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死神さんは私の守護神  作者: あいはらしのや
7/10

動く心

 雨脚が強い。掛かる土が濡れて冷たく重くなり、どんどん身動きが取れなくなる。空気も吸えない…。


 こういう時、助けてって言えたら良いのに…。私には、そんな資格ない。

「気色悪い」「変なこと言わないで」「あなたのせいで」「要らないの」


【そんなに嫌なら産まなければよかったじゃん!】


 あゝ、謝れなかったな…。


 被さる土が止まった。

「誰だ!!」

「お前どうやってここに来た!!」

「オラ!!やれ!!」


「グハッ!」「うぉわ!」

 人の争う声と音がする。




「結月!結月!!」


 聞き覚えのある声が土を退け、沈んだ体が軽くなる。


 土の中から抱き上げられた私は、誰かの膝の上で抱えられ、顔に被せられた袋が外された。顔に雨が当たる。


 朧気な意識の中で、薄く開けた目に映った顔は、とても悲痛に満ちた顔つきの黒神さんだった。


 口のガムテープ、手の拘束がそっと外される。


「黒神さん…私、死んじゃったんですかね。最期に黒神さんに送ってもらえるなら、知り合いになって良かったかも。」


「バカか。死なせてたまるか!勝手に死ぬな!」


 抱き上げられるが、体に力が入らない。

「じっとしていろ。」


 ザァー…激しい音を立てて山を潤す。

 雨が激しく降っているはずなのに、濡れない。両手で私を抱き抱えているから、傘は持ってない。なのに…


「ほんと、死神は神さまなんですね。」

「遅くなってしまった。すまない。」


 ぎゅっと力が入る腕はとても力強く、温かい。私は悲しそうな顔をする黒神さんの頬をそっと触った。意図は無かった。ただ、黒神さんにそんな顔をしてほしくなかっただけの、軽い気持ちで触れた。

「ん?」

「生きてる?」

「生きてるよ。」

「そうですか。あったかい。」

「帰ろう。」


 黒神さんは、私を抱き抱えたまま歩き出す。暗い木々の間から、スーツを着たガタイの良い男達が倒れているのが見えた。私を連れてきた人達だろう。そうだ!杉浦美津紀さん、山本麗奈さん、立川梨花さんの体もここの近くに…!!


「この近くに3人の体が埋まっているかもしれません。探しますので、降ろしてください。」

「この状況で何言ってる!」

「杉浦さん達は冷たい土の中でずっといるんです。私は、早く出してあげたい。」


「…気持ちは分かるが、直ぐに警察が来るから、任せておけ。3人の事は伝えてあるから。」


 パトカーのサイレンが響いて来る。


「分かったら、大人に任せておけば良い。」

「…はい。」


 雨音が草木に当たり、土の匂いと寒さが身に沁みる。

 ゆっくりと歩く黒神さんは、暗い顔。あ~あ。こんなにも、弱かったなんて信じられない。自分がもっと強いと思っていた。力だけじゃない、幽霊が視える自分が死ぬことに対して、こんなに怖いと思っているなんて知らなかったな。


「自分が弱い…とか思ってるだろ。」

「何でわかるんですか?」

「大体結月の考えそうなことだ。」

「そう…ですね。」

「結月は弱くない。だが、強くもない。人間なんて皆弱く、儚いもんだ。もっと人を頼れ。自分を大事にしろ。出来ないなら俺が甘やかすからな。」


「何ですかそれ。」

 へへへっと笑うと、黒神さんは真剣な顔つきで

「俺を頼れ。何度だって助けてやる。」


「そんな事言ったらダメですよ。黒神さんが損ですよ?私だけ得じゃないですか。シュークリームじゃ足りないでしょう?」


「…損じゃない。」


 近づく距離、額に触れる唇…


「俺が得なだけだ。」


「/////」



 山を下る途中、パトカーとすれ違った。


 もう、何が起こっていたのか分からないぐらい、心臓がバクバクしてる。捕らわれていた時と同じ様に鼓動が早い。心音が黒神さんに聞こえちゃう…!


 でも黒神さんの心音は、聞こえない。こんなに近いのに聞こえない。近づけば近づくほど、“遠い人”なんだと再確認してしまう…。



「あの、もう、大丈夫です。降ろしてください。」

「死神はそんなやわじゃないから、遠慮するな。」

「いえ、隣を歩かせてください。私は、守ってもらうだけ、頼るだけはしたくないんです。」

「強情だな。」


 そっと下ろしてくれた黒神さんは、優しく笑った。


 ―――――――――――――――――――――――


 ゆっくりと、お店まで帰ってきた。雨は上がり、東の空がほのかに色づいている。


 桂木さんが黒神さんと私に駆け寄ってくる。


「良かった!鬼十さん!無事っすか!?」

「心配かけました、大丈夫です。」

「私、組織犯罪対策部麻薬取締班の伊達と申します。お話伺いたいのですが、署までご同行願えますか?」


 警察手帳を見せつつ、桂木さんの横に立っているおじさんに言われ、答えようと口を開く前に黒神さんが割って入る。


「今は体調が優れないので、後日伺います。」


 私を隠すように立ちはだかり、キツイ口調で言い放つ。私の肩を寄せ、おじさんと桂木さんを避け、一緒に家の中に入って行く。


「分かりました。お待ちしています。」

 おじさんの声が、閉まりかける扉の外で聞こえる。


 玄関が閉まり、ちゃっかり黒神さんも家に入って来てる。


「黒神さん、大丈夫ですよ?」

「俺は、大丈夫じゃない。だから良いんだ。」


 何だか急に強引な気がする。ま、いっか。


「ゆっくり休め。」


 そう言うと、クルリと背を向け玄関のドアを開けて出て行こうとする。


「ま、待って…。」


 私、何言ってるの!?自分から出た言葉にびっくりした。

 黒神さんが一呼吸置いて振り向いた。


「待って、どうする気だ?」


 私の顔を覗き込み、にやりと笑みを浮かべる。イジワル〜!!なんにも考えてなかった。待たせてどうするの私!!


「お、お茶でも飲んでいきますか?」

 苦し紛れに出た言葉がそれだった。


 黒神さんは一瞬の驚きを隠すように言った。

「お茶だけで済まなくなると困るから、やめておく。」


 なっ!!/////


「また今度な。」

 そう言って黒神さんは、玄関を出て行った。


 ガチャリと閉まった玄関ドアの前で、私はヘナヘナと座り込んだ。


「なんなの〜/////!?」


 〜〜〜〜〜


「はぁー。何言ってんだ俺は/////」


 ===================================


 遡ること数時間前―


 PM10:40

 麻薬取締班 伊達警部

「ん!?こんな手紙なんかあったか?」


 封筒に入った手紙を取り出す。

[今日深夜0時に北村鉄工所倉庫3番 シャブ取り引きがあります。知ってるやつが、合図をくれる手筈です。大塚慶次   いだちさんすみません。よろしくお願いします。]


「慶次…どういう事だ…!?字体は似てないが、アイツのいつもの間違い…伊達って書けよ…。」


「班長、どうしたんすか?」

「慶次…の手紙が置いてあって…」

「先輩の?だって先輩は、、」

「分かってる。だが、この内容……準備しろ!!」

「なんすか?」

「慶次の張ってた倉庫で取り引きだ。」

「はい!!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 PM11:30

「おっ、出てきたッス!!」

 暗がりに隠れた桂木と黒神は警察の動向を見守っていた。


「オレ行ってくるっす!!  あのーすみません!!」


 駆け寄る桂木に、身構える捜査員達。

「何か用か?」

 1人の捜査員が声を掛ける。

「あの、大塚慶次という人に言われてきたんすけど、、、」

「お前は誰だ!あの手紙を置いたのはお前か?」

「桂木高志って言います。手紙?は知らないッス。でも、大塚慶次さんに北村鉄工所倉庫に、いだちさんを連れて来いと言われてるっす。今日0時の取り引きに合わせて、合図が来るッス!」

「お前、何言ってる!?何故その事を知ってる!?奴等の仲間か?ちょっと来い!話を、」

「話の途中で悪いが、大塚慶次に何かあった時には、桂木君を通じて連絡を取るようにと連絡があってな。取り敢えず、緊急で桂木君に従ってもらいたい。」


 黒神が差し出した名刺には、[警視庁組織犯罪対策部警視]の文字。


「警視…。わ、分かりました!!」

「では、近くまで行きましょうか。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 PM11:56


「連絡きたっす!」

「行くぞ!!」


 現場に到着するが、倉庫の場所が定かではなかった。明かりは付けられない中で、近くから声がする。


 《あっちに行け。》

 《了解》

 警察の連携は取れている。

 広範囲に取り囲み、男達の姿を捉えた。


 《今だ!!》

「動くな!警察だ!」

「逃げたぞ!!追えッ!!」

 散り散りに逃げる犯人を、捜査員達は次々に確保した。

「確保!!麻薬取締法違反、麻薬所持の疑いで現行犯逮捕する!」


 混乱に乗じて、1台の車が闇に消えた。


「結月は!?」

 黒神は声を荒げる。


「大変なの!!結月ちゃんが連れ去られたの!!」

 山本麗奈が、黒神に伝える。

「梨花と美津紀が一緒について行ったから、途中で会えると思う。私たちは何も出来なくて…ごめんなさい…!!」

 涙ながらに必至に訴える麗奈。

「何処に向かった!?」

「黒塗りの車で、そこの道を右に向かって行った。」

「桂木!!結月が黒塗りの車で連れ去られたみたいだ。この道を行ったらしい。俺は先に行く!」

「兄貴!!その先は山道に入る脇道があるッス!!」

「分かった!あと頼む!!」

「ハイ! 頼む…って言われた/////」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 黒神はフードを被り、宙を浮く。山道に向かう細い脇道をコートをなびかせ進む。

(結月、、くっそ。俺はまた失うのか…)


「黒神さん!」

 立川梨花が山道に入る手前で黒神を呼び止める。

「良かった!会えた!ここの道を進んで、左右に分かれるところがある。そこを、左に進んで下さい!結月ちゃんを絶対助けて!」

「ありがとう。必ず。」


 雨音が強くなる中、森の中に入って行く。

(頼む…間に合ってくれ)


「車…ここか?いや、人の気配が無い。」

 乗り捨てられた車を見つけるが、結月も誰も居ない。

「クソ!!結月…。結月!」

 呼ぶ声は森に吸い込まれるだけだった。


「結月!返事をしろ!!」

 森を無作為に歩く黒神は、呼びかけ続けた。


「!」

 暗い森の中で、ザッザッと土の音が聞こえた。

 黒神は音のする方へ急いだ。するとそこには、杉浦美津紀が泣きじゃくりながら、スコップを持つ男達の腕にしがみついていた。


「やめて、、やめて!お願い!!なんで掴めないのっ、、」


 怒りに震える黒神は、黒く深い闇を纏っていた。雷鳴が轟く。

「その手を止めろ。」


「なんだ?」「誰だ!!」


「黒神さん…!!」

 杉浦美津紀はその重い気迫にその場を離れた。


「お前どうやってここに来た!!」

「オラ!!やれ!!」


 黒神は拳を握り締め、襲いかかる男達をなぎ倒す。殴られた男は約3メートル飛ばされる。

「ヒィッ!!ま、待ってくれ!」

「殺してやろう。」

 稲光に照らされた姿は、この世の憎悪を表すようだった。鎌を振り上げる黒神の脳裏に過ぎった言葉…『貴方は殺しちゃだめ。私の為に人を殺しちゃだめ。』


 ピタリと止まった黒神の姿を見て、逃げようとする男。しかし、足を取られて転んだ所を黒神は蹴り飛ばした。


「そこで大人しくしてろ。」




 黒神は男達が埋めようとしていた土を、必死に手で掘り返した。雨に濡れ、どろっとした土が指に絡みつく。

「今度こそ、助けてやる!」


「結月!結月!!」


「黒神さん……?」


 ===================================

 こうして、私は命を繋いだ。。。

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