勇者は死んでもコンテニュー⑤
だいたいの事情はわかった。境遇に同情するところも多々ある。倉久手メグルたちを個人として認識してしまった以上、余計にそういう感情は芽生えてしまうのも事実。
オレ自身は異世界召喚されたわけじゃないけど、ピクシーに転生したからにはコイツの願いは叶えてやれるかもしれない。その可能性は高いはず。
それでも、
「約束はできない」
誠実に答えるとこうなってしまう。
「まだ、信用してもらえてない?」
「いいや。オマエらを信じきってないのは確かだけど、それが理由じゃないぞ」
おそらく倉久手メグルは、なんでも一人で背負い込みがちだが責任感もあり、物事を冷めた目で見つめられるヤツなんだろう。だというのに重大な見落としをしている。
「オマエ、オレが何者かわかっているのか? 雑魚モンスター筆頭格のピクシーさんだぞ」
この如何ともしがたい事実を。
本音を言えば、もっとレガリアや森の外についてを聞いておきたいところ。
だが、詳しく聞いてしまうほど深い関与が求められるわけで、でもオレには応えられない。だったらここまでとしておくべきだ。
聞くだけ聞いて『はいさよなら』でもよかったんだけどな、ちょっとそういう気分になれそうもない。
「キミが約束を果たす日まで生きている保証がないってこと?」
「そう簡単にくたばるつもりはないけどな。さっきもオマエらが来なければ、オレらは兵隊たちの手によって全滅させられていたかもしれない。手練れの人間が三人きただけでこれだ。なんとも儚い生命だろ」
どうして帝国の兵隊たちがこの森に逃げ込んだのか、そこらへんの経緯が気にならないと言えば嘘になる。正直なところ、なんとなく察しはついてるから答え合わせをしたくもある。
女子二人は偶然で無関係だと強弁していたが、疑わしい。だとしても、ここまでとしておくのが賢明か。
オレはそういうつもりで話を打ち切りにかかった。なのに、
「それならちょうどいい!」
倉久手メグルにとっては違ったらしく、これが返事とばかりに、リュックからスマホサイズの石板を二枚取り出した。
これがなにかは確かめるまでもないか。というか聞きたくない。
「レガリア『闇の石板』と『波の石板』だ」
……、ほれみたことか。
「オレは断ったんだぞ」
「わかってる。だからこれはさっきまでとは別のお願いだ。キミにこれを預かってもらいたい」
「——冗談じゃない‼︎ こんなモノを持ってたいら兵隊数名なんかじゃ利かない。オマエらみたいな異世界人まで奪いにくるだろうが」
まさかコイツ、オレに自衛のチカラをつけろとでも言うつもりか?
「まだそこまで広まっていないけど、一部では妖精の森に不思議なチカラを持った魔物が現れたと噂になっている。もしかしたら『新たな魔王では?』とも」
それって……。
「キミのことだ」
「冗談キツいぞ。こんなにも愛くるしいオレの姿を見て、魔王だと? そいつはまず自分の目を疑うべきだ。視力検査をお勧めする」
「ハハッ。この世界に眼科なんてないよ」
さっきのドーナツ盤も含めたレガリア三つは、未だしまわれず。オレらのあいだに置かれたまま。
この状況で無関係ではないっぽい発言は、いくらなんでもだぞ。
「メグルって性格悪いな」
「困らせるつもりはないんだ。ただ、巻き込んでしまった経緯をちゃんと説明したくて」
もう巻き込まれているのか……。
つづく話を聞くうちに、ここ最近のアクシデントが一連の出来事だと知ることとなった。
倉久手メグルたち召喚された異世界人は、皇帝の命令に従いレガリアを所有した魔物——魔王の討伐に向かう。
「いくつも持ってる魔王はそれだけ強力になるから、倒すこと自体が難しい」
だから狙うのは成り上がりホヤホヤの若い魔王なんだそうだ。で、討てた場合に手に入るのは一つだけというのが基本。
しかし例外もあり、レガリア固有の権能を上手く使いこなせない魔王もいるんだとか。
さっきのドーナツ盤『鑑定の皿』なんかはいい例だろう。もしステータスを確認できたとしても、知恵のない魔物には役立てようない。そういう話だ。
「権能を持て余した魔王がいて、たまに二つ以上手に入るときがあるんだ」
「それをちょろまかした成果がこれか?」
「うん。隠し場所にも気を使ったんだけどね」
結局は監視にバレてしまったと。
えらく長い話だったが、ここからがすべての結合点となる。
妖精の森からそう遠くない場所を縄張りにしたゴブリンの魔王、ソイツが三つもレガリアをドロップしたんだそうだ。
なんとなく、このあとの展開は読めるよな。
「ボクらはホクホクで隠し場所に向かった。そこで、キミの話をしていたのも聞かれてしまって……」
要するに『風が吹けば桶屋が儲かる』的なやつだ。
「ここのところの面倒事、ぜんぶオマエらが原因じゃねぇか‼︎」
「——迷惑をかけるつもりはなかったんだ!」
コイツらがゴブリンの魔王を退治したことで、群れはバラバラ散り散りに。
そして流れ着いた一部が村の畑を荒らしたことによって、村人は森で食料調達しなければならなくなり、相次ぐ迷子の発生。
併せてコボルトの住処はゴブリンどもに占拠された。
兵隊たちにしたってそうだ。逃げ込んだのでも追い込まれたのでもなく、逃走がてら手にした情報の確認に寄っただけ。
やっぱり女子二人の証言は嘘だったわけだ。
「オマエさ、マッチポンプって知ってる?」
「……ごめん」
謝られても遅い。すでに嵐は過ぎ去ったあとで、払った犠牲は返ってこない。
無関係な出来事と言えば、葉っぱパンツの紐が切れたことと、
「しっかしオレが魔王扱いとはな」
これ。
「最近、妖精の森には変わった魔物が現れて、周りを従えているように見えた。あくまで、そういう聞き取りからの推測だよ」
どこのどいつだ、垂れ込んだのは。
こんなことなら妖精狩りの連中も村人も全員生かして返さなきゃよかった。……なぁんてな。
「迷惑かけたお詫びも兼ねて、これを」
「くれるってか?」
「ただ『闇の石板』はボクが所有済みだから、預かってもらうカタチになるけど」
「それだと預かり所扱いしてないか。オレは太っちょ死の商人の妻じゃないぞ。あとな、冒険の序盤でキーアイテムを渡してくるキャラにロクなヤツはいない」
「まぁゲームだと、そうだね。預けるって言ったけど、キミらで使ってくれても構わないよ」
「でもメグルが使う段になったら返さなきゃならないんだろ」
「目的を果たしたあとは、キミの好きにしてくれていい。そのときボクらはもういないんだから」
こうやって交渉してくれてるだけまだマシか。
「勝手に妖精の森を隠し場所にしようとは考えなかったのか?」
妖精の森は『まさかこんなところに』という目眩しにはもってこいな場所だろう。噂を聞いて確かめにきたヤツだって、オレらの牧歌的な雰囲気を見たら無駄足だったと引き返すに違いない。
それこそ、倉久手メグルは目撃者の妖精をすべて始末したうえで適当な洞窟にでも隠しておけば、まず見つかることはないはずだ。
「そんなことしたらキミと協力関係を結べなくなるじゃないか」
「ふーん。オマエの言い分はわかった。だが、即答はできないぞ」
「もちろん。ただ、今だけでもこの三つのレガリアを預かってくれないかな。もし取り上げられたら、また皇帝のチカラが増してしまう。そう間をおかずに取りに戻るから」
そのときに返答を、か。
えらく信頼されたもんだ。いや、違うな。もし約束を反故にされたら、そのときはそのときなんだろう。
こういう割り切り済みのヤツを敵にまわすのは、正直怖い。
コイツに協力するにしても問題点は山積みとなるんだから、そのあたりを解決できるのかは、次に会ったときにでも相談すればいいか。
「見送りはしないぞ」
「ハハッ。仲良しだと思われたら、お互いに困るからね」
くっそ。なにげにオレは片足突っ込んでる状況にされてないか?
兎にも角にも、倉久手メグルたちとの初接触は、諸々の回答をウヤムヤにしたまま終わった。
以下に、作中で言及または推察された『異世界人(召喚勇者)』についての設定をまとめました。
◯死んでもコンテニュー
強力なチート能力などはなく、唯一の特性は『死んでも何度でも蘇る』ことのみ。
ただし召喚主(帝国)に蘇生地点を押さえられており、逆らった者は、死と蘇生のループによる苛烈な矯正を受けるハメに。そのため、魔王へのゾンビアタックを強要される。
◯対異世界人ルール『ババ抜き』
異世界人同士の殺害に限り、死んでもコンテニューは無効化される。
このルールにより、絶望した仲間を「本当の死」によって介錯しなければならないという、精神的なババ抜きを強いられている。
◯レガリア支配の例外
現地人(皇帝等)が持つレガリアの支配は受けない。
ただし、異世界人同士は同種族扱いとなるため、異世界人が持つレガリアの権能(逆らいづらくさせる等)は有効。




