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死神さんは私の守護神  作者: あいはらしのや
4/10

シュークリーム

 その後、桂木さんはたまに、古田家を訪問しているらしい。

 桂木さんの知る拓海さんを沢山話したり、小さい頃の拓海さんを知ることが出来て、蟠りも少し解けた様だ。



 今日は午前中の店番をしている。

 朝の忙しい時間帯を乗り越え、お昼までのゆったりした時間…


「黒神さんは、名刺まで準備してたんですね。付いてきて頂いて…ありがとうございました。」

「まあな。悪霊となる前に防げてよかった。」

「黒神さんは、なんで此処まで手伝ってくれるんですか?」

「そうだな…。記憶を消さない代わりの条件だからな。一度口にしたことは、守らねばならない。そういう協会の決まりだ。」

「協会?」

「ああ。死神が所属する死神協会。そこから俺達の給料も出ている。固定給+歩合制だから、大変なんだ。」


 辛そう…。転職出来ないもんね…。


 しかし黒神さんと会ってから、本当に(普通の)幽霊が寄ってこない。

 それなのに、連れ回して、巻き込まれた幽霊退治に付き合わせて、幾ら黒神さんの幽霊探しを手伝うからって割に合わないよね…。


「では、私に出来ることはないですか?」

「そうだな…。シュークリーム…」

「へ…?」

「シュークリームが食べたい。」


 黒神さんが指差す冷蔵ケースには、シュークリームが売り切れになっている。


「そんな事で良いんですか?」

「そんな事とはなんだ!俺にとっては大事だ。」


 真面目な顔して怒ってる!思わず笑いが込み上げる。


「ふふっ!そんなに好きなんですか?シュークリーム。」

「ああ。此処のシュークリームが一番美味い。」

「!!///// それ…私が作ってるんです。」

「そーなのか!!凄いな!」


 キラキラした笑顔。久しぶりに褒められたな…。嬉しい///。


「これから、毎日用意しておけ。条件に追加だ。」

「毎日!?」

「ああ。分かったら今日の分を作ってくれ。」

「わ、分かりました。では、少し店番をお願いします。」


 毎日か…。大変だけど、誰かのために作るのは嫌いじゃない。


 キュッと髪を束ね、店の奥のキッチンへ。さて、やりますか!!


 クリームの準備から。

 手早く卵黄カスタードを炊いて、バットに移し冷やす。次は、シュー生地の準備。

 オーブンを予熱する。鍋に無塩バター、砂糖、塩、牛乳、水を入れ火にかけ溶かし、ふるった小麦粉を一気に加え混ぜる。

 鍋底に薄く膜が張れば、火を止めて、溶き卵を少しずつ加え固さを調節する。

 絞り袋に生地を入れ、天板に絞り出す。

 霧吹きで水を吹きかけ、オーブンへ…。

 その間に、洗い物とホイップクリームを……


「手際いいな。それといい匂いがする…。」


「!?ふぁ!?」


 び、びっくりしたーー!黒神さんがキッチンの入り口から、顔だけを覗かせ、声を掛ける。


「悪いな、邪魔して。」

 そっとドアを閉めた。


「♪*・.♪」

 ドア越しに鼻歌が聞こえる。


 本当に好きなんだなぁ。早く食べて貰いたい…なんてね。


 焼き上がったシュー生地を冷ましてる間に、カスタードを軽く練り直し、絞り袋に入れる。シュー生地に穴を開け、ホイップクリームとカスタードをそれぞれ絞り入れる。


「よしっ出来た!」


 待ってるかな…。出来立て食べて貰いたいな!割烹着のままドアを開け、声を掛ける。


「黒神さん!出来…」


「ねぇねぇ、お兄さん何歳?私、26なんだけど同じくらいだよね!?」

「めちゃくちゃカッコイイよね!」

「えー!バイトなの?ウチらと今から行こうよ〜」


 見慣れない3人のお姉さん方に囲まれてる。

 嗚呼、なぁんだ。待ってるわけないよね。一人で張り切っちゃって、馬鹿みたい…。


 そっとドアを開け、キッチンへ戻ろうとすると、


「出来たか?」


 黒神さんが背後に立ち、私が持つシュークリームを乗せたお盆から少し屈み、覗き込むようにひとつ掴んだ。


 ぱくっと食べ、

「うんっ!やっぱり美味いな!」


 にっこり笑うその顔には、口にクリームが付いてる。


「クリーム、付いてますよ。」


 私は黒神さんの口に付いたクリームを指で拭い、自分の口に入れた。


「そうですね。美味しく出来てよかった。」


 そう言い残し、またキッチンへ入りドアを閉めた。


 やってしまったーーー!!!!なんかムカついて思ってもない事した…。今、私、何した!?お店に出づらいよ〜!!



 その頃、店頭では…


「…何、今の。」

「女の子だったよね?出てきたよね?」

「彼女いる感じ!?」

「もうっ居るなら居るって言いなさいよ!!」

「あ~もう、期待して損した〜。」

「じゃ、帰るわ~。」


 文句を言いつつ、店を出て行く3人の女性達。


「//////!?!?」


 呆然と立ち尽くす黒神は、状況を飲み込めないでいた。



 チリンチリンと高いベルが鳴り、桂木が入店する。


「あれ?兄貴どうしたんですか?顔赤いですよ!?もしかして風邪ですか?(死神でも、風邪引くんスか?)(小声)」

「うるさい///!!」

「今日鬼十さんはどこか行ってるんですか?兄貴に店番させるなんて、流石ッス…。」

「いや、奥でシュークリームを作っている。」

「エッ!鬼十さんシュークリーム作れるんスか!?マジ尊敬ッス! 鬼十さーん!オレもシュークリーム食べるッス!!」


 ドアの向こうから桂木さんの声が聞こえた。

 大丈夫。落ち着け!平常心を装い、ドアを開け店へ声を掛けつつ入る。


「はい。出来立てです。お一つどうぞ。」

「いただきます!!ん~~!!めちゃくちゃ美味いっす!!」


 美味しそうに頬張っている。口にクリームが付いてる…


「クリームが…」

 私がそっと手を伸ばすと、


「おぉ…おい、クリーム付いてるぞ!!」


 言葉を被せ、黒神さんが近くに置いてあったティッシュでグリグリ拭く。


「あ、兄貴…痛いッス、、ありがとうございます。」


「ふんっ。」

 黒神さん、何か不機嫌だ。


「では、商品並べてきますね。」


 私も突慳貪な態度を取る。


「(なんすか?ケンカでもしたんすか?)(小声)」

「そんなことはない。」

「先に謝ったほうがいいっすよ〜。女性には勝てないっすから。」


「だから、違うと言ってるだろう!!」


 黒神さんのちょっと大きな声が聞こえる。


「店番ありがとうございました。あとは、私が立つので大丈夫です。」


 私は黒神さんを追い出し、レジに立つ。


「分かった。」


 そう言って、いつも着ている黒いコートのフードを被り店の隅に移動する。


「アレッ!?兄貴!?いなくなっちゃったッス!!兄貴〜!?」


 どうやら、あのフードを被ると視えない人には、視えなくなるらしい。


「大丈夫ですよ。そこに居ます。」

 私はレジ横の隅を指差す。


「そーなんすか!?んー!!やっぱオレには見えないっす。何処かちょっと、死神って疑ってだったんスけど、ホントなんすね…。」


 目を細めて頑張って見ようと試みてる。ちょっと可愛い。


「ふふっ。そうですね。」


 私も、なにムキになってるんだろう。そうだよ!死神なんだから。幽霊探しの為にボディガードしてくれてるんだから!


「今日の午後、幽霊探しに行きますか?」


 出来るだけ心を落ち着かせてポツリと聞く。


「おう。」

 ちょっと素っ気ない返事。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 午後1時


「結月ちゃん!お疲れ様〜!交代するね!」

 叔母さんが出勤。


「ありがとうございます。では、お疲れ様です。お先に失礼します。」


 退勤準備をして、荷物を持ち店を出る。


「お待たせしました。」


 古い小さなお店の前に佇む黒神さんは、黒いコートのフードを被ったまま。


「取り敢えず、情報を貰った現場に行く。」

「はい。」


 小さく返事をすると同時に、歩き出す黒神さん。

 スタスタ前を歩く黒神さんは、振り向かずにどんどん進む。速い…。今までは歩幅合わせてくれてたんだな。はぁ、なんか怒らせたようで気まずい…。


 ハァ…、ハァ…、結構歩いて来たけど、遠くないか?バスとかタクシーとか、公共交通機関使ったほうが良かったんじゃないの?!もう、疲れた〜!!私は立ち止まり、声を掛けた。


「待っ…て、、待って…黒神さん!」


 あれ……居ない……?エッ今の今まで前歩いてたよね……?


「黒神さーん!」


 ………どうしよう。見失った!!しかも、ここ何処〜〜!?!?ひたすら後付いて歩いて来ただけだから、帰り道も分かんない〜!!!


「黒神さーん!何処ですか〜!?」


 本当に迷子……。この年齢で迷子は精神的にも辛い…。

 錆びついた階段、鉄パイプ…倉庫みたいな大きな建物が立ち並んでいて、曲がり角いっぱいある…歩いていくと[北村鉄工所]の看板…。ここは使われなくなって随分経つのかな…?


「あれぇ?こんなとこに女の子一人は危ないよ〜!?」

「可愛いねぇ。一人?お兄さんと遊ぶ?ハハハッ!」

「怖がらせちゃダメだよ〜。何処行くの?俺達が案内してあげようか?」


 3人のヤンキーに道を塞がれた。こういう奴等の根城になっているらしい。幽霊ではなく、ただの人間らしい。なら…


「結構です。ご心配には及びません。」


 クルッと向きを変え、来た道を戻ろうとするが、


「そんなつれない事言わないでよ〜?」

「ねぇ、少しで良いからさぁ…」


 その道も塞ぎ、肩を掴もうと腕を伸ばしてくる。

 チッ。簡単に返してくれないか。しょうがない…


 私の左肩を掴んだ手首を両手で掴み上げ、瞬時に見を捻り、そのまま斜め下に思いっきり振り下ろしながら、遠心力で放り投げた!!


「っおぅわ!?いってぇ〜!!!」


 ドンッと後の2人に受け止めてもらい、ヨロッとする。驚きに包まれる男達。


「何すんだよ!!」

「な〜に〜?今の。」


 何だか挑発してしまったみたい。失敗した~


「セクハラですよ!!道を開けて下さい!」


「「セクハラですよ!」ってぷははっ!!無理だねぇ〜!」

「そんな事無いからさぁ、楽しく行こうぜ!」

「相手してあげるよ〜!!」


 腕を掴まれ、錆びついた倉庫の大きな扉に押さえつけられた。

 金属のグワンと重い音が大きく響く。


「ウッ!!」


 ジャリッと錆が服を突き抜け、肌を突き刺す。痛かったのと怒りで、押さえつけている男を睨みつける。


「ガンつけてんじゃねぇぞ!!なめてんのか!!」


 大声で脅される。おお怖い怖い…なんてね。


「歯、食いしばって下さいね!」


 言いながら思いっきり振り上げた足は、男性の“アソコ”にクリーンヒット☆


「うwぉうfjsg↑fんkz!!!」


 悶絶してるわぁ。この人はもう動けないでしょ。してやったり…!!


「おい、大丈夫か!!」


「テメェ、女だからって手加減してやったのに、いい気になってんじゃねぇぞ!!!」


 振り上げた拳を私は避けた。顔を掠めて、肩に軽く当たった。


「チッ!!避けてんじゃねえ!!」


 相手の体勢が崩れた今がチャンス!私は全力で走った!!!


「逃げたぞ!!!!」

「オメーらも来い!!」

「おい!追え!!」


 全力で逃げた!ふと振り向くと、


 !?


 人数増えてるんですけど〜!?10人弱いるじゃん!?流石に無理、無理!ムリムリムリムリ、ム〜〜リ〜〜!!


 1つ目の角を右曲がり、2つ目を左曲がり、もう、今自分が何処に居るのかわかんない!3つ目を曲がったところで……行き止まり!?


「そっち行ったぞ!!」


 怒号が聞こえる。ヤバい、どうしよう!?捕まる!!


「結月!!」


 聞き覚えのある声と共に、腕を引っ張られた。

 次の瞬間、何かで全身が覆われ、目の前が真っ暗になる。


「おい、何処行った!!」

「コッチ来たんじゃないのか!?」

「そっちも探せ!!」

「早く行け!!」

 騒々しく集まった足音と男達の声が聞こえ、また散り散りに遠くなっていく。


「……行ったか…?」

「////////!?!?」


 今、どうなっているのか理解するのに、そんなに時間は掛からなかった。


 私は…黒神さんの黒いコートの中で、ギュッと抱き締められてる/////!!!私の心臓の音が聞こえちゃうよ!!

 コートの中は薄手のシャツで、触れている黒神さんはひんやりしてる。鍛えているのか、筋肉質で体は締まってる。

 考えた事無かったけど、黒神さん男の人だ……って何考えてるんだ/////!!!


 ギュッと背中まで回された腕が、少し緩むが離れはしない。


「すまない…。」


 小さく呟く声が頭に触れ、また少し腕に力が入る。


「ギリギリでしたけど、助かったので大丈夫です!」

 コートで声が籠もる。


「怪我は無いか?」


 フワッと体が離れ、顔を見る。


「はい。」

「どうした!?顔が真っ赤だぞ!?」


 /////!そんな事言われたって、男の人に抱き締められるなんて初めてだったから。なんて言えないよ恥ずかしい!!


「黒神さんのせいですっ!!コートで息できなかったんですっ!」


 黒神さんにクルリと背を向け、苦し紛れの嘘をついた。すると、黒神さんの手がそっと背中に触れる。


「!イタッッ!?!?」


 何?あぁ、さっきの錆ついた扉にぶつけた時に…。


「本当にすまない…。」

「なんてこと無いですよ!ちょっとぶつけただけですから。」

「今日は、帰ろう。」

「良いんですか?霊体を探さないといけないんじゃ?」


「いい。此処にはもういない。」

「そうですか?分かりました。」


 黒神さん、物凄く落ち込んでいる。

 どうしようかな、1人機能不全にしたことでも話したら笑ってくれる?んなわけ無い!!男の人からしたら笑える話じゃないよね!!


 はぁ〜。思い通りに行かないよ…。

 また、少し離れて歩き出す。


 私は黒神さんの後ろからついて行く。黒神さんがピタリと足を止めた。


 …?

 私の方に2歩戻って来る。


「隣を歩いてくれ。」

「へ?」

「守れない。」


 そう云うと、コートの右側を私の右肩に掛けて包み込む。


「///なっにしてるんですか?!」

「悪い。気付くのが遅くて、守れなかった。」

「そんな事は無いですよ!幽霊は寄ってこないし。」

「そういう事ではない。」


 あっそっか。私の背中を気にしてくれてるんだ!

 ゆっくりと歩幅を合わせて歩いてくれる。


「ありがとうございます。…置いていかれたかと思って、ちょっと不安でした。」


 黄昏時の見慣れない街の中、2人だけの空間のようで安心する。少し素直になれる気がする。


「すまない。少し…考え事をしていた。」

「考え事ですか?」

「結月は、その、誰にでも…その……。 優しさを振りまくのは良くないと思うぞ!。」


 何故急に怒るの!?


「そんな事無いですよ!感謝はしますが、優しさを振りまくなんて…。」


 私、優しくないし。どちらかと言えば、暴力的だと自覚してるけどな。


「では、何故あんな事するんだ///!?誰にでもするなんて。俺には、セクハラだというくせに。」


 何のことだか分かんない。

 ん〜ん~~ぅん?


 ハッ!


「シュークリームの事ですか?!」


「そうだ!!桂木にもしようとするなんて。」

「シュークリーム食べたいって言われたら、まぁ、あげますよ!!幽霊騒ぎで学校の事もあったし。」


 自分だけ貰いたかったのか…。以外と子供っぽい所もある。


「!////そうじゃなくてだな!!」


 お店の前に着いた。話してたら、あっという間だったな…。


「大丈夫だった!?」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」「帰って来るの待ってたの…。」


 私達の姿を見るなり、口々に声をかける女性達。この人達は…


「聞いてないぞ。あんな輩の根城だったなんて。」


 黒神さんの口調がキツくなる。


「本当にごめんなさい!!」


 そうだ!レジで黒神さんに話しかけていた、あの女性3人組だ!


「まさか、女の子を連れて行くなんて思ってなかったの…。」

「ちょっと、私達のことも聞いて欲しかっただけで…。」

「まだ、あんな事してるなんて…。」


 この女性達は、幽霊だ。体も血まみれとかじゃないし、綺麗な服を着ているから、分からなかった…。


「あの、どういう事か聞いても良いですか?」


 また関わると怒るかな…。


「首を突っ込むな。あの霊体の情報を貰っただけだ。」


 やっぱり…。語気を強める黒神さん。


「ねぇ!視えるの!?」

「お願い!探して欲しいの!」


「探すって、何をですか?」


「体よ。死体を探して欲しいの。」


 !?!?

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