レガリア『鑑定の皿』②
あれこれ試してみた結果——
やはり、アビリティの後ろにあるプラス値は、使えば使うほど増えていくようだ。数値の違いが効果に反映されるのかは、同種のスキルと比べてみないとまだなんとも……。
つづいて理力値だが、おそらく、オレが異世界転生したピクシーだから高いのではないか。そう考えた理由は、他の魔王の理力はゼロのままだったから。
これがなんなのか、またの機会に倉久手メグルたちを鑑定してみれば少しは輪郭が見えてくるだろうか。
さて、時は少し遡り、他の魔王——つまり誰にレガリアを持ってもらったのかについて触れておこう。
オレが『鑑定の皿』を所有したので、残ったのは『波の石板』というアイテム。
ちなみに見た目はスマホサイズの磨りガラス状で、甲骨文字みたいな波線の文字がギッチリと。
そもそも波ってなんだよ、と使い道に迷っていたが、よくよく考えれば音も波。
というわけで、一番相性の良さげな『咆哮C』を習得しているコボルトにあげることにした。ものは試し。考え違いだったら破棄してもらえばいい。
でもだ、たくさんいるコボルトの誰が持つかのか……。これを決めるのは難問だと再び頭を抱えることに。
だがここで、しゃしゃりでたフェアリーが「ここはタイマンっきゃなくなーい」などと煽り、コボルトたちも「やってやるワン」と腕まくり。コイツら基本全裸だけど腕まくり。
結果、平和的な穴掘り対決で血を見ることもなく済みましたとさ。めでたしめでたし。
「で、魔王になった感想は?」
「ナンバーワンだワーン」
あっそ。
めでたく群れの長になったコボルトの魔王だが、頭の方はめでたいままらしい。
肝心のステータスの方はといえば——
個体名称 :なし
種族分類 :妖精種 コボルトの魔王
魔力値 :150
理力値 :0
アビリティ:咆哮S※
犬牙D +110
穴掘C +230
鉱石探知B +10
——これ、強くなったのか?
なんだか微妙だな。魔力値だけみたらフェアリーより少し高い程度だぞ。とはいえ『咆哮S※』はちょっと気になる。
ああ、……いけない。これはいけないやつだぞ。
オレのピクシーとしてのイタズラ本能が、やってしまえと囁きかけてくる。なにも知らないコロポックルたちが咆哮Sにどれほど驚くのか、そのめんこくびっくりするさまを見てみたいと。
「ええ〜、かわいそー。やめよーよー」
「「「ねー」」」
口ではこう言うフェアリーたちだが、その瞳は爛々と、顔には『めっちゃ楽しみ』と書いてある。
ついでに我が同胞たちもイイ笑顔。
「おいおいオマエら、ニャ〜んて悪いツラしてるんでい」
「「「ニャ〜」」」
ケットシーたちも口だけは非難。しかし止める気はさらさらないようだ。さっきからニャハニャハと目が糸みたいになってるのが証拠だ。
なにげにコイツらもノリがいい。この場合のノリは悪ノリだが。
「……咆哮はワォーンと脅かすだけだよな、危なくないよな?」
「だワン」
誇らしげに答えるコボルトの魔王を、他のコボルトたちは『ホントに大丈夫か?』と不安げ。
ここでふと気づく。どうやらレガリアによる畏敬の念は、種族によって現れ方に違いがあるようだ、と。
社会性が補強されると言えばいいのか、人間みたいな権力構造を好む種ほど従う構図が強くなるのでは?
これも、こんど倉久手メグルが来たとき、他の種の魔王と配下の関係について聞いてみるとして——
「全会一致でいいな」
「「「ぴ〜」」」
「アタシら止めたもーん。ねー」
「「「ねー」」」
「オイラたちも止めたのを忘れんニャよ」
「「「ニャ〜」」」
イタズラ大好き妖精たちの賛同は得た。
しかし、やる気になったコボルトの魔王に、未だ他コボルトたちは諫言している。が、
「やるワン!」
「「「……ワゥン」」」
ボスの一言で、手下は項垂れて渋々追従。
こうして、ゾロゾロみんなでコロポックルの集落へ向かうことに。
このときのオレらは、ちょっとびっくりさせるだけで済むと本気で思っていた。
◇
「「「くひひっ」」」
「「「ニャひひ」」」
「「「きゃいきゃい」」」
「おいオマエら、声を潜めろって」
いまオレらは太っとい幹の上、コロポックルの集落を見下ろせる特等席にいる。木登りが苦手なコボルトたちは下で待機。
ひとり、魔王となったコボルトだけが少し先に立つ。その手に『波の石板』を所持して。
ソイツは新たなチカラを披露しようと集落を見やり、それから深く深く息を吸い込む。
「すぅ〜う…………」
と、体型が風船みたいに丸くなるほど。
そして、
「グワルルルゥガォオオオオオッ‼︎」
激しく喉を震わせた。
——これはヤバいッ‼︎
そう思ったのは、宙に浮いてたピクシーやフェアリーたちがポテンポテン地面に落ちていくさまを目にしたとき。
ケットシーたちも、ぶら下がっていた枝からボトボト落ちていく。
咆哮を耳にした全員が、竦み、硬直したからだ。コボルトの魔王の背後にいてなお、直撃していないにも関わらずで、これほどとは……。
なんとかオレは幹にしがみついていられてたけど、まだすぐには動けそうもない。
一番早く復帰したのは、木の下にいたコボルトたち。ワウワウ騒ぎ、落っこちた連中の安否を確かめていく。
ほんのイタズラのつもりが、とんでもない事態になったしまった。
オレより誰よりワナワナしてるのは、吠えたコボルトの魔王だ。しばらく震えていたかと思えば、いまは天を仰いだまま硬直している。
ようやく身体の自由を取り戻せたオレは、羽も腕もバタつかせて、地面へ。降りるや否や全力疾走。地面に落ちた妖精たちの世話をコボルトたち任せにして。
「おいコボルトの魔王!」
駆け寄るなり回りこんで腰を揺すってやると、
「…………」
パタリと仰向けに。
白目を剥いてる。おそらくこれは魔力切れだ。発電しすぎたときのピクシーたちが、よくこうなっていた。
なら、安静に寝かせておけばいいか。
もっと気にするべきは——
「コロポックル、大丈夫かぁあああーッ!」
などとイタズラを嗾けた張本人に言われてもだろうけど、いまは。あとでいくらでも謝るから無事でいてくれ!
集落へ飛び込んで目にしたのは、ガッチガチに強張ったコロポックルたち。まるで石像。微動だにせず。
しかし、消えてはいないからびっくりして心臓が止まったなんていう最悪の状況には至っていない。
それでもだ、額にびっちり玉の汗を浮かべてダバダバ涙流して鼻水垂れてチビってて……、びっしゃびしゃ。
なまらめんこい小人さんたちが、オレらのイタズラによってこうなったんだ。
襲いくるとてつもない罪悪感に耐えきれず、
「——すんませんでしたーッ‼︎」
オレは、今生はじめてとなる土下座をした。




