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2 居合だ

「……助太刀感謝する。まさかこんなところでダイアウルフに襲われるとは……」


大柄で屈強そうな男の護衛騎士に感謝される。


ここらへんでこのダイアウルフという魔物は珍しいのかな。


「礼には及ばない。当然のことをしたまでさ。」


君たちの驚いた反応で俺は満腹だ。腹は空いてるけどね。


どや顔で護衛の人と話していると、馬車の扉が開き、中から天使が降りてきた。


輝かしい銀色の髪に、宝石のような翡翠色の瞳した、まだ幼さを感じさせる美少女。


う、美しすぎるっ!


「姫様!まだ何があるかわかりません!馬車の中にお戻りを!」


馬車の近くにいた女の護衛騎士が注意をする。


「大丈夫ですよ。冒険者様にお礼を言わせてくださいませ。わたくしはイングリス王国第五王女のリリベットです。お助けいただき誠にありがとうございます。」


王女様だったとは、こんなにも美しいお姫様がいるんだな。よく見れば、確かに豪華なドレスだし馬車も品がある。護衛の人たちも高価そうな鎧や剣を身に付けている。


それにしてもお礼をするために降りてくるなんて、なんていい王女様なんだ。


「もしよろしければ、街までご一緒にいかがですか?街に着きましたら、改めてきちんとお礼をさせていただきたいのです。」


にこりと微笑むその美しさに、俺の心を射抜かれた。


お姫様のお願いを断るなど、言語道断である。


「もちろんですとも!どんな魔物が来ても一刀両断して見せます!」


俺の勢いある返事に目を丸くする王女様。


「まぁ。頼もしい限りですわ。」


くすっと笑って見せたリリベット王女、美しすぎる。


こうして俺は、王女様を乗せた馬車と共に、アレスの街へと向かった。


城壁にぐるっと囲まれた城下町といった風情だ。正門には町へ入るために人々が並んでいるが、王女様ご一行は俺も含めて素通りである。行列に並ばなくて。


「ここがアレスか。これでやっと冒険者になれる。」


「む?まだ冒険者登録されていなかったのか?」


先ほど俺と会話した大柄の護衛騎士が俺の呟きに反応して話しかけられた。


「ああ、今日十五歳になったばかりだからな。」


「ほう。どこから来られたので?」


「オワリ村から来た。」


「オワリ村?申し訳ないが、知らぬ名前の村だ。」


「田舎村だからな。仕方ないさ。」


雑談のような会話をしながら、町の大通りを進んで行くと、頑強そうな城へと辿り着いた。


城の前には、王女様のお出迎いに高貴そうな人たちが出ている。


馬車から王女様が降りようとすると、冒険者風の男が、必死の形相で城に近づいてくる。すぐさま護衛騎士たちが警戒態勢にはいると、その男が叫ぶ。


「領主様!スタンピードが発生しましたぁあ!」


マジかよ。


「なんだと?!」


王女様を出迎いに出てていた壮年の男が驚きの声を上げる。


あの人が領主か。とすると周りにいるのは領主の家族か。


「ダンジョン『巨木の森界』から、魔物たちが一直線にこのアレスを目指しています!!」


どうやら大分危機的な状況っぽいな。さっきのダイアウルフも関係してんのかな。


「くっ!兵を向かわす!申し訳ございませんリリベット王女殿下、緊急事態につき、席を外させていただきます。」


「ええ、仕方ありませんわ。」


「私もお供します父上!」


領主の息子らしき青年が声を上げる。イケメンだな。


「ダメだ。ロドリック、お主は王女殿下をお守りしろ。」


「私が王女殿下を……?!」


領主はそれだけ告げて、準備を整えるためか城の中へと戻った。


ロドリックが王女様をちらりと見て顔が青ざめる。まるで王女様のことを恐れているかのように。


こんなに美しくかわいい王女様のどこに怯えているんだ?


「あ~、ごほん!王女様、俺も行ってきます。」


ロドリックのことは気になるが、俺の居合斬りを大々的にお披露目するチャンスだ。逃す手はない。


「ええ、冒険者様の力は必ずお役に立ちます。この街を守るためにご助力お願いします。」


「それはもちろんです!」


王女様からも期待されている。全力で応えねば!


「エラルド、冒険者様と共にアレスを守って下さい。」


「かしこまりました。姫様。」


この大柄な護衛騎士はエラルドというのか。今までの会話も全部エラルドとしているから、まるで俺の担当みたいになってるな。


「それでは、行ってまいります。」


俺たち二人は来た道を戻り、正門へと向かった。街の中を走っていると軽いパニックになっている様子が見て取れる。急いで帰宅する人や店じまいをする人々、兵士や冒険者風の者は俺たちと同じく正門へと急いでいる。程なくして正門へと辿り着く。


「状況はどうなっている?」


正門近くにいた兵士にエラルドは声をかける。


「これは騎士様!魔物たちは一刻もしないうちに城壁まで到達すると思われます。」


エラルドの立派な鎧と盾と剣を見て、どうやら位の高い騎士と判断して兵士は丁寧に対応する。


「ねぇ、城壁の上から見ていい?」


俺が聞くと、兵士は怪訝そうな表情で俺を見た後、確認をするようにエラルドに向き直る。


「どうなんだ?」


「はっ!もちろん問題ありません!」


俺の恰好は、どう見てもそこらへんの村人が剣だけ持っているみすぼらしさだから、エラルドと対応が違うのは仕方ないと理屈ではわかるが、ムッとするな。なんにせよエラルドがついてきて助かった。


「おぉ!見えるねぇ」


城壁の上から眺めると、遠くの方で土埃が舞い上がり、大量の魔物が近づいてきていることがわかる。


「ダイアウルフもいるぞ。」


「良い目をお持ちだ。流石です。それと、どうやらエルダートレントも出てきているようですな。」


「エルダートレント?」


「あの大きな木の魔物です。ダイアウルフと同じくBランクではありますが、たしか『巨木の森界』のダンジョンボスだったはず。あの大きさからしても普通のエルダートレントよりも強敵の可能性があります。」


「ふーん。大したことはなさそうに見えるけどな。」


「頼もしいですな。」


それ以外にも虫や獣の魔物も見えるが、名前は知らない。全部で3189匹か。


居合斬りには弱点がある。それが数の暴力だ。複数相手でもある程度は問題ないが、許容量を超える敵の数は斬れない。


とはいえ、あの程度は問題ないな。


「ところであれ、全部斬っても問題ないのか?」


「全部……?」


エラルドが驚愕の表情を浮かべているが、この確認はしっかりしないと、後で文句言われても困るからな。


「うん。」


「……うむ。まあ、問題はないだろう。」


「そうか。なら、前に出るぞ。」


俺は城壁の淵に上り、そこから飛び降りて外へと出た。エラルドも続いて降りてくる。


「いきなり飛び降りないでいただきたい。堀もあるというのに。」


ちらりと振り返って堀を見る。


「このくらい飛び越えられるだろ?」


「はぁ……まったく困った人だ。」


?何か困らせることをしただろうか?まぁいいや。


城壁の外には、魔物を迎え撃とうとする冒険者たちで溢れ返っている。


「人がいっぱいだな。仕方ない。飛び越えるか。」


俺が飛ぼうとすると、エラルドが肩に手を置いて制止する。


「飛ばずともよい。」


「私はエラルド!リリベット王女殿下の護衛騎士だ!道を開けろ!!」


エラルドが声を張り上げると、皆が振り返って道を譲る。


おお、こういう時に身分ってのは便利だなぁ。


最前線の位置へ出ると、一人の冒険者の男が近づいてきて話しかけられる。


「エラルド殿、魔物相手は我々冒険者に任せてほしい。」


「もちろんわかっておる。が、王女殿下に町の守りを頼まれた身。最前線には混ざらせてもらおう。」


納得したのか男の表情が緩む。


「そういうことなら、この場の指揮を執る。なんて言い出すかと思ってね。そんで、そのガキはなんだ?」


ん?こいつ、俺のことを見てガキとか言ったか?ちゃんと成人しているわ!


「この方も冒険者だ。それに、私なんかよりも遥かに強い。」


「へぇー、それなら問題はねぇよ。」


まったく、見た目で人を判断するとは、この男もまだまだだな。


「そんじゃ、俺はもっと前に行くね。」


俺はそう告げて、歩き出す。さっさと魔物共を斬って終わらそ。




「……本当に大丈夫なのか?」


冒険者の男は、成人したかどうかも怪しい若いひよっこが、前に歩いていくのを見て、心配そうに呟く。


「……問題ない。」


エラルドも全部斬ると宣言したことには流石に半信半疑ではあるが、あの若い冒険者がダイアウルフを一瞬にして斬った事実がある以上、信用することにして冒険者を安心させるように告げた。


「あんたがそう言うならいいが、な。」




やっときたか。前へと歩いていると、魔物たちがいい距離まで近づいてきた。


姿勢を低くし、集中して抜剣の構えをとる。全ての魔物を捕捉し――


キィン!


剣を納めて、全ての魔物が真っ二つに両断した。


「「ええええええええええ」」


後ろにいた冒険者や兵士たちの驚愕の叫びが、俺の心を満たす。


「一体何が起きた?!」「魔物たちが突然斬れたぞ!!」


困惑の声が次々と上がる中、エラルドが声張り上げた。


「魔物たちは全て!!イアイダ殿によって!斬り捨てられた!!英雄の誕生だ!!」


「……う、うおおぉぉ!!」


歓声上がる中、俺は動きを止める。


イアイダって、誰?

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