村娘エルラーレ①
「すごいすごい! ぽっちゃり妖精さん、空を泳いでる!」
「だろ」
道案内をする村娘にドヤッと返しはしたが、ピクシー四天王たちの方がよっぽどすごいぞ。
だって飛ぶだけじゃなく、まるでドローン。思うがまま縦横無尽に機動できてるんだ。しかもめちゃくちゃ軽やか。
万が一、妖精拐いに出会しても逃げ切れそうだ。捕まえる難易度は、宙を浮く綿毛を掴む以上だろう。
対してオレはといえば、クロールに背泳ぎにバタフライ、平泳ぎと合わせて個人メドレーの泳法はすべて制覇したが、
「楽しそう」
……村娘の歩みと大差なしの空中遊泳。
ちなみに、森の外へお出かけということで葉っぱ一枚スタイルではなく、羽を巻き込まないよう布を脇の下あたりで括ってあるのだ。
チューブトップのワンピースみたいなのは気になるが、いつものほぼ全裸よりはマシだろう。
「しかしオマエ、よく道を覚えられたな」
「うん。なんとなくだけどね。あとお日様も見てるから、平気!」
それって平気じゃないやつ。
「太陽は動くぞ」
「それくらい知ってるよーだ」
案外、逞しいのかもな。
こんなふうに他愛もない会話を交わしつつ森を進むことしばし……。道なき道は、やがて獣道となり、そして——
「見えた! あれがあたしの村!」
先触れにってわけじゃないだろうが、村娘は知らせに走ってくれた。
「みんなー、ぽっちゃり妖精さんたち連れてきたよー‼︎」
「おい待て。まずは大人に声を——」
あーあ、言わんこっちゃない。
畑の隅で暇してた子供たちにより、ピクシー四天王は追いかけ回されるハメに。
「「「わあぁあああーっ」」」
「「「ぴっぴぴ〜」」」
捕まえてごらんなさーいじゃないよ、まったく。オマエらの役目は護衛だぞ。
ちなみに護られるべきオレはといえば、
「いつも迷子を助けてくれて、ありがとうねぇ」
「聞いてたとおり、赤ちゃんみたいな妖精さん」
「あらホーント」
「もちもち肌が羨ましいわ〜」
農作業を中断して集まったご婦人方のオモチャだ。
とりあえずこの場は「いえ」と「ども」を交互に用いてやり過ごす。
ハッキリとした言及は避けたいところだが、やはり妖精は嘗められているようだ。オレらは歴とした魔物なのに、村人相手にまるで恐れられてないとは……。
しかしこの村、極端に男が少ないな。というか成人男性が一人も見当たらないぞ。
——まさか、ここは男女比がおかしい貞操逆転世界なのでは⁉︎ なぁんてな。そんなわけがない事情は、子供の数からもなんとなく察せた。
ついでに言ってしまうと、年頃の娘もいない。おそらく出稼ぎだろう。そういう生活具合が端々から見てとれる。
「なにもない村だけど、ゆっくりしてってねぇ」
というわけで、村人との一方的な会話と物理的な触れ合いはまだしばらくつづく……。
ややあって、鬼ごっこに完全勝利を収めたピクシー四天王がオレの元へと戻ってきた。後ろに、息を切らした子供たちを引き連れて。
「ねぇねぇ、ぽっちゃり妖精さん。エルラのお花、見に行こうよ」
ほう、村娘はエルラという名前なのか。
それはそうと、オマエの一人称は『あたし』だったろ。お姉さんぶるのはお終いか?
「お母ちゃんたち仕事に戻るから、他の子らの面倒もお願いしちゃっていいかい」
「うん!」
「ありがとう。エルラーレはお利口さんだねぇ」
「えへへ」
訂正。この娘は『エルラーレ』という名らしい。……まっ、知ってしまったからには覚えておくこととしよう。
エルラーレの案内についていくと、
「ねーねー、あで、オデんち」
ついてきた鼻垂れボウスの一人が服の裾を引っぱり、聞いてもないことを教えてきた。
「ほう。オマエはなかなか立派な家に住んでるんだな」
「ぶぅだぁっはっはっ! ボロボロのオンボロだどー」
なにがおかしいのかゲタゲタ笑い、自分の家をボロ屋だと主張するのだ。
「フッフッフッ。果たしてそうかな。ピクシーなら『百人乗っても大丈夫』だと思うぞ」
「おおーう、すげー」
やはりわからん。適当に返しただけなのに、そこまで驚かれてもこっちが困る。
などとやっているうちに、エルラーレが植えた花まで到着。
すると見事な咲きっぷり見るなり、断りもなく茎ストローをブッ刺そうとするピクシー四天王。
オレは速やかに——
「おい待て」
と制す。
やはりレガリアの精神支配は有効らしく、ビタリと空中で停止した。狙ったのかを疑いたくレベルの、ヘンなポーズで。
「オマエら、そういうところだぞ」
「「「ぴ〜」」」
「文句たれるな」
どうやらこのやり取りが子供たちにはいたくハマったらしく、ピクシー四天王はそろーりそろーり、わざとらしいまでにコッソリ花へと忍び寄り——
「「「まてーっ」」」
あざとくワタワタ慌ててみせて、ビタリ。
「「「あはは! ヘンなカッコ〜」」」
で、ゲタゲタゲタッと大いに盛り上がる。ここまでが一連の流れ。まるで『ダルマさんが転んだ』だな。
しかしだ、クックックッ、さすがは四天王といったところか。さっそく村人たちの心をワシ掴みとは。
などと内心で支配者ムーブを楽しんでいたら——
ざわざわと、村の一箇所に大人たちが集まっているじゃないか。
さっきは仕事に戻ると言っていたのに。なにやら只事ではない雰囲気……。
それを察知したのか子供たちも静まりかえる。
「エルラーレ、あれ、なにかわかるか?」
オレが尋ねると、下唇を噛んで俯く。
わかるけど口にしたくない。おそらくそんなところか。
その答えは、
「——貴様ッ‼︎ わざわざ辺鄙な村まで出向いてやったこの私に、手ぶらで帰れと申すのか、無礼者め! 王国徴税官の職務をなんと心得る!」
元凶が自ら説明してくれた。
なるほど、職業のみならず人格までも伝わる『よくできました』な自己紹介だ。




