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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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村娘エルラーレ③


「「「…………」」」


 全員が沈黙した。オレも含めてだ。


 おかしいぞ。

 連れてきたピクシーは四天王。とはいえ、そんなものは名前だけのお飾り態度で他と大差ない。電撃の出力も、兵士をびっくりさせて行動阻害できれば御の字と思っていた。だからこそオレも足しになるようにと発電したんだ。

 しかし結果は、白目を剥いた兵士が後ろへパタリ。

 生きてはいるはずだけど、それにしたって大勢でやったのと変わらぬ威力っていうのはどういうわけか?

 これまでとの違いはオレが参加したかどうかだけ。となると、もしかしたら理力値が仕事した?


 そういったすぐには判断できない疑問は後回し。

 なんにせよ好都合だ。とりあえずは『オレら怒りで覚醒しちゃった』的な解釈に留めておく。


「——な、なんなのだ此奴は! 赤ん坊が喋ったのか! もしや新種の魔物⁇」

「違います。ご覧ください羽が、ソイツは妖精、ピクシーです!」

「このデブがピクシーだと⁉︎」


 おいコラと、いつもならお約束のブチギレで髪を逆立てるところだが、そんな余裕はない。


「徴税官殿、もしやピクシーの珍種なのでは?」

「フンッ。まぁなんでもよいわ。捕らえよ」


 驚くことに、なんでもないふうに言ってのけた。

 コイツはすでに連れの兵士二人のうち片方を倒されていることを理解できてないのか?


「これ、なにをしておる。さっさと捕らえぬか」


 さらには村人に対しても、さも当たり前のように命じる始末。

 ついさっきまでの文脈すらわかろうとしていない。お断りって拒絶されたばかりだろうに。


 こういう会話が成立しないヤツは非常に危険だ。喋るたび内容を捻じ曲げて、都合のいいように捏ち上げを繰り返す。それを疑いもせず真実として。

 そうやって行き着く先が『この村は謀反を企てている』だもしても不思議じゃない。これはマズイ。


「——二人とも逃すな」


 オレが出した指示に、


「に、逃すなだと……。羽虫の分際でぇえええ! 私自ら捻り潰してくれるわ!」


 徴税官は激昂。無防備にズンズン近寄ってくる。

 

「おいおいおい、捕えるんじゃなかったのか?」


 しかも腰に下げた剣を抜いておいて捻り潰すはないだろ。言ってることめちゃくちゃだ。


 諸々のツッコミをしてる場合でもないので、オレはバンザイジャーンプ! ののちに空中遊泳で真上へ向かってクロール。

 ちょうどこっちが頭一つ分高い位置に達したところで、相手の間合いに。徴税官は思いっきり上段に剣を振りかぶる。

 そこで『いまだ!』と——バサリ。脇下で結んで服代わりにしてた布を解くなり、


「ヌワッ」


 顔面に向け、端を投げつけるようにして広げてやった。

 結果は大成功。突然視界を遮られた徴税官はワタワタ踠く。

 本来なら追撃に水でもぶっかけてもっと苦しめてやりたいのだが、手元に水もないし、


「ちょ、徴税官殿!」


 残りの兵士が救出に駆け寄ってきたから、こっちの対処が先。

 コイツのなかでは、まだ『妖精を捕まえろ』という命令が生きているのか、鞘に納めたままの剣を手にしている。


 その間にオレらは、いったん手の届かない空中へ離脱。

 葉っぱ一枚のヤツに見下ろされてるのがよっぽど気に食わないのか、徴税官は剥ぎ取った布を地面に叩きつけ踏んづけ、


「降りてこい! 貴様らまとめて撫で斬りにしてくれるわ!」


 こっちに切先を向けてギャンギャン喚く。

 その無様を、オレの周りに浮遊するピクシー四天王たちが挑発につぐ挑発。

 具体的には、大物ぶって腕を組みアゴをツンとしたり、自分を抱くようなポーズでカッコつけてみたり、アッカンベーをしたり、お尻ペンペンをしたり……。

 ホント楽しそうだな、我が同胞たちは。

 

 とにかくだ、倒すべき順番はハッキリした。

 指示は小声で手早く。


「兵士からやるぞ」

「「「ぴっ」」」

「おそらくヤツは徴税官の側を離れることはない。とするなら、わかるよな?」

「「「ぴぴ〜ぃ」」


 ニンマリ悪い顔しちゃって。

 では、オレも役目を果たすとしよう。


「卑怯者め! 降りてこぬか!」


 喚く徴税官に対して、両手を耳の裏に当てて聞こえない聞こえなーいジェスチャー。その際、変顔のオプションを忘れてはならない。


「——バカにしておるか!」


 まったくもってそのとおりなので、うむうむと大仰に頷いてやった。


「クッ、キィイイイイーッ!」


 ダンダン地団駄踏んで。子供か。


 こうやってオレが注意を引いているあいだに、ピクシー四天王は標的二人囲む位置取りを済ます。

 そんなことは当然兵士も気づいているだろう。だが距離を置かれた四方に居られては対処に困るよな。忙しなく警戒して、ククッ、ご苦労なことだ。

 さらに意地悪く、


「ぴひ〜」


 と、近づくフリをしてみせる一名のピクシー四天王。

 そちらへ兵士がキッと注意を払うなり、こんどは別方向のピクシー四天王が、にじり寄る気配を放ち、ギロッと見咎められてビタリ。

 ダルマさんが転んだのつづきかよ。まったく。

 

 さて、たかがピクシー如きに武装した兵士がどうしてここまで過敏になっているのかといえば、たぶん誤解をしているからだ。

 同僚兵士を失神まで追い込んだ一撃。あれをピクシー四天王たちがやったものだと思い込んだに違いない。

 オレはあのとき『やれ』と言い、それに応じたピクシーたちがやった、という勘違い。


 もちろんつけ込ませてもらう。

 そのあたりは、我が同胞たちの最も得意とするところ。

 腕をフニャフニャさせたり、指でツンツンする仕草をしてみたり、手をワキワキさせてみたり。浮遊してるくせに足を一歩踏み出そうとするいやらしいパフォーマンスまで。


 あっち向いてこっち向いて……。上から見てると、兵士はまるで野球のピッチャーだな。

 満塁のピンチ、マウンド上の走者たちが、それぞれ露骨なリードや悪態で送球ミスを誘う。そんなストレスフルな展開に追い込まれていた。


 さぁて、まだまだ根比べはつづくぞ。


「クフッ。お気の毒さま」


 オレは兵士を煽ったつもりだったのに、


「——ええい、あの娘を人質にとれ!」

 

 なぜか徴税官がブチギレた。


「貴様を人質とする。こちらへ来い!」


 よりにもよって村娘のエルラーレを指差して。


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