まさか、我らにそのような労役を課すつもりか」


 んなわけあるかい。


「搾るのは得意だろ。糊口を凌ぐのもやっとな困窮した村からギュウギュウと税を搾り取ってたじゃないか」

「「「……」」」


 キョトンとされたのに、イラついた。

 オレの小粋な皮肉を理解できなかったからではなく、きっとコイツらは一つも悪いことをしたと思っていないんだ。


「わざわざ油を絞る必要もないか。目の前に、たっぷりと脂の乗った材料があるんだからな」

「「「——ッ」」」

「不純物塗れな臭い石鹸になりそうだが、ククッ、雑巾を洗うくらいだったら使えなくもないか」

 

 じわりじわりと生きたまま溶かされ、挙句は汚水に浮かぶ(あぶく)とされる。そんな最悪の未来は想像できたか?


「わ、私は王国の徴税官だぞ! そのような——ギャ」


 兵士二人が海老反りからの頭突きで黙らせた。

 ……そうか。その手があったな。


「では希望を与えてやろう。オレは世間知らずでな、だから興味深(おもしろ)い話を聞きたいんだ。一日たったの三つでいいぞ」


 徴税官を見下ろし、


「オマエらが知らないことでもコイツなら知ってるはず。こっちが外の常識を知らないと、捕虜返還の交渉もできないだろ」


 他の二人に語りかけた。オマエらで尋問しろと、僅かな希望(どく)を混ぜて。


「おおっと、オレは暴力を好まない温厚な妖精さんだ。なのでオマエらにも乱暴なマネは謹んでもらう。なぁに、優しく手首の怪我を撫でてやるだけで、感涙してベラベラと喋ってくれるはずさ」

「「…………ッ」」

「返事は?」

「「やらせてください!」」

「貴様ら——グェッ」


 再び兵士二人らが左右から額でゴツンと。


「ククッ、キミたちぃ暴力はいけないよ」


 さぁて、これでどんな話が引き出せるのやら。楽しみだ。


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