24話
8月26日、27日、28日、29日、30日……とあっという間に過ぎていき遂に31日の朝を迎えた。
無論残りの数日間を何もせずに過ごしていた訳ではない。効果があるかどうかは分からないが、可能な限り文子の要望を叶え続けていた。これまで通り、食べたい物や行きたい場所、したい事や欲しい物など兎に角片っ端からやってみた。だが結局意味はなかった。
今朝は最低気温が26度と朝目覚めた瞬間から暑い。予報では昨日に引き続き最高気温が36度となるらしい。
茹だるような暑さの中、蓮は文子と一緒に二頭山神社へと歩いて向かう。少し前を歩く文子はお気に入りの日傘を差しており、その表情はこちらには見えない。ワザと日傘で蓮との距離をとっているように思えて複雑な思いになった。
「おはよう」
「文ちゃん、おはよう。中里くんもおはよう」
神社の下で合流した勇希は普段と変わらず挨拶をすると笑った。嫌悪感を覚える。
勇希は味方のフリをした敵だ。
協力的なフリをしながら琴音を見捨てて文子を選ぼうとしている。この数日の勇希の態度からしてそうとしか思えない。
タイムリミットは今日の夜の19時半くらいだ。時間はない。ただもうどうしたらいいのか分からない。無論蓮も日々ネットや図書館などの資料を見て情報を集めてはいるが、勇希が話していた以上の内容を見つける事は出来なかった。
「今日はなにする?」
「夏休み最後だし特別な事したいな」
そんな風に言っていたが、駅前でお昼を食べてゲームセンターに行き駅ビルの中で涼みながら店を見て回った。
気付けば夕方になっていて神社まで戻って来た。長い石段を上がり、途中踊り場で文子が足を止めた。
「ねぇ勇希くん、好き」
数段上がった場所にいた蓮と勇希は振り返り目を見張る。
「え、いきなりどうしたの?」
「思い出しちゃったの、ここで告白してくれた事。あの時は私が返事出来なかったけど、ちゃんと伝えたくて」
「……文ちゃん、僕は」
「勇希くんは勇さんの生まれ変わりだから、勇希くんに伝えてもいいでしょう?」
文子は勇希を勇の生まれ変わりだと信じている。だが実際は勇希は勇の孫だ。
前に勇と合わせてみるのはどうかと提案した事があったが、勇希から勇は認知症で何も覚えていないから無理だと断られた。ただそれが事実かは定かではない。信用ならない。
それにそもそも文子には勇希は勇の生まれ変わりではなく孫だと打ち明けている。
『勇さんは戦死したんだよ』
だが彼女は聞く耳を持たず、頑なに勇希が勇だと言って突っぱねた。
「……うん、そうだね。でも今は中里くんもいるから、恥ずかしいな」
「そっか、でもどうしても今言いたくなっちゃって」
「ありがとう」
暫く沈黙が流れた。
生温い風が木々を揺らす音とひぐらしの鳴く声だけが周囲に響く。
両想いに見える2人には深い溝があるように見える。それがなんなのか蓮には分からなかった。
諦めにも似た虚無感に襲われてながら前を歩く勇希と文子の背中を見ていた。これまで自分は賢い人間だと思い生きて来たが、実際は大切な人1人守れない無力でどうしようもない人間だった。
ポケットからスマホを取り出すと時間を確認する。18時だった。後1時間半くらいだ。
「どこ行くの?」
「……お墓参り」
「だ、誰の?」
二頭山神社から歩いて10分程で、光林という寺についた。何故寺なのかと訝しげに思いながらも、敷地内へと入る。その辺りから文子がどこかそわそわとして落ち着かない様子に見えた。自分の手を引いている勇希に文子は何度目か分からない質問を投げかける。ずっと無視を決め込んでいた勇希だったが、ようやく返事をした。
「文ちゃんのだよ」
立ち止まった墓石には”早乙女”の文字が彫られていた。




