第3話 帰れない(終)
五度目。六度目。
もはや数えるのも億劫になっていた。
緑の光。
同じ看板。
同じ駐車場。
同じ建物。
アクセルを踏み込んでも、ブレーキをかけても、結果は変わらなかった。
ただ延々と、同じコンビニの前を通りすぎる。
「……帰れない……のか?」
口の中で呟いた声は、自分のものとは思えないほど掠れていた。
ダッシュボードに置いた腕時計を見る。
針は九時二十分を指したまま、まったく動いていない。
ポケットのスマホを取り出しても、画面は真っ暗で、電源が入らなかった。
――いつからだったか。
フロントガラス越しに見えるコンビニの窓の中に、黒い影が立っている。
それは毎回、同じ位置に、同じ姿勢で。
まるで「待っている」かのように。
やがて彼は、数えることもやめた。
どれほど走っても、必ず同じ場所に戻る。
もはや道という概念すら薄れ、ただ“通りすぎる”という行為だけが延々と繰り返される。
――この町には、こんな噂がある。
疲れ果てた営業マンが、近道のつもりで迂回路に入ったまま帰ってこなかった。
夜な夜な裏道を走ると、同じコンビニを何度も何度も通りすぎる。
その時、窓の中に立つ影と目が合ってしまったら……二度と家には帰れない。