アルス・フォン・マガル II
アルスは夢を見た
昔の…そう昔の夢を。世界樹に来る前の心優しき少年の話。
「10歳の誕生日おめでとう!!お兄ちゃん!!」
可愛らしい声が聞こえる…1切れのショートケーキを持った白髪の少女である片目は髪で隠れて見えないが綺麗な赤色の目をしている
「え!?ショートケーキ…?どうやって買ったんだい?…ありがとうルナ…大事に食べるね」
アルスは少し驚いたが本当に嬉しそうな笑みを浮かべ頭を撫でる
「えへへ…///お兄ちゃんがいつも私の為に頑張ってくれてるからね!近所のおばあちゃんのお手伝いを沢山して買ったんだ!」
妹が自分のためにお金を稼いでケーキを買ってくれたことに涙が出そうになる…
それもそのはずだ、この兄妹には親がいない昔はいたらしいがもう覚えていない突然いなくなってしまったらしい…
幼い兄妹にとってそれはどれほど苦しいことか…兄は死にものぐるいで仕事を探しお金を貰うを繰り返す…まともに妹の誕生日を祝ったことがないと言うのに…こんな不甲斐ない兄のために生まれて8歳も経たない妹が祝ってくれたのだ
「ありがとう…本当にありがとう…ごめんな…こんな兄で…ごめんな…」
涙が溢れる妹には不自由に暮らして欲しくない…もっと…もっと…稼がなくては…
「お兄ちゃん?泣いてるの?悲しいことでもあった?そうだっ!ぎゅー!ってしよ!!私ね!お兄ちゃんにぎゅーってされると落ち着くの!だからね!お兄ちゃんも!はいっ!」
ふふんっ!と自信満々な表情をしたルナが手を広げ抱きつくように促すそれに応じるアルス…このひと時の幸せは今までの苦痛をやわらげてくれる…
「ふふ…ありがとうルナ…ケーキ買ってきてくれたんだろう?一緒に食べようか!」
目尻を赤く染めたアルスが満面の笑みで言う
「うんっ!!」
小さな幸せだった…
3年後
幸せは絶望へと変わる幸せとは永遠ではない…
久しぶりに休みを取れた兄と街中を歩く。
久しぶり休日だ思う存分甘やかそう…そう思っていたつかの間…
「ゲボっ!げほ…けほけほ!!」
赤い液体を吐く。足が揺れ。膝から崩れ落ち。胸を抑えるその表情は苦悶に満ちていてとても痛々しい
「ルナ!?ルナ!!!…誰か!!!誰かいませんか!?…くそっ!!」
アルスは緊急事態だと思い周りの人々に助けを求めるが残酷なことに見てみる振りを貫いていた…アルスはルナを担ぎあげちかくにある病院に走るどうかルナが無事であるようにと願いながら
病院検査室
「検査の結果ですが…原因がわかりました」
申し訳なさそうにその医者が口を開くアルスは不安で顔が青ざめながら話を聞く
「魔裂鉱症です。」
アルスにとって聞きなれない症状だ
「そ…それはなんて言う病気なんですか?」
恐る恐る症状の詳細を聞く
「…それは…落ち着いて聞いてくださいね?…体内部に魔力を帯びた鉱石のような物質が生まれ人体を傷つけながら体内部をじわじわと侵食し最終的には…鉱石そのものになってしまう発症例が3人しかいない珍しい症状です」
詳細を聞いたアルスの顔がみるみる生気を失っていく過呼吸になる呂律が回らなくなる…たった一人の肉親を失うかもしれない不安
「せ、せん、先生!なおるんですか!?治るんですよね!?先生!!」
冷静さを失っているアルスに先生は言う
「治りは…します。莫大な費用があれば…ですが」
安堵の色を見せるアルス
「よ、よかった、なおるんですね!先生!」
胸を撫で下ろし安心する…が
「莫大な費用があれば…です。この症状は厄介でしてね体内で生成される鉱石は魔法で取り除くのですがその鉱石は魔力を帯びていて取り出すのに凄腕の魔法使いが30名ほどをあつめ体内を傷をつけずに何十時間も摘出作業をする必要があります。それに…まだこの子は幼い…摘出作業に耐えられるかどうかも…わかりません」
淡々と現状を報告し続ける
「摘出にかかる費用はざっと2000ゴールド、鉱石の成長を抑制するのに1年間で350ゴールド程でしょうか…」
夢だと思いたい…悪い夢だと…だがこれは現実だ…時間は待ってくれない…
(そんな…僕が1年で稼げるのはせいぜい120ゴールド…ぜんぜんたりないっ…どうすれば…いいんだ…)
妹のルナを病院に預けた…横たわり意識を失っていわば植物状態のルナその姿は美しく見えた…
「またねルナ…」
絶望…絶望…今あるのは絶望だ。たった一人の肉親が居なくなる…1人になってしまう愛する妹が居なくなってしまう…前が暗い真っ暗だ…何も見えない…
「ん?」
チラシが落ちていた…そこに書かれていたのは
「世界樹の迷宮?」
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