アルス・フォン・マガル III
目が覚める…
「ん…もうこんな時間か。」
アルスは少し気だるそうに体を起こす。
「懐かしい夢を見たな…昔の…夢…」
懐かしさを感じながらいつものように身支度をして仕事に出かけようとしている
「…疲れたな」
毎日、休みもほとんどなく働き詰めだったからなのか今日は特段疲れが見える
「ダメダメ!!元気だしてかないとっ!!よしっ!頑張るぞ!!」
自分に喝を入れ意気揚々と玄関のドアノブに手を伸ばした…其の瞬間
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?!?」
部屋が揺れたと共に悲鳴が聞こえた
「!?…」
緊急事態だと思いすぐさま悲鳴が聞こえた方向に急ぐ。
その道中で妙に道が荒れ、人がいないことに気がつくが今は急がなければ…
「はぁ…はぁ…大丈夫ですか!?!?…っ!」
駆けつけた先は思いもよらないものだった。
3m程の巨躯で禍々しい角と牙を生やし大きな翼をもった紫色の人型の魔物…
そして無惨にも臓物を貪られ、息絶えた者がいた。
「デビルガルマ!?…なんでここに!?」
デビルガルマと呼ばる魔物はこちらの姿を認識した途端食すのをやめ、襲いかかってきた
「ぐがおおおおおお!!」
すぐさま戦闘態勢に入る。
右ふくらはぎに携帯していた刃渡り20センチ程の短剣を右手に持ち構える。
デビルガルマは右腕を大きく振り上げ攻撃をしてくる
「ぐ…!?」
それを右腕を突き出し左腕で支える形で受けるが…
「うがっ!?」
強すぎる力で押し切られる。威力は軽減出来たが腹部に一撃を貰もらう
(っ…ダメだ力が強すぎる…真っ向勝負じゃあ勝てないっ!)
溢れんばかりの力を振るおうとする魔物から距離をとる
(というか…なんで迷宮の最深部にしか出てこない魔物がここにいるんだよ!?)
通常、迷宮と呼ばれる各ダンジョンの最深部にしか出てこない魔物…上位クランの人間が複数人挑んで行ける場所の魔物だ…
(僕には勝てない…にげる?…だめだ!!ここで倒しておかなければ皆を危険に晒してしまう…なんでここにいるかなんてのは後だっ!!)
決意を固め集中する…
「ぐかぁお!!」
またも右腕を振り上げ攻撃を仕掛けてくる
「…っ!」
右方向に腕の下をくぐりぬける形で回避をし脇腹の辺りに刃を当て切りつける
「っよしっ!!はいった!」
傷を負わせることに成功したと思ったが金属と金属を擦り合わせたような音が鳴る
「え?」
刃先が少し削れる。
「そんな…」
デビルガルマにダメージらしきものは見えず、まるで何も無かったかのようにたっている
「硬すぎる…」
デビルガルマはまたも攻撃をしかけてきた。
その力は強力無比だが直上的な攻撃ばかりで躱すのは容易だがこちら側の決定打が無いため押され始める
「ふっ!はぁ…ぐっ!ぁぁあ!」
体力を消耗し続けやがて強力な一撃をもらってしまう
「ぐぶっ!?…げぼっ!」
2度の腹部への強打
今度は無防備の状態で入れられ吐血をする…
「やばい…少し距離をとらないとっ…」
距離を取ろうと少し後退したとき真右から壁が崩れ去る音が聞こえた
「え…?」
そこから2体目のデビルガルマが姿を表す…
咄嗟に振り返り走り出す
(僕の力じゃ勝てないっ!!近くに助けてくれる人も居ないっ…ならっ!あそこに…あそこに行けばっ!僕…もろとも!!)
アルスが向かおうと思った先は爆薬庫だ。
鉱魔石の発掘作業以外にも使われる爆薬庫。
普段は厳重な警備をされているがここへ来る時に人の姿らしきものが見えなかった。
なぜこの緊急事態に気づけなかったのか一瞬疑問に思ったが今はとにかく足を走らせることに集中する。
だがデビルガルマがアルスの逃走を許すはずがなく追いかけてくる。
「くそっ!」
足の速さそして体力の消耗でじわじわと距離を詰められて行く。
遂には腕を捕まれ投げ飛ばされてしまった。
「ごっ!?…げほ…げほ!げほっ!」
死を確信する。
ゆっくりと近づいてくる死を運ぶ魔物が2体。
目が霞んでくる…
「ごめんなぁ…ルナ…こんな不甲斐ない兄でごめんよ…また一緒にショートケーキ…食べたかったなぁ…」
ビリビリ
電気が走ったような音が聞こえる
「雷帝」
そうぽつりと言葉が聞こえ。
無数の雷が降り注ぐ。
デビルガルマは為す術もなく雷を浴び塵となって消失して行く…
途切れゆく意識の中ポツリとこう思った
「綺麗…」
そして意識を失った…