レガリア『鑑定の皿』④
コロポックルを鑑定した結果は——
個体名称 :なし
種族分類 :妖精種 コロポックル
魔力値 :214
理力値 :12
アビリティ:工作B +113
罠設置C +27
シンプルだけど、有能。
なにより目を引くのは『理力値12』だ。値自体は低い。しかし他の妖精たちは揃ってゼロだった。
このことから考えるに、賢さに近い数値なのかも……いいや、それはないな。だとするとオレのバグッた数値の説明がつかない。やはり、結論は保留。
ここのところトラブルつづきだったけど、平常運転の妖精の森は穏やかだ。
なに事もなく時間は流れていく。変わったことといえば、それぞれに習慣を増やしたくらい。
ただ、新たな日課は月日が経つとともに、じわりじわりと目に見える変化をもたらした。
とくに変わったのは二つ。
一つは、日々の鑑定によりオレの魔力値が増したこと。なんと倍以上だぞ。
これはいい。問題はもう一つの方で……、
「さすがに狭いな」
ピクシーの人口爆発。
おそらく、栄養豊富な濃密メープルシロップのせいではないだろうか。それくらいしか心当たりがない。
放っておけば自然と落ち着くかとも考えたけど、せっかく増えた仲間が減っていくのも……、なぁ。
かといって、コロポックルたちに追加をおねだりするのも憚られる。
というわけで、
「よーし。花の群生地を広げるぞー」
「「「ぴー」」」
居住スペース兼、食料を確保だ。
◇
「おーえす、おーえす!」
「「「ぴーぴっ、ぴーぴっ!」」」
まずは草とピクシーたちの綱引きだ。
花の群生地と、その周りの雑草を引っこ抜いて育ちを良くしてやらないと。
もちろんオレも口を動かすばかりじゃないぞ。
スコップで地面を掘り返して、花の種を植えていくのだ。言うまでもなく、道具の提供はコロポックルから。
これらの作業は生息環境を整えるだけに留まらず、もっと大きな恩恵が得られるかもしれない。団結力とかそういう曖昧なものじゃなくて、オレが着目したのは負荷だ。
ピクシーは宙に浮いたまま草を抜く。つまり自重以上に引っぱらないといけないわけで、それ則ち、機動力アップに繋がるのでは?
一段落したら、みんなを鑑定してみよう。きっと『浮遊』の熟練度が増えているはず。
ついでと言ってはなんだけど、オレだって少しはピクシーらしく浮遊しているぞ。土まみれになって泥んこ遊びするのはイヤだったから。
魔力値がアップしたおかげか、まだ飛びまわるのはムリでも、腕をバタつかせず羽だけで浮くまではできるようになった。
なので、いまは空中をスイスイーっと平泳ぎしてる。なにげに快適。
着々と拡張作業を進めていると、
「アンタにお客さーん」
フェアリーがやってきた。
その後ろには、また迷子……、
「ぽっちゃり妖精さん、こんにちは!」
でもない様子。
「オレになんか用か」
「……あたしのこと忘れちゃった?」
「迷子だろ。覚えてるぞ」
「もう。今日は迷子じゃないよ」
なら今回は村娘としておこう。
「お花が咲いたからお礼を言いにきたの」
ほう、前にやった種がか。
「母ちゃんは?」
「あたし一人だよ。妖精のお姉さんが、うちの花の蜜を吸ってたから、ぽっちゃり妖精さんのお友達かなと思って。連れてってって、お願いしたの」
なるほど。
というかフェアリー、オマエ人里まで行ってなにしてるんだよ。
「そんな顔しないでっ。ちょっと珍しいところに咲いてたから、どんなお味なのかなーって気になっただけだもーん」
だもーん、じゃない。そんなところまで行くこと自体が危ないと何度も……。まぁ、言って聞くようなヤツでもないか。
「うちの村、妖精さんにイジワルなんてしないよ」
「そーだそーだー。疑うなんて、ひどいぞー」
たしかに、知りもせず決めつけるのは良くないな。しかし妖精を拐いにくる人間がいるのも事実。
「このコを送ってあげるついでに、アンタも見てきたらどーお」
面倒くさっ——と喉まで出かかって、ふと思った。
もうじき倉久手メグルへの返事をしなきゃならない。協力するか否かをだ。その判断材料として、一度くらい人間の村を見ておくのもありなんじゃないかと。
オレらの生息園から一番近い村、いったいどんなところなんだろう。今後のためにも知っておくべきか。
「いちおう言っておくけど、オレを怒らせると怖いからな」
「髪ブワッて逆立つんでしょ」
そういう意味じゃなく、村に行くにあたりヘンなマネをしないよう釘を刺したつもりなんだが……、まぁいいや。
「じゃあ、オマエんちに咲いた花を見せてもらおうかな」
「うん! おいでおいで!」
そんなこんなで、オレ、はじめての外出。
「おいおいオマエたち、いくらなんでも全員で行くのはダメだろ」
「「「ぴー」」」
「ひとりだけズルいだと?」
そう言われてもなぁ。いかに小柄なピクシーとはいえ、大所帯で人間の村に押しかけたら要らぬ誤解を与えかねない。
——そうだ、いいこと思いついた。
「これより、親衛隊の選抜試験を行う!」
「「「ぴっ!」」」
なんの脈絡もないフリだったにも関わらず、ビシッと敬礼する同胞たち。やっぱりコイツらはノリだけで生きてるらしい。
「いいか。オレが百を数えるあいだに、どれだけ草抜きができるか、その多寡で競ってもらうぞ」
位置について、よーいドン! と突然はじまった草抜き大会。
「妖精さん、みんなガンバってー」
「ガンバレガンバレー」
村娘とフェアリーが声援を送る横で、オレは百をカウントしていく。
しかしこうして見てると……。
組をつくって協力するヤツら。
ひたすらひとりでやろうとするヤツ。
抜きやすいか確かめてから引っぱるヤツ。
こっそり抜き終えた草を集めようするヤツ、それをピリピリ咎めるヤツ。
それぞれの個性がハッキリ表れるもんだ。
ずっと意図的に見ないフリしてきた、認識しないようにしてきた、個体差。
どうしてそんなマネをするのかは言い及ぶまでもないよな。
親しくしていたヤツが明る日には消えていたなんて、堪えられないだろ。
オレら妖精は弱者、だから、あんまりピクシーたちも他の妖精たちも区別をつけないようにしてきたんだ。
なぁんて感傷に浸ってるあいだに、百。
思ってたより差がついた。
「では、上位四名が四天王ってことで」
「ぴ〜?」
「親衛隊の間違いじゃないかって? 細かいねぇ。でもいいんだよ。だって四天王の方がカッコイイだろ」
これでみんな納得。うんうん頷く。
どうして呼称を変えたのかは、自分でもよくわからない。たぶんノリだ、ノリ。




