作戦決行
決起集会から1週間が経った。
時刻は18時頃。既に日は落ちた上、厚い雲に覆われ月も星も見えない。
『黒神さん、居ないですね。』
『ああ。見当たらないな。』
『少しずつ右に歩いてください。もうちょっと…』
ここは薄暗く鉄臭い、あの鉄工所倉庫の中。
私は黒神さんのコートの中。
警察官大塚慶次さんの目撃情報を彼女達から貰い、直ぐそこに居るヤンキー達に見つからないよう、二人羽織で張り込み中。。。
『もう少し右ですって!』
『歩き難いんだから、待ってろ。』
『うぉっ!?』
黒神さんのコートを踏み、2人の体が倒れる!
ドサッと倒れたものの、黒神さんが庇ってくれたため、一応バレてはいない。
『良かった〜』
『良かったじゃないだろ!何でついてきた!』
『そんなの、1人だけで張り込みなんて、黒神さん強く無いし。』
『なに~!?』
「誰だ!!」
暗がりに響く声
『!!!!』
口を塞ぎ、息を殺す。
「おい!お前見てこい!!」
「エッ!マジっすか?」
「いいから見てこい!!」
「ウッス。。」
少しづつ、足音が近づいてくる。
コツン。。コツン。。
「ハッ…」
黒神さんマジ!?このタイミングのくしゃみは無しだから〜!!!
「誰だよ…!!ゆ、幽霊じゃないよな!?」
ぶつぶつ言いながら、近づいてくる。ヤンキーは、幽霊怖い人多いの?
え~い!どうにでもなれ!!
私は近くにあった小石を手に取り、鉄製の機械に向けて投げつけた!!
カーン!!
と高い音が響くと同時に、
「うゎあああ!!」『ハクション!!』
「どうした!何かあったか?!」
「ゆ、幽霊っす!!」
「はぁ?いるわけねぇだろ!」
「い、いるっす!!鉄の音が、、カーンって!!カーンって!!」
「ふざけてんじゃねぞ!お前は役に立たねぇな!!」
「す、すんません!」
バタバタッと走っていく姿を、コートの隙間から覗く。
良かった〜!!何とかなった〜
もう!!くしゃみなんて、タイミング悪すぎ!
どこからか、着信音が鳴る。
「はい。…分かりました。…ではそのように。」
男が返事をしている。その男は電話を切ると、近くに居た若い男を呼び寄せる。
「今日、決行だ。準備しとけ。」
言葉を発さず頷いた若い男は、誰かに電話を掛け始める。
「準備しろ。人を集めとけ。今日0時決行だ。」
「今日0時です。いだちさん」
何かが起こる…。このまま見ていても、埒が明かない!!
今日の0時には何か分かる!!なら!
『黒神さん、私に考えがあります!!一旦帰ります。』
『分かった。』
―――――――――――――――――――――――――
家に帰り、皆に集まってもらった。
「何か策があるの?」
杉浦美津紀さんは食い気味に詰め寄る。
「今日の0時に決行とだけ聞いただけだが、どうするつもりだ?」
黒神さんも不思議そう。
「大丈夫。任せて欲しい!」
大丈夫。上手くいく。絶対に、見つけてみせる!!
「オレは何すればいいっすか?」
「先ずは、桂木さん。警察を連れて、あの倉庫に来てください!」
「エッ!オレが逮捕ッスか?」
「違う違う!連れてきてほしいだけです。タイミングは、私が連絡します。」
「分かったッス。」
「それなら、その場で110番のが早いんじゃないか?」
黒神さんに問われる。
「それでは、意味がないんです。麻薬取締班に来て欲しいので。」
「あと、杉浦美津紀さん、山本麗奈さん立川梨花さんは、怖いかもしれないですが、私と一緒に来て下さい。」
「なにか出来るわけじゃないよ?」
「物は触れないし…。」
3人共、不思議そうな顔をしている。
「大丈夫です。何かあった時に黒神さんに連絡して欲しいだけです。」
「おい!なにする気だ!!」
黒神さんが困惑している。が、そのまま話を続ける。
「黒神さんには、この内容で手紙を書いてほしいんです。その手紙を、姿を見られないように、警察の麻薬取締班の方に渡るようにして下さい。」
下書きの内容を書いた紙を手渡す。
「コレは…!?」
手紙の内容を見た黒神さんは驚きの表情を浮かべる。大丈夫。多分。使えるものはすべて使って、必ず成功させる!!
「黒神さんはその手紙を渡し、桂木さんと一緒に倉庫に来て下さい。
黒神さんに頼むことが多くて申し訳ないですが、よろしくお願いします!」
「分かった。お前はどうするつもりだ?」
「私は、タイミングを見て電話します。」
「あの倉庫にずっと居るつもりか?危なすぎる!!」
「大丈夫です。この間みたいに無理はしませんから。」
「……分かった。絶対に出しゃばるなよ!!」
黒神さんは、心配してくれているらしい。
「分かりました。では、皆さん決行です!!」
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PM11:45
暗闇に人影が集まる。
いくつかの懐中電灯の明かりが集まり、少しづつ消え、残る3つのライトが照らすのは、ジュラルミンケース。
『アレか。』
私は身を潜め、カメラを構える。
フラッシュは焚けない。タイミングを見て音を消しシャッターを押す。
「そろそろだな。見張りは良いか?」
「大丈夫です。」
昼間のヤンキーとは違う人物達。多分、この場所を“その日”だけ使う為、カモフラージュで奴等は居ただけなのだろう。
私も、メールをする。
[桂木さん、そろそろ来て下さい。]
よし。準備は整った!!
PM0:00
暗闇に紛れるように、黒塗りの車が入って来た。車のドアが開き、スーツのおじさんが2人出てくる。
一人はジュラルミンを持っている。
「おう。揃ってるか?」
「こちらです。」
ジュラルミンが開けられ、中には入った白い袋が見える。
『今だ!』シャッターを押す。
キョロキョロっと周りを見渡す側近の男。
スッと隠れた。危なー!!
「では。これを。」
もう一つのジュラルミンが開けられるが、中身が見えない!
『早く来て!桂木さん!』
これでは現行犯で捕まえれない!せめて、写真を…
ジャリッ
『!!!!』ヤバい!!靴の音が!!
静かな真夜中、ポツポツと雨が降り始める。
「誰だ!?」
「探せ!!」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
息を殺すが、鼓動は高鳴り、息遣いが荒くなる。小さくしゃがみ、目をぎゅっと瞑った!お願い!見つけないで!!
すると、私に覆いかぶさる杉浦美津紀さん、山本麗奈さん立川梨花さんの3人。
「お願い!!」
「来ないで!」
「結月ちゃん!!」
「…ダメだよ?こんな所に女の子1人じゃ。」
4人の思いは無惨にも打ち砕かれた。
「!!」
3人をすり抜け、腕を強く引っ張られ、ボスらしき男の元へ連れて行かれる。握られた腕を必至に振り解こうとするが、ビクともしない。足で踏ん張り、投げ飛ばそうと身を捻るが、あっさりと両手を後ろに組まされた。
コレは完全に捕まった!!
「誰か!!」
出た声は、自分の思っているよりも、か細く、到底誰かに届くものではなかった。それは、私が恐れていることを意味している。
そして、私が初めて“死”を意識した瞬間だった。
「連れて行け。」
「はい。」
私は口にガムテープを貼られ、手を拘束された。頭に布を被せられ、視界が真っ暗になった。
「#*%@#$*&!」誰か助けて…!
「コイツ以外見当たりません。」
「そうか、前と同じように処理しとけ。」
「はい。」
車に乗せられた私は、後部座席に放り入れられ、横になる。
あゝ、これで死んじゃうんだろうか?死神をボディーガードにしたのが、神様の機嫌を損ねたのだろうか。日々の行いが災いしたのかな。
杉浦美津紀さん、山本麗奈さん、立川梨花さんの体、見つけられなかった…。大きな口叩いたくせに…。私は目を瞑りその時を静かに待った。
車のエンジン音と男達の気配。解けるはずのない腕を捻ってみる。痛いだけで、どうにもならない。はぁ…
ふっと頭によぎった言葉。
「前と同じように処理しておけ」
そう聞こえた…。
私はずっと、あの倉庫に体があると思っていた。だから探したし、捕まえたら見つけられると思っていた。だけど、別の場所だったら…?今、私が一番彼女達に近づいているなら!?
これは、チャンスだ!最後のチャンス!
スマホはズボンの後ろポケットに入っている。連絡が取れれば良い!
そっと縛られた手で、取り出そうとする。あとちょっと…
キキィーッ!! あっ!
車の急ブレーキでスマホが手から零れる。
「コイツ、連絡取ろうとしたのか!大人しくしてろ!!」
「オッッァ!!」
腹部を殴られた。痛い…痛いよ…。
車は蛇行し、何処に向かっているのか分からない。少し寒くなった気がする。高度が上がったのか?山…?
車が止まった。バタンッバタンッと数人が車を降りた音がする。
外で何が起こっているんだろう。声も聞こえない。
「降りろ!!」
腕を掴まれ、車から引き摺り出される。足が言うこと聞かない。震えてるのか?私って、情けないな。
足を蹴られ、ドサッと転んだ。そこは冷たい土の上。
「じゃあ、埋めとけ。」
ドンッと背中を蹴られ、体がフッと落ちる感覚があった。落ちた距離はそんなにないはずなのに、視界が奪われているからか、物凄く深く感じる。
雨がポツ。ポツ。っと体に当たる。男達の声を掻き消すように、木々に当たる雨音が大きくなり、より一層肌寒くなる。
硬い、冷たい、痛い…。
こんな思いであの3人は亡くなったの…?
ごめんなさい。助けてあげられなかった。見つけられなかった。これで私も終わり…。
土が少しずつ掛けられ、足や頭に小石が当たる。足が埋もれて動かない。遂に首元に砂がかかる。雨に濡れ重くなった土が、空気をも奪う。
黒神さん、、、シュークリームごめんね。
そんなつもりじゃなかった。私、少し嫉妬したんだ。勝手に、待っててくれるなんて思った。勝手に、私にだけ優しいなんて思った。シュークリームだけで、助けてくれるなんて虫が良すぎるよね。
バイバイ…。