作戦会議
「体…ですか?」
日は傾き、立ち込める雲に夕日が飲み込まれる。
お店はそろそろ閉店の時間。立ち話は難しいと感じ、店裏の自宅へ連れてきた。
6畳の畳部屋に、小さなキッチンがくっついた部屋。真ん中に置いてある古いこたつテーブルを囲む、幽霊3人、死神1人、行きてる人間1人と、まぁカオスな状況だけど…
「なんで、桂木さんも居るんですか!?」
ちゃっかり座ってる…。
「オレにも、手伝わせて下さい!!」
「今回は、憑依とかそんなんじゃないし、桂木さんを巻き込むわけには行きません!」
「水臭いこと言わないでくださいよ!!オレだって、兄貴や鬼十さんの役に立ちたいッス!!」
「この子可愛いねー!」
「若いよねぇ!?」
「この子は視えてないの?」
ジーッと桂木さんを左右で囲み見つめ、話す女性幽霊3人組。
「なんか、寒いッスね…。」
「桂木さんは視えない人です。19歳です。」
私は一応6人分のお茶をそれぞれ並べ、着席する。
「そ~なのね〜!」
「10代かぁ〜。」
「犬みたいで可愛い〜!」
「やっぱり、オレだけ寒いッスか?」
「寒いのは…桂木さんの右手に2人と左手に1人、其々女性が座っていらっしゃいますので。」
「…マ…マジですか…?」
「コイツらの話を聞くためだ。お前は辞めとくか?」
黒神さんが桂木さんの様子を伺う。
桂木さんは顔をブンブン左右に振り、
「だ、大丈夫ッス!!」
めちゃくちゃ固まってるけど、意欲はあるようだ。
「最初に、お名前を伺っても良いですか?」
桂木さんの左手に座る、明るい茶髪のストレートロングの女性に話しかける。
「わたしはの名前は杉浦美津紀。宜しく。」
金髪ロングで髪を巻いた女性が続く。
「わたしは、立川梨花。こっちは、」
「山本麗奈でーす!」
猫っぽいボブカットの女性。
3人共に美人だ。
「私は鬼十結月です。こちらは黒神零さん、そちらは、桂木高志さんです。」
私の左に座る黒神さんと、テーブルを挟んで向かいに座る桂木さんを紹介する。
「では、本題に入りたいんですが。」
私も話を進めよう。
「えー?もうちょっと話してからでいいじゃない〜」
「「ねぇ〜!!」」
はぁ…。こういう人達、面倒くさいかも。
「探さなくて良いんだな?」
黒神さんがちょっぴり脅してくれる。空気がピリッとした。
「分かったわよ。」
「久しぶりだったから、楽しかっただけ。」
「そうね、話すわ。」
3人の内、一番落ち着いた雰囲気の杉浦美津紀さんが、事の経緯を話し始める。
「私達は大学の心霊サークル仲間なの。
6年前、その日はサークル仲間で心霊スポット巡りをしてた。男3人女1人と私達3人の合わせて7人。
色々巡って、最後に着いたのはあの倉庫だった…。
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建ち並ぶ倉庫のひとつに足を踏み入れる。
ガランとした倉庫の中を、懐中電灯の明かりが複雑に照らす。
「こんな所、入って大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫!此処、使われなくなってから15年くらい経つんだよ。」
「へぇ~!!イイ感じだねぇ。」
「うん。イイ感じに出そう〜!!」
鉄の匂いと埃を被ったままの機材が、雰囲気をより一層強める。
「此処で昔、工場長だった人が溶鉱炉事故で亡くなって、その後使われなくなったらしい。」
「その人には子供がいて、ある日その子供が誘拐されたんだ…。
一生懸命働きながら見つけようと、毎日毎日働いては、夢中で探し回った…。
そして、遂には過労で自分が溶鉱炉に転落して亡くなった。
火だるまになり、体が焼け無くなったそのお父さんは今も、誘拐された子供を探して、その爛れた姿を引き摺り、まだ彷徨ってるんだって〜!!」
抑揚を付け語られる言葉に、皆の背筋が凍る。
カンッカンッカカンッッ!
突然の甲高い鉄の音が響き渡る。
【ぎゃぁーーーーー!!!!!!】
私達は絶叫した。
音に驚き、散り散りに逃げてしまった事で、男子3人だけが持っていた懐中電灯の明かりが消え、暗闇に私達は包まれた。
「痛っ!!」
何処かに足を引っ掛け、麗奈が動けなくなった。
「ちょっと待ってて、私見てくる!」
そう言って芽郁が何処か行ってしまった。
あ、芽郁っていうのは、もう1人の女子ね。
暗闇で一応くっついてた私達は、2つの光が見えた。何かがキラリと光り、多分箱みたいなものだったと思う。そんな物持ってきた覚えはなかったけど、怖かったのと明かりが救いに見えて、
「こっちこっち〜!!」
私は暗いながらも手を振った。
すると、そのうちの1つの光が近づいて来た。
ピカッ!!
当てられたライトに目が眩んだ瞬間、私達は意識を失った…。
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そのまま、私達は死んでいたの。だから、どう亡くなったのか、何処に体があるのか分からないの。」
話終わった彼女達は、疑義の念に苛まれているように見えた。
「そうだったんですね。だから、場所しか分からないと…。」
「そうです。だけど、あの場所も時が経ってアイツらの根城になってしまった。」
「その後も、探しに行ったりしたんですか?」
「あ、あの!オレにも話してもらえますか?」
今まで黙っていた桂木さんが、口を開く。
あ、忘れてた。でも、ある意味聞こえてなくて良かったかもしれない。
あのビビリな桂木さんには、怪談話にしか聞こえないだろうから…
「3人共鉄工所で亡くなったが、場所以外憶えておらず、体が何処にあるかわからない。という話だ。」
黒神さん、いくら何でも掻い摘んで話しすぎでは…。
「そうなんすね。理解したっす。」
単純だ。
「私達だって、何度も探した。けど、無いの。」
「ご家族はいらっしゃいますか?」
探してくれる生きている人がいる筈。
「私達、捜索願は出ているの。」
立花梨花さんがポツリと話す。
「だけど見つかってない!!もう、誰も探してくれないよ…。」
山本麗奈さんは苛立つも、その頬にはほろりと涙が伝う。
そんな顔をされたら…
「大丈夫です!!私が必ず探し出します!!」
言わない訳にはいかない!!
「ありがとうっ!!」
ぱぁっと表情が明るくなる。
「でも、どうやって探すつもりだ?」
黒神さんの言う通り。
そう、どうやって…
…あっ!!
「黒神さん!そのコートって、姿が見えないんですよね?」
「ああ。フードを被れば普通の人には見えない。」
「だったら、そのコートを貸して下さい!私があの倉庫をくまなく探してきます!!」
「無理だ。貸したところで姿は消えない。コレは俺が着るから見えなくなるんだ。」
「エッ。」
そうなの〜!?だからあの時、黒神さんはコートで包んだだけだったんだ!!ん〜二人羽織で探しに行くのは難しい。なら……
「私があのヤンキー達を引き付けるから、黒神さんが探すっていうのは?!」
【ダメ(だ)(ッス)!!】
その場の全員の声が揃う。
「良いわけ無い!貴方が怪我をする可能性が大き過ぎる!!」
「そうよ!さっきだって危ない所だったのに!!」
「見ていたんですか?」
「えぇ。私達が気づいた時には囲まれてたから、この人に伝える事しか出来なかったけど。」
黒神さんを指差し、心配してくれる。
「ありがとうございます。でも、他に方法が……。」
一同黙り込む。口火を切ったのは桂木さんだった。
「それにしても、何で亡くなったんすか?」
今までの会話が中途半端に伝わってるから、よく分かってないみたい。雑なんだよな、、黒神さん。
「大学の心霊サークル7人で鉄工倉庫にいたけど、暗闇で音がして散り散りに逃げ、こちらの3人が残り、明かりが見えたから声を上げると、ライトを当てられ、その瞬間亡くなっていた。もう少し説明するとこんな感じ。」
怖くない程度に説明を付け足す。
「心霊サークル……。」
桂木さんは絶対入らないだろうな…心霊サークル。
「一緒にいた方達は無事だったんすか?」
「ええ。大学まで見に行ったもの。」
「無事だそうです。大学まで見に行ったそうです。」
私が通訳する。
「じゃあ、誰がライト当てたんすかね?」
確かに。別の人物がいたって事…?
「当時7人以外に、誰か居たとか思い出せませんか?」
「ん〜。誰も居なかったよね?」
「居たら、入れなかっただろうし。」
「でもあの時、遠くに明かりが見えた一瞬だけど、光った“箱”みたいなのを持った人が…」
「いたんですか!?」
「多分ですけど。」
だとすれば、他殺が濃厚だよね…。
「倉庫 殺人 ジュラルミン 検索っと」
通訳を聞き、桂木さんがスマホで検索する。
「ジュラルミンって…決まったわけじゃないよ?」
「光った箱、倉庫=裏取引のジュラルミンが俺の想像っす!」
「あながち間違ってはないようだ。」
今まで俯き、静かだった黒神さんが口を開く。
「どういう意味ですか?」
「今、情報が入った。あの倉庫で死人が出た。」
手には掌ほどの小さなカード。見せてくれたそのカードには、[大塚慶次 享年36歳]とだけ書かれていた。
「これだけで、何で裏取引だなんて。」
「コイツは刑事だ。桂木のバイク事故を調査した刑事。」
「そうなんすか!?」
「2年前麻薬取締班に移動したのも、わかっている。」
「いつの間に…。」
「死神をなめるなよ?!」
「では、当時もそんな麻薬取引があったって事…?」
「可能性が高い。」
「じゃあ、警察に行って事件に巻き込まれたって言えば…?」
「コイツらとの関係をどうやって説明すんだよ。」
黒神さんの言う通り。警察に突撃したって、私がこの女性達との関係が無さすぎる。
まして、私が“視える人”って言ったところで、信じてはくれないだろう。それなら…
「倉庫で何があったのか、証拠があれば良いって事ですよね!しかも、黒神さんに名簿が届いたということは、大塚慶次さんが浮遊霊として居るってことですよね!!」
「そうだな…。また、仕事が増えたってことだ…。」
「そうと決まれば、私は黒神さんと大塚慶次さんを探して、情報を得ましょう!!」
「オレも、そのヤンキーの情報を集めてくるッス!」
「私達も、まだあの倉庫で得られる情報があるかもしれないから、見張ってるわ!」
「では皆さん、協力お願いします。絶対体を見つけましょう!」
【オー!!】
満月の明るい夜、小さな部屋での決起集会となった…。