第7話 古代中国へ
あれから3日が立った。レイはまだ現れない。
「アイツ、ウソついたな……」
自室の机を見つめ、静かに呟いた。
「アイツがオレを連れ回したこと、会社に言いふらしてやる!」
と言っても方法がない、ということに気づくのに時間はかからなかった。
そうだ、あれは夢だったのだ。少しばかりリアルな夢を見ていただけなのだ。オレが夢の中で得たと思い込んでいる知識は、きっとずっと昔にテレビか何かで見たものなのだろう。こんな話を聞いたことがある。脳は一度覚えたことを決して削除しないと。脳のどこかに必ずしまい込まれているのだと。だからきっと、何かの拍子にその記憶が呼び覚まされて、夢の中に出てきたのだろう。
「そうだ、夢だったんだ、全部……」
思い込もうとしてもなかなか忘れられない。
「レイ……」
そう呟いて机に伏せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「翔、起きて!」
誰かがオレを呼ぶ声がする。ここはどこだ?夢の中か?
「ねえってば!」
声がだんだんと大きくなってくる。
「ねえ起きて!」
そこにいるのは誰だ……?
「ハッ!」
オレは目を覚ました。ここは自室の机。
「どうなってるんだ……?」
「やっと起きた」
後ろを振り返るとレイがいた。
「いつまで寝ぼけてるの?」
レイは微笑みながら言った。
「レ…イ……?」
「そうよ、私よ」
レイだ。確かにレイがいた。
「レイ!」
思わず叫んでしまった。
「どうしたの?」
「いや、なんか、もう会えないかと思って……」
「3日後にまた来るって言ったでしょう?」
「そうだけど、遅いぜ……」
「遅くないわよ、まだ21時じゃない?」
「いや遅いよ!」
タイムマシンがあるならもっと早く来られるでしょうと思いつつ、オレはレイとの再会を心の底から喜んだ。
「まあいいわ、とにかく、次の行き先は中国、春秋戦国時代よ!」
「春秋、戦国時代!?」
「ええ」
「そんな危ないところに行くの!?」
「大丈夫よ。前線には行かないわ。戦闘のない辺境の地域に行くから」
「いや、でも、なんか心配だな……」
「私たちは未来のテクノロジーを持っているのよ?死なないわ!多分……」
「その多分が怖いんだわ……」
レイはずいぶんと慣れているようだが、オレはまだタイムトラベルの危険性について良く理解していない。どんな危険があるのか、身を守るにはどうするのか。この前少し説明を聞いた覚えがあるけど、確か第二次世界大戦が未来人によって仕組まれた戦争だとか言ってたことくらいしか覚えていない。
「あのさ、レイがオレを連れ回してくれる理由って、オレが弟君に似てたからって理由だけなの?」
「ああそれね。だって、あなたを放置しておいたら、会社に連絡されるかもしれないし、周りの人に『未来人と会った』っていいふらされるかもしれないし。そうしたら私本当にクビになっちゃうから」
「いや、でもオレはレイの会社なんて知らないし、それに、周りに言いふらしたとしても、頭がおかしい奴だってオレがバカにされて終わるだけだろう?」
「うん、でも、何かあなたには感じるものがあったの。あなたに会いたくなったから来た。それじゃダメ……?」
レイはうっすら頬を赤らめて言う。
「い、いや、でもさ、あんまり現代人を過去に連れ回すのは良くないんじゃないの?」
「ああ、それなら大丈夫よ。前にも言ったけど、歴史っていうのはすでに決まってることだから、私が変えようと思って変えられるものじゃないの」
「でも、バレたら会社をクビになっちゃうんだろう?それってやっぱり危ないってことなんじゃないの?」
「それはまあ、会社が勝手に決めてるだけだから。理論上は絶対に歴史は変わらない。でも、いまだにそれを理解しようとしない保守的なお偉いさんたちが『いや、万に一つでも歴史が変わる可能性があるのなら、細心の注意を払わねばならない!』って言って聞かないのよ」
「そうなのか……」
なんだか少しモヤッとするが、理論上大丈夫なら大丈夫なのだろうと無理やり納得し、オレはタイムトラベルを楽しむモードに切り替えることにした。
「よし!変身服ちょうだい!」
「そう来なくっちゃ!」
レイから変身服を受け取るとオレは早速装着する。
「じゃあ、春秋戦国時代に出発よ!」
「オウ!」
キュイイイイン
タイムマシンは数センチ浮き上がり、ヴンという音とともに光って消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴン
「ここはどこだ?」
「ここは紀元前500年の陝西省宝鶏市太白県。秦の国があったところよ」
辺りを見渡すと、山。山しかない。
「なんでこんな山の中を調査するんだ?」
「上の命令。私が聞きたいわよ」
「はあ……」
地球は広いんだから、こんな山の中までいちいち丁寧に調べ上げているんじゃ、何億年経ったって終わりっこない。そこまで万能な翻訳機を作りたいのか……
「とりあえず、この街道を行けば村があるはずだから、そこを調べるわよ」
「ほーい」
春秋戦国時代に行くなんて言うから、もっと大きな城壁や古代建築が見られるのかと思えば、こんな辺境に連れてこられて。なんだか期待外れだなあなどと思いながら道を進む。
「あったわ!あそこ。村がある」
「本当にあった、けど……こんな小さいの……?」
そこには家が数軒しかない小さな村がポツリとあった。
「本当に上の人はなんでこんなところを調査させたんだ……」




