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第1話 タイムマシン不時着

「おやおや?(しょう)君、どうしたのかね?」


 英語の答案を見つめながら激しく落ち込んでいるオレに友人の英輔(えいすけ)は話しかけてきた。


「見て分からねえか?」

「うーん、英語の点が悪かったから落ち込んでいるのかな?」

「分かってんなら聞いてくんなよ……」


 オレはため息をついた。


「まあまあ、32点も取れてるじゃないの!」

「うるせぇ……」

「ちなみに、オレは何点だったか知りたい?」

「知りたくねえよ……」

「そうかそうか、特別に教えてあげよう。今回はなんと96点でした!!」


 聞いてもいないのに自分の答案用紙を見せびらかしてくる。まったく調子のいいやつだ。


「悪いが今日の予定はキャンセルだ。帰ったら解き直しをしないと……」

「ええ、いいじゃん、解き直しなんてしなくても。せっかくテスト終わったんだから遊ぼうよぉ~」


 英輔がすり寄ってくる。


「やめろ、気味が悪い!」

「しょうがないなあ、じゃあさ、明日にしようや」

「分かったから離れろ!」


 まったく騒がしい奴だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ただいまー」

「おかえりなさい」


 家に帰ると母さんがいた。


「今日テスト帰って来たでしょう?」

「まあ、うん……」

「その反応は、あまり良い点ではなかったということね?」

「まあ、うん……」

「お見せなさい」

「はい……」


 オレはリビングに向かうと、母さんに答案を見せた。


「社会94点、数学72点、英語32点……」


 母さんはため息をついてオレに言う。


「あなたはやっぱり英語だけはとびぬけて苦手なのね……」

「遺伝だよ」


 母さんは苦笑いして肩をすくめた。


「そうね、否定できないわね……まあ、よく解き直すのよ」


 うちは父も母も妹もオレもみんな英語ができない。だから母さんもオレに英語力を求めることはない。諦められているのだ。


「あーあ、英語なんてなきゃよかったのに。なんで世界にはたくさんの言語があるんだろうか……」


 バベルの塔を建てようとしたことが原因なのだろうか。いやまあ、そんなことはどうでもいい。とにかくオレはテストを解き直さなければならない。リビングを出て階段を上り自室に入る。


「よいしょっと」


 カバンを置いて机に向かおうとしたその時、


 ガタガタガタガタ


 家が揺れている。天井がミシミシと音を立てている。


「地震か……?」


 そう思った次の瞬間―


 ドォンッ!!


 爆発のような音と共に天井が丸ごと吹き飛んだ。舞い上がる木くずと埃の中に、銀色に輝く奇妙な球体が浮かんでいた。


「えっと、どういうこと……?」


 状況が全く飲み込めない。困惑していると、今度はその謎の乗り物の中から変な服を着た女性が下りてきた。


「あいたたた……」


 女性は肘を抑えながらこちらへ向かって来た。


「あなた、大丈夫?ケガはない?」


 オレに尋ねる。


「いや、まあ、はい……」


 オレはわけも分からないまま答える。


「ごめんなさい、タイムマシンが暴走しちゃって、あなたの家に不時着させてもらったわ」


 女性は汗を拭きながら息を整えた。


「えっと、タイムマシン?」

「あ、そうよね、いきなりタイムマシンだなんて言われても分からないわよね。とりあえず、家を壊しちゃってごめんなさい。今直すわ」


 女性はステッキのようなものを取り出すと天井に向けて振りかざした。


「え、どういうことだ!?」


 みるみるうちに天井がふさがっていく。まるで時間が巻き戻されているようだ。


「ねえ、今の何の音?」


 母さんが二階に上がって来て扉を開けた。


「ねえ、何か壊れたの?」

「いや、壊れたけど直ったっていうか……」

「あらそう、気を付けるのよ」

「はい……」


 何が何だか分からない。とにかくさっきの女性に聞いてみなくては。


「あのう、これは一体どういう……」


 いない。姿が見えない。さっきまでいたはずの女性がいなくなっている。銀色の球体もなくなっている。


「あれ、どうしたんだろう、幻覚でも見たのか……?」

「幻覚じゃないわ、今お母さんが来たから、見られないように透明化したのよ」


 ピーッ。

 小さな電子音と共に再び女性と銀色の球体が姿を現した。


「あのう、これは一体どういうことなんですか?あなたは未来人なんですか?」

「そうね、あなたたちから見ればそういうことになるわね」

「一体いつの時代から来たんですか?」

「今から200年後くらいね」

「どうしてこの時代に?何があったんですか??」

「まあまあ落ち着いて、順を追って説明するわ」


 女性はベッドに座り込むと説明を始めた。


「私の名前はレイ。2208年生まれ。翻訳機メーカーで働いているわ」

「翻訳機メーカー……?」

「そう、イタクテックという、翻訳機を作る会社よ。私はデータ収集担当だから、古今東西いろいろな場所の言語を収拾して、会社にデータを送っているというわけ」


 普通ならこんなことを言われても信じないであろうが、急に出現した謎の乗り物のことを考えると、信じざるを得なかった。


「つまり、未来から昔の言語を調べに来たってこと……?」

「そう、でも、本当は2020年代に来るつもりはなかったのよ。この時代の日本地区のデータはほぼ完璧に記録されているから」

「じゃあ、どこへいくつもりだったの?」

「西暦700年の藤原京よ」

「700年?藤原京!?」


 レイと名乗る女性はこれから飛鳥時代の日本へ行こうとしていたのだ。


「あ、えっと……」

「うん?」

「あの、お願いがあるんだけど、オレも一緒に連れてってくれない?」


 もともと歴史が好きだったオレは、気づけばそんなことを口走っていた。なぜ自分でもこんなことを言えたのか分からない。


「え、それはちょっと……」


 レイは少し困った表情を見せた。


「あ、いや、やっぱりダメだよね……?」


 オレは諦めることにした。タイムトラベルなんて気軽にしていいものじゃないだろうし、万が一変な亜空間なんかに飛ばされて21世紀の日本に帰って来られなくなったら困る。


「分かったわ、ここに不時着したのも何かの縁だと思うし、ついてきていいわよ」

「え、いいの?」


 予想外の返答にオレは困惑した。


「いいわよ、その代わりこのことは絶対に誰にも内緒にしておいてね!」

「うん、もちろん!」


 オレは笑顔で答えた。

 こうしてオレはレイと共に藤原京へ向かうことになったのだ。

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