賢者の石の話
賢者の石という題で何か書けるかなと思ったのですが、なんかこっちの方向に行ってしまうんですよね。
ここはニアの町の酒場。
私は目の前に座る青年の話を聞いていた。
「賢者の石?。ただの石を金に変え、あるいは死者を蘇らせるというあの賢者の石か?」
「そうだ。あなたがその情報を持っていると聞いた」
整った顔立ちの青年はじっと私の顔を見て言った。
突拍子もないことを言われ私は困惑していた。
「伝説なら聞いたことがあるが、賢者の石というのはおとぎ話だろう?」
青年は両手を組んで顎に乗せて言った。
「古の錬金術師ルフェルウス、彼が賢者の石を作った。そしてゼーレーンさん、あなたはルフェルウスの子孫なのだ」
決めつけられても困る。
「おとぎ話につき合うつもりはない。だいたい賢者の石があるなんて聞いたことがない」
それでは失礼する、と言って立ち去る私を青年はじっと見ていた。
酒場から出た私は町の北東に広がる湖から吹く風を感じていた。
伝説によるとこの湖はかつての王国の都で、ある日賢者の石が暴走して一夜にして都は湖に沈んだとされている。
そういう昔話もあってニアの町は賢者の石を観光の目玉にしているのだが、賢者の石自体があるわけではない。
ああいう勘違いをする者も時々出てくるのだろうが、私がルフェルウスの子孫だというのは何の冗談だ。
あれは完全に信じている目だった。
違うと言っても効かないだろうし、しばらくうるさいことになるな。
家に帰ると妻のフラミアがお帰りなさいと言って出迎えてくれた。
今日の出来事を伝えると少し困っていた。
「おかしな話が出回っているのね」
青年が言っていたことは全部間違いだ。
賢者の石なんてないし私はルフェルウスの子孫などではない。
私たちは知っている。
ルフェルウスは魔法が使えたこと、魔法使いということを隠すために賢者の石を使ったことにしたこと、そしてルフェルウスには子供がいなかったこと。
私たちは夢でこのことを知った。
夢でルフェルウスが教えてくれた。
そして何故ルフェルウスは私たちの夢に出てきたのか。
「お前さんたちに娘が産まれるだろう。どうも私の魔力を継ぐらしい。わしのようにならないよう育てておくれ」
ルフェルウスは魔法の力を賢者の石の力とごまかしていたが、権力の亡者や金の亡者につけ狙われ、最後は怒って王都ごと吹っ飛ばしてしまったらしい。
「若気の至りじゃった」
娘をそんな目にあわせないよう見守ってくれているのだった。
しかし、何者かが娘のことに気が付いたということか。
「まだわからんが、悪い奴が来たら蹴散らしてやるわ」
夢から覚める。
ベッドで眠る娘の姿を見ながら、必ずこの子を守ろうと皆で想いを確かめるのだった。