20話
こんな非現実的な話を誰が信じる?ーー
文子が帰った後、蓮はベッドに転がり考えていた。
何が起きているのか理解が追いつかない。本当に琴音は文子に侵食されてしまったのか。いや彼女は眠っていると話していた。だが今は文子が身体を乗っ取っている状態に違いない。
琴音が言うように、夢の中で琴音が文子として存在していたとしてもそもそも文子はどこから来たのかーー
これが良く本である展開で生まれ変わりというやつなのか。もし仮にそうだと仮定する。それなら2人は同一人物だ。だが実際は人格が別々に存在している。訳が分からない。
「もしこのまま目を覚まさなかったら……」
蓮くん!ーー
「っ‼︎」
琴音の顔が脳裏に浮かび、弾かれたように身体を起こした。
「そんなのダメに決まってるだろうっ‼︎」
焦燥感に駆られベッドを拳で殴り付けた。
懸念していた事が現実となってしまった。だが文子に言われたように何も出来やしない。無力な自分に苛立ち幻滅する。
「えっと、もう1回言ってくれる?」
「3回も言ったのに理解出来ないとか、読解力なさ過ぎだろう」
「いやいや、普通になに言ってるか分からないから!」
翌日、勇希を二頭山神社に呼び出した。
雨は降ったり止んだりを繰り返していた為、蓮と勇希は神社の女坂の途中にある屋根のあるベンチで話す事にした。
「ようするに、琴ちゃんが文ちゃんに乗っ取られたって事だよね?」
「簡単に言えばそういう事。ただボクもいまいち状況が飲み込めてない」
以前勇希が文子と勇の事を実在した人物だと話していたので何か分かるかと思い打ち明けたが、反応からしてあまり役には立ちそうもない。
「前に文子と勇が実在した人物だと証明するって偉そうに言ってただろう。だからなにか知ってるかと思ったけど、見当違いだな」
「偉そうって、中里くんだけには言われたくないから!」
少し大袈裟に突っ込みを入れると、勇希はわざとらしい咳をして真剣な表情でこちらを見る。
「聞いただけで判断は難しいけど、やっぱり琴ちゃんって文ちゃんの生まれ変わりなんだと思う。寧ろそうとしか考えられないよ」
「その理論でいうと稲見も勇って人物の生まれ変わりって事か?」
「あー……いや、僕は違うかな」
バツの悪そうに今度は顔を逸らし遠くの景色を眺める。
「実は、日向野勇は……僕の祖父なんだ」
「……は? 祖父⁉︎」
驚き過ぎて一瞬思考が止まり思わず声を上げた。
「そ、爺ちゃん。僕爺ちゃんっこでさ。小さい頃は爺ちゃんの家に預けられて育って、小学校に上がる頃に両親と暮らし始めたけど、2人共いつも仕事で家にいなくて、いつもテレビ電話で爺ちゃんと話してた。文ちゃんの事は昔から爺ちゃんから話を聞いていて知っててさ。それで話を聞いてる内に、会った事も見た事もないのに、文ちゃん恋をしたんだ。自分でもあり得ないって思う。不思議だって。でも多分、爺ちゃんの気持ちが伝わってきて感化されたのかも。高校1年の終わりに両親が離婚するって言い出して、どっちについて行くか聞かれて爺ちゃんって答えた。それで引っ越してきたんだけど、まさか転校先に文ちゃんみたいな子がいてびっくりしたよ」
「見た事もないのになんで文子だって思うんだよ」
「う〜ん、髪型とか顔立ちとか、後はきっとこんな感じだったんだろうなって想像していたまんまのフォルムで本当驚いたし、運命を感じた」
正直、勇希の言葉に信憑性があるようにも思えないが、こんな突拍子もない話を思いつくとも考えられない。
「しかも、琴ちゃんから文ちゃんの話を聞いた時は暫く興奮が収まらなかったよ!」
「自分が勇だって嘘吐いた理由は?」
「それは、上手くいけば琴ちゃんと付き合えるかなって」
勇希はあははと軽く笑うが蓮は顔を顰めた。今直ぐに殴ってやりたい気分だ。
「稲見は琴ちゃんが好きなのか文子って人物が好きなのかどっちだよ」
「勿論初めは文ちゃんが好きで琴ちゃんと付き合いたいって思ったけど、琴ちゃんって本当に優しくて良い子で笑顔も可愛いし、ぶっちゃけどっちも好きっていうか」
「今直ぐ伝川に沈めてやろうか?」
「スミマセンデシタ」
琴音が優しくて良い子で可愛いのは当然だ。だが自分以外の男が琴音を褒めているのは面白くない。しかもどっちも好きなどと最低な事を抜かす。
「それでこれからどうする?」
「琴ちゃんを取り戻す」
「どうやって」
「……分からないから稲見に相談したんだろう」
「確かに」
暫し沈黙が流れる。互いに空を見上げたり顎に手を当て妙案がないかと頭をしぼる。
隣に座る稲見を盗み見れば、いつになく真剣な表情を浮かべていた。ただ今更ではあるが、稲見を信用しても大丈夫かと懸念はある。
元々稲見が恋をしていたのは文子だ。もしかしたら琴音ではなく文子を選ぶ可能性も高い。
「取り敢えず、文ちゃんに会ってみて考えよう」
「自分が会いたいだけだろう」
「バレた? でもそれもあるけど、会ってみないと分からないかなって。文ちゃんの目的とか分かるかも」
勇希の意見に同意はしたくないが確かに一理ある。何故文子が琴音の意識を乗っ取っているのか、その目的を知る事が出来れば琴音を目覚めさせる手掛かりを掴めるかも知れない。
「分かった、会いに行こう」
2人は立ち上がると女坂を下り、神社の下に置いておいた自転車の所へと向かった。




