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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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レガリア『鑑定の皿』③


「ヤロウどもーッ‼︎ 湯船を洗え! 水を汲んでこい! 薪を集めろ! 湯を沸かせ! コロポックルのみなさんにポッカポカなお風呂で温まってもらうんだ!」


 オレは叫ぶ。すると——

 コボルトたちは水瓶を担いで川へ。

 ケットシーたちは薪を拾いに森へ。

 ピクシーたちが落ち葉にバチバチ放電すれば、フェアリーたちはフーフー風を送り火を起こす。


 ピクシーとフェアリーは頭にタンコブをこさえたまま、ケットシーは尻を腫らしたまま、それでもオレらは止まらない。汗をかきかき勤しむのだ。

 これは反省の表れ。だがしかし普段温厚なヤツほど怒らせるとあとが怖いという既視感があり、謂わば、危険感知の本能が働いた結果でもある。

 正直、コロポックルたちがブチギレる画なんて想像もできないけど。それでも——


「「「……な、なんもなんも」」」


 ガタガタ震えながら『気にするな』と遠慮されては余計に心が抉られ、より罪の意識に苛まれてしまう。


「あったか〜い白湯の提供も忘れるな! 手の空いてる者はオレと一緒にお洗濯だ! 新品より綺麗にするぞ!」


 侵入者がきたとき以上の団結力をもって、オレらはコロポックルたちにお詫びの印を提供したのだった。



 身体の芯から温まったことで、ようやくコロポックルたちの硬直も解けた。そこで直ちに——


「このたびは、怖い思いをさせてしまい本当に申し訳ありませんでした!」

「「「ぴっ」」」

「「「したー」」」

「「「すまニャかった」」」

「「「クゥ〜ン」」」


 全身全霊の謝罪。

 すると、コロポックルたちは、


「なんもなんも」

「風呂でこわいのもホッコリさ」

「次はあんたら入りな」

「うちらで火ぃ見ておくから」


 寛容な許しを。

 するとイの一番に、


「アタシらいちばーん」


 図々しさ太々しさ妖精内ランキング二冠のフェアリーが真っ先に湯のなかへ。


 彼女らは羽の生えたロリキャラみたいな容姿だが、そこは安心してほしい。着たままの入浴だ。

 オレはここで舌打ちするような紳士ではない。

 それよりも、せめて掛け湯をしてから入ってほしいところ。身体に湯の熱さを慣らすため云々が本来の目的だけど、ここではそっちじゃなくあとに入るオレらのために。


「おいこらフェアリー、お湯が汚れちゃうだろ」

「はぁ〜? アタシら汚くないもーん」

「「「ねー」」」

「ねーねー早く代わってー」

「「「早く早くー」」」


 ……まぁいいか。


 コイツらの身長はコロポックルと大差ない。だから一度に全員はムリで、数名ずつ順番に湯に浸かっていくのだ。


 ふと、フェアリーたちの入浴シーン(着衣)を見ていて『この残り湯、売れるかもしれない』などと善からぬ発想が頭をよぎった。

 けっして変態的な意味じゃないぞ。お薬的な意味で……って、どっちの字面も危ないな。

 こんどフェアリーだけ風呂に入れて鑑定してみるか。回復的な効果があったりして。いいや、なんかボロカス言われそうだから、やめやめ。


 水が苦手なケットシーとコボルトは最後を譲り合ってケンカしてる。

 というわけで、次は我らピクシーがお先に湯をいただく。


「ふぅ〜……。生き返る〜」


 やや(ぬる)めなのが、オレの赤ちゃんボディには心地いい。

 そういやオレはつま先つくから平気だけど、他の同胞たちは——⁉︎ と、みんなが沈んでいないか心配になり様子を見てみれば、


「……まるで柚子湯だな」


 首から上だけ浮いていた。オレンジ色のクリンクリンヘアが湿気でペタンとなってるから、余計にそう見えた。

 つまり愛すべき同胞ピクシーたちの頭は、空っぽ。なんとなく知ってた。


 このあとコボルト対ケットシーの譲り合いお湯ぶっかけ対決があり、和やかにお開き。


 それにしても咆哮S※の威力と言ったら……、いま思い出しても身震いものだった。



 さて、ここで真っ当な異世界転生者なら、新たなチカラ『鑑定』による戦力アップを図るところだろう。

 ランクFの弱いスキルを使いまくって熟練度を稼いだり、高ランク技で魔力値を上げようとしたり。

 やりよう試しようはいくらでもある。とくにレガリアを持つオレが命令すれば、ピクシーたちに特訓を課すことだって可能だ。


 しかーし! オレはやらんぞ。

 こないだから面倒事のオンパレードだった。しばらくは妖精さんらしく、のんびりまったりと過ごすのだ。


 というわけで、いつもの花の群生地——

 ボケーっと仰向けになり、意味もなく茎ストローでスースー息を吹く。

 すると、ふわふわ浮いてたピクシーが煽られ、わざとらしく「ぴぴ〜」と宙をクルンクルン。

 ひとりがやれば他もマネして。やがて列をつくり順番待ち。これはオレがゼーゼー息切れするまでつづく。

 ハァハァ……う、うむ。こういうのでいいのだ。我々はこうあるべき。


 だが、ピクシーの他はそうでもないようで、


「しゅしゅ! どうだいオイラの猫パンチ、キレッキレじゃニャいか?」


 まずはケットシーたち。

 よりにもよってだ。どうして『猫打』を鍛える。猫爪とか威嚇とか、他に強力そうなスキルはあっただろ。

 挙句、ここのところ毎日『鑑定しろ』とやってくる始末。


 フェアリーたちはオレらピクシーと似たような価値観らしく、努力などしない。アイツらは面白そうなことに労力は惜しまないけど、基本的に怠け者だ。


 で、コボルトたちはといえば——


「「「グワルルルゥガォオオオオオッ‼︎」」」」


 またか。今日も今日とて遠くから咆哮が聞こえてくる。

 おかげで妖精の森の住人には、もれなく『音波耐性D』が備わってしまった。


 そして意外にもコロポックルたち、


「「「——ぴっ‼︎」」」


 花の群生地まで鑑定参りするようになったのだ。

 ケットシーと違うのは全員で押しかけたりせず、代表でひとりずつ。あと必ず、手土産にメープルシロップを持ってきてくれる。

 さっきピクシーたちが反応したのは芳醇な甘い香りに誘われてのこと。


「そんな気を使わなくてもいいのに」


 こっちの遠慮を告げ終えるの前に、シロップの壺は空にされてしまう。すべては同胞たちの腹のなか。


「あのさぁ……」


 オレ、いちおうオマエらの魔王なんだぞ。一口残しておくくらいの気は使えないのかよ。まったく。


「毎度めんどうかけるけど、今日もいいかい?」

「それこそ『なんもなんも』だ。オマエらコロポックルには世話になりっぱなしなんだからな」

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