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死神さんは私の守護神  作者: あいはらしのや
8/10

逢いたい人

 あの事件から、2カ月が経った。


 警察の事情聴取、犯人達の逮捕、遺体捜索と慌ただしく過ぎていった。


 ―――――――――――――――――――――――

「君に聞きたいことがある。」

 そう言って伊達警部に呼び出された。署内の一室に入ると、探していた大塚慶次さんがいた。


「他の人には詳細は話してないんだが、何故かこの手紙が置いてあってな。何か知らないか?あまりにもタイミングが良すぎて、置いた人物も防犯カメラに映っていないし…。伊達をいだちって読んだ、アイツが付けた俺のあだ名を知る筈が無いんだが…。」


「俺は死んでたんですね。いだちさん…。」

 悲しそうに立ちすくむ大塚さん。


「私は、、信じられないかもしれないんですが、幽霊が視えるんです。その手紙は、私が頼んで置いていただいたものです。」


「何言ってる?こんな話を信じれるわけがない。」

「そうですよね。では…(これなら信じてくれるかも。)

 大塚慶次さんは身長170センチぐらいの天然パーマ。声は少し高めで、垂れ目。右耳にピアスを2つ、左に1つ。腕にはシルバーのブレスレット。あと…」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!何で、、そんな事を知ってる…?」

「今、ここにいらっしゃいますので。見たまんまを話してます。」

「そんな…。」

 驚愕する伊達警部は言葉を失った。暫く考え込んだ様子で、キョロキョロと辺りを見渡している。



 その様子を見ていた大塚さんが私に話しかける。

「俺の代わりに警部に伝えてくれないか?」

「分かりました。 あの、話したいそうなので、通訳しますね。」

 まだ状況を飲み込めてない伊達警部に、私は話し始めた。


『俺は、いだちさんに拾ってもらって、この麻取に配属になった。めちゃくちゃ良くしてくれて、心配してくれて、感謝してます!!

 俺…死んだ時のこと、思い出しました。囮捜査で俺があの時…連絡している姿を見られちまったから…だから…俺がしくじったからで。そんな顔しないで下さい。皆も気にしてるんすから。

 あと、毎朝皆が来る前に俺のデスクを見て拭いてくれてるの、知ってるんですよ?だから、いつもみたいに笑ってて欲しいっす。』


 話し終えると、伊達警部の目には涙が溜まっていた。


「あ…こんな事って…そうか。そうだな…。にわかにも信じ難かったんだが、信じるよ。アイツを麻取に引き入れるつもりはなかったんだ。でも、上の指示で仕方なかったんだ。顔が割れてない新人は囮捜査に使うと分かっていたのに。すまない。本当にすまない。。。」


 溢れる涙を拭いきれない伊達警部は、泣き崩れた。大塚さんもポロポロ涙を零し、ジャラッとブレスレットを付け差し出す腕は傷だらけの手。触れられないと分かっていても、大塚さんは伊達警部の大きな背中を擦っていた。


 暫くしてぐしっと涙を拭い、平静を保つように伊達警部が話す。


「いやぁ、みっともなかったね。では、この手紙のことは無かったことにしておくよ。」

 そう言って手紙をビリビリっと破いた。


「ありがとうございます。」

「こんな危ない事、もうしちゃ駄目だからね。」

「すみませんでした。」

「それと…」続く言葉を探す伊達警部。

「?」

「ここに…まだ、いるのかな?大塚は。」

「はい。そちらに。」

 私は大塚さんが立つ場所を指し示す。すると、伊達警部は椅子から立ち上がり、


「大塚慶次、ありがとう。任務、ご苦労だった。」

 明瞭な口調で敬礼をした。


「ハイ!」

 大塚さんも涙を浮かべつつ、敬礼を返した。


 私は通訳しなかった。伊達さんにその光景はまるで見えているようだった。



 大塚慶次さんの姿はだんだんと薄くなり、シャボン玉の様に輝きを放ちながら消えて行った。

「大塚慶次さん、今行きました。」

「そうか…。挨拶させてくれてありがとう。」



 部屋を出ると、黒神さんが待っていた。

「終わったか?」

「はい。最期の挨拶を出来て、大塚さん、安心した顔してました。」

「そうか。帰るぞ。」

「はい。家へ帰りましょう。」


 ―――――――――――――――――――――――


「麗奈〜!シュークリームだって〜!!」

「結月ちゃんなんでも作れるのね〜!」

「そんな事無いですよ。美津紀さんこそ、あの肉じゃがレシピ、本当に頂いても良いんですか?」

「勿論!!あの甘党さんに、デザート以外も気に入ってもらわないとね!!」

「/////そんなんじゃないですよ!」

「えー?顔赤いよ〜?」

「梨花さんまで!からかわないで下さいよ!」


 朗らかに笑い合う4人はまるで友達の様で、温かい時間が流れていた。私は姉ができたようで嬉しかった。

 でも、私には気がかりなことがあった。ずっと言葉にすることができず、飲み込んでは喉元に引っかかる鯵の骨の様に、チクリと刺さる。このまま一緒にいて欲しい…そんなの我儘だと知ってるから。離れる日が近いと分かっているから、聞かないでいたら楽しく過ごせるのに…


「皆さんは、ご家族に会いに行かなくて良いんですか?」


 私は出来るだけ平静を装い問いかけた。ここに居るよりも、会いたい人がいる筈。大塚慶次さんの様に。私じゃなく、もっと、大切な人が…。


 顔を見合わせ目を丸くする3人。ぷっと吹き出し笑い合う。

「結月ちゃん!!私達が嫌々ここにいると思ってるの?」

「楽しくて一緒にいるんだよ!?なんなら、ずっと居たいけどねぇ~」

「家族に会うのはやめようって3人で決めたの。とっくの昔にね!!」


「えっ!?」


 どうして?3人共家族仲が悪いとは思えない。今までも家族の話は私を気にしてか多くは無いけど、“小さい頃の話”とかは話の流れでしていた。行方不明届が出ていることからも心配されているのが分かる。なのにどうして…?



「あのね、私達も最初に会いに行ったのは勿論家族だった。でも、視えないの。どんなに悲しみに打ちひしがれている姿を見ていても、慰める事は出来ない。どんなに私達がここに居るって言っても、伝わらない。」

 美津紀さんが私の目を見て、ゆっくりと話す。梨花さんが言葉を続ける。


「哀しくて悲しくて、何度も泣いたよね。私は2人と一緒にいたから、耐えられたと思う。」

「私だってそうよ!あの時は本当にどうしようも無くて、死んじゃってるのに死にそうだったもん!!」

「もうっ!麗奈ったら!でもね、ほんと心に針が刺さってるみたいにずっと痛かった。だから、3人で話し合ってもう会わないでいようって決めたの。」


「家族が『元気でいるかもしれない。』って思うことも、死体が見つかったら『もう会えない。』って分かったとしても、今の、、、幽霊の私達が傍に居ても居なくても、変わらないと分かったの。今、私達は存在が無い。その時点で家族の中にはもう存在出来ないのよ。」

 美津紀さんはため息混じりに話してくれる。



 そうか。残された人達に寄り添ったって、彼女達が心残りなのは何処に居ても変わらない。残された人は、姿が見えないから希望を持ち続け、逆に姿を見て現実を見る。彼女達のどうすることも出来ない絶望はどれほどだっただろう。



「これ以上してあげることが出来ないし、私達も笑顔にはなれない。だったら、3人で楽しく過ごそうって!ね!!」

「どこでも行けるし、タダで遊び放題!」

 梨花さんも麗奈さんも明るく話す。


「そうやって過ごしていたら、突然、死神がやって来たの。」

「それって、もしかして黒神さん?」


 私の質問に美津紀さんが黒神さんのモノマネをしながら話してくれる。

「そうよ。『お連れいたします』って。だから、断ってやった。そしたら、『分かりました』ってあっさり帰っていったの。」

「で!その次の日から、毎日来た。1週間?2週間?とにかく毎日来るから、鬱陶しすぎてもう来ないでもらうにはどうしたら良いか聞いたの。」

 笑いながら梨花さんが続く。


「そしたら、『情報が欲しい。人を探してる』って。だから、北村さん探しを私達も始めた。」


 美津紀さんのモノマネを似てる〜!!と言いつつ麗奈さんも梨花さんも楽しそうに話す。


「正ーーー直面倒だったけど、死んじゃってから役に立てないって思っていた私達にとっては、嬉しいことでもあったかな?」

「私達の知ってる場所だったし、運良く体が見つかるかもって思って手伝った。そうしたら、結月ちゃんにも会えた!!」

「視える人って本当にいるんだって嬉しかったのよ?」

 私の手にそっと重ねる美津紀さんの手は、感触がなくてもあたたかい。


「私達の事情に結月ちゃんを巻き込んだ事、後悔してる。」

「結局の所、私達の家族には体が見つかれば先に進むことも出来ると思って、結月ちゃんを体よく使ったの。ごめんなさい。」


 私は麗奈さんと梨花さんの言葉に、ふるふるっと首を横に振った。

「全然大丈夫です。でも未だ…」


 テレビから無機質な声が賑やかな部屋に響く。

[速報です。先日、雑木林の中から見つかった白骨遺体について、身元が判明したとの情報が入りました。6年前より行方不明届が出されていました、立春館大学2年杉浦美津紀さん、山本麗奈さん、立川梨花さんの遺体だと分かりました。]

 テレビから流れるニュースの中に、“彼女達が過ごした時間”は無い。


「ありがとう。約束通り見つけてくれて。」

 美津紀さんは重ねた手を握り感謝する。麗奈さんはギュッとハグをしてくれる。

「ほんとに!!ありがとう!!」


「危ない目に沢山合わせてしまって、ごめんね。」

 申し訳無さそうな梨花さんに、私は腕をパタパタして元気さをアピールする。

「謝ることは無いです。ほら!私、丈夫ですし今だって、ピンピンしてますから!」


 すると、背後から声がした。


「誰のおかげだと。。。」

「黒神さん!いつの間に来たんですか!」

「いま来たとこだ。玄関ドア、開いてたぞ!危ないじゃないか!」

「過保護ですよ。黒神さんは。」

「過保護なもんか!!」

「大丈夫ですよ。何かあったら助けてくれるんでしょう?」

 先日の仕返しだ!と言わんばかりに黒神さんの赤面を期待し、皆の前で言い返した。


「そうだな。何か起こらないように傍にいるよ。」

「!?/////」


「何だか、距離が縮まったみたいね!?」

 やり取りを見ていた美津紀さんが笑う。


「私達、お邪魔よね!」

「そろそろ行きましょうか!」

 梨花さんと麗奈さんも顔を見合わせ立ち上がる。


「ええ。お世話になったわ。改めて、ありがとう。それと、さよなら!」

 美津紀さんが、別れの挨拶をする。


「こちらこそ、助けてもらって、、、ありがとうございました。皆さんの力になれて良かったです。さよ…」

 言葉に詰まった。


 私は“さようなら”が淋しく感じる程、彼女達に近づいてしまっていたのだと気付いた。


「貴方は生きてるから、サヨナラで良いのよ!!沢山生きて!」

「私達よりも必ず長生きして!」

「会えて嬉しかったよー!バイバイ!」


 3人はシュワァァァァンと温かな光に包まれた。


「さようなら!」

 私は消えかかる彼女達に、目一杯の声で応えた。

 3人は穏やかな笑顔を浮かべ、消えて行った。


 こうして事件は幕を閉じた。もうすぐ夏が始まる_。

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