5話
重い瞼を開けると見慣れた天井が見えた。
また文子の夢を見た。
幼い頃は断片的な記憶ばかりでたまに見る程度だったのが、成長するにつれてそれは鮮明になり最近は頻繁に見るようになった。
そういえば勇希が転校してきた後くらいから、数日に一度は見ている気がする。それは彼が勇に似ている事が関係しているのだろうか……。
『おはよう、文ちゃん』
「え……」
週明け、いつも通り登校すると既に席に着いていた勇希から声を掛けられた。
「どうかした? 琴ちゃん」
「あ、ううん! 何でもない! おはよう!」
どうやら連日の夢のせいで、聞き間違えてしまったらしい。気恥ずかしさを感じ、慌てて鞄を下ろして席に着く。
「中里くんもおはよう」
「……おはよう」
一緒にいた蓮は勇希からの挨拶にあからさまに嫌そうな顔をしながらも返事をすると自分の席に行ってしまった。
昼休みになり、琴音は鞄からお弁当箱を取り出し机に広げる。
「今日も琴音ちゃんのお弁当、美味しそう〜」
おっとりとマイペースな宮沢美羽、明るめな茶色のボブがよく似合う同じクラスの友人だ。彼女は琴音の正面に向き合って座ると同じようにお弁当を机に置いた。
「本当いつも琴音ママには感心しちゃうね!」
机の横側に椅子を持って来て座ったのは、赤みを帯びた茶髪を後頭部で縛り上げたポニーテールがよく似合うもう1人の友人である三森あおいだ。いつも元気で明るい。
雑談をしながらお弁当の煮物の蒟蒻を口に放り込む。そんな中、ふと視線を廊下側の席へ向ければ蓮が1人でお弁当を食べているのが見えた。
登下校、放課後といつも蓮とは一緒にいるが、それ以外の時間は別々に過ごしている。以前から何度も一緒にお弁当を食べようと誘っているが即断られてしまう。
蓮曰く群れるのが好きじゃないとの事だ。
「ねぇ、珍しい光景じゃない?」
食事を続けていると、不意にあおいが前のめりになりながら話し廊下側の席へと視線をやる。つられた琴音と美羽も彼女の視線の先を見た。
すると購買からお昼ご飯を買って戻って来た勇希は迷う事なく蓮の元へ向かった。ひと言ふた言交わすと、勇希は蓮の前に座り袋からパンを取り出し齧る。
蓮とは対照的な勇希は転校初日からクラスの男子達と騒ぎながら楽しげにお昼を食べていた筈だ。確かに珍しい。
「人気者同士気が合うのかも」
「うんうん、確かに」
二人の言葉に琴音は考える。
女子から人気者の蓮と男女問わず人気者の勇希ーー2人共に容姿端麗、蓮はクールで勉強が得意で頭が良い、勇希はフレンドリーでスポーツが得意で運動神経が良い。分かり易い程に対照的な2人だ。
正直、勇希が和菓子同好会に入ってから2人の仲は深まる所か悪くなった気がしている。馬が合わないのもあるのだろうが、どちらかと言うと蓮が勇希を嫌っているように思えた。
「お昼休み、2人で一緒に食べてたね」
和菓子同好会の活動は土曜日を含めて週に2回だ。その他の平日は圧倒的に人数の多い調理部が家庭科室を使っている。今日は同好会はお休みなので放課後はそのまま帰路についた。
横並びに2人の間に挟まれながら歩く。いつの間にか同好会のない日も勇希も一緒に下校するようになった。
「中里くんがいつも1人だから寂しいかなと思ってさ」
「余計なお世話だ」
「またまた〜本当は嬉しい癖にさ。照れるなよ」
「うるさい」
どういった心境の変化かは分からないが、勇希は蓮に歩み寄っているように見える。理由は分からないが良い傾向である事には違いない。もしかしたら蓮に初めて琴音以外に友人が出来るかも知れない。
人数獲得の為に勇希を同好会に引き入れた事を蓮は心配していたが、やはり間違いはなかった。
琴音はこのまま2人が仲良くなってくれたらと期待した。




