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私の中のもう1人の私が好きな人  作者: 秘翠 ミツキ


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7話


 まだ6月末だというのに気温が30度超えの日が続いている。

 朝なのに爽やかさはなく、雨は降らないのに湿度が高いせいか不快感を覚える。

 項垂れるように思わず空を仰ぎ見れば日差しの熱さに慌てて日陰に避難した。


「おはよう。あれ、1人なの?」


「勇希くん、おはよう。うん、今日ね蓮くんは熱があるからお休みなの」


 朝、支度をしていると玄関のチャイムが鳴った。朝から誰が来たのかと不思議に思っていると蓮の母だった。


『朝起きたら熱が38度あってね。だから今日は蓮は休ませるから、琴ちゃんごめんね』


『蓮くんは大丈夫ですか?』


『後で病院に連れて行くから大丈夫よ。心配してくれてありがとうね』


 幼い頃、蓮は身体が弱く熱を出す事が多かったが、小学校に上がったくらいからはそれもなくなった。かなり久々なので心配だ。


「放課後にお見舞いに行こうと思ってるんだ」


「それなら僕も行こうかな」


「本当? ありがとう!」


 蓮と勇希はあれから毎日一緒にお昼ご飯を食べている。仲良しとまではいかないが、少しずつ距離は近くなっている気がした。


「あ、でも、帰りに駅に寄るから遠回りするけど大丈夫?」


「駅に何かあるの?」


「蓮くんが駅のプリン屋さんのプリンが好きだから買って行ってあげようと思って」


 琴音達が小学校の時にオープンした池辺里駅の中にあるプリン専門店のプリンが蓮は大好物だ。あのプリンを食べている時は、いつもクールな蓮が無邪気に見える。


「プリンか、僕も食べたいな」


「じゃあ勇希くんも一緒に行こう」


 その日の放課後、授業が終わると琴音と勇希は歩いて池辺里(いけべさと)駅へと向かっていた。そして蓮へのお見舞いの品であるプリンを購入すると、自宅方面へと歩き出す。


「わざわざありがとう。ただごめんなさいね、丁度今眠った所なのよ」


「いえ、気にしないで下さい」


 暑い中、高校から駅まで25分、駅から家まで15分、計40分程歩いて来たが、蓮の顔は見る事は出来なかった。琴音は自宅が隣なので構わないが、折角付き合ってくれた勇希に申し訳ない。


「折角付き合ってくれたのにごめんね。途中まで送るね」


「誰も悪くないんだから謝らなくていいよ。でもそれならさ、少し付き合ってくれる?」


 勇希の自宅は高校と駅の中間地点にあるそうだ。琴音の家から帰宅するには途中神社を通り過ぎるのだが、着いた先は正しく二頭山(にとうやま)神社だった。


「前から気になってたんだ」


「そうなの?」


「でも、ここ階段が多いから1人で来るのは面倒だなって思って来なかったんだよね」


 大通り沿いに建てられた赤朽葉色の大きな鳥居をくぐると石畳の広いスペースがある。鳥居の下から真っ直ぐに見据えると、少し遠くに存在感を放つ長い石段が見えていた。


 参道の長い石段を上り切り、2人共に少し息を切らしている。更に気温も高く汗ばむ。


「ここの石段、95段あるからね」


「そんなにあるんだ。通りで疲れるはずだ」


 2人は振り返り階段を見下ろすと、そのままゆっくりと視線を上げていき遠くの景色を眺めた。

 風が吹き木々が揺れて、その合間から近くて遠い街並みが覗く。少し涼やかな風が心地よく琴音は目を細めた。


 左右に二頭山神社と記された提灯の下がった間を抜けて立派な門をくぐり奥へと進むと、本殿が現れた。琴音達は財布から小銭を取り出して賽銭を投げ入れる。二礼二拍手一礼、お参りをした。

 

「何をお願いしたの?」


「世界平和」


 得意気に答えると勇希が噴き出し声を上げて笑う。


「なんで笑うの?」


 不満気に唇を尖らせると、今度は優しい笑みを浮かべた。その笑みが勇と重なり勝手に胸が脈打つ。


「ごめん、ごめん! あまりにも願い事が壮大だったからさ」


「じゃあ、そういう勇希くんは何をお願いした訳?」


「う〜ん、日本平和かな?」


「絶対嘘だ」


「ははっ、バレた?」


 誤魔化す勇希は数メートル軽く駆けてそのまま歩いて行く。その後を琴音は慌てて追いかけた。

 酷く懐かしさを覚えてますます胸は高鳴るばかりだ。


「うん、美味い! これは中里くんが3度の飯より好きなのも頷けるな」


「そこまで言ってないし、それ本人に言わないでね。絶対怒るから」


 境内の奥へと進み、女坂という正面の石段の脇道にある緩やかな参道へ向かう。

 石段を下りて行くと開けた場所に屋根と囲い付きのベンチが見えた。

 勇希はそこに座るとお腹空いたと言ってプリンを食べ始める。


「ここの神社ね、戦争で市街地が燃えても無事だったんだ」


 手持ち無沙汰となり空を眺めながらそんな言葉が口をついて出た。

 空襲を受けた時の夢は見た事はない。なのでただの事実に過ぎない。だが自分の言葉に胸が痛む気がする。


「さっきも思ったけど、この神社に詳しいね。歴史が好きなの?」


「別にそういう訳じゃ…………勇希くん、あのねーー」


 こちらを見ている勇希と目が合い、その瞬間、彼と勇が重なって見えた。少し落ち着いた胸がまた大きく脈打つ。

 話しても誰も信じてはくれない、幼い頃でもそうだったのだから成長した今なら尚更それは理解している。無闇矢鱈に他人に話さないようにと蓮とも約束していたが、勇希になら良いのではないかと琴音は自らの夢の話をした。



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