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死神さんは私の守護神  作者: あいはらしのや
3/10

やるせない想い

 立てかけられた写真には、笑顔で写る男の子。風光る中、佇むその姿はもう一度見ることは出来ない。


「……許せない…許せない……。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよう。おじいちゃん、おばあちゃん。」


 おりんを鳴らすと、澄んだ音が空っぽの部屋に響く。


「行ってきまーす。」


 私はそう声を掛け、玄関を出る。店へ向かうと、


「おはよう!昨日はごめんね〜今日は旦那も家に居るし、1日任せて!大丈夫。お友達も来てるよ!行っておいで!!」


 叔母さんが笑顔で話す。


「良いんですか!?」


 一応、お昼休憩を長めに貰いたいと思っていたから、有り難いけど…。


「勿論!あんなイケメン達、何処で見つけて来たのぉ?まぁ旦那も負けてないけど。目の保養だわー!また連れてきてね!いつでも代わるから✩」


 ウインクして、何だかルンルンだ。


「ありがとうございます。」


 叔父さん叔母さんには感謝してもしきれない。祖父母が亡くなって約2年。そのまま住まわせてもらってるだけでも、有り難い。


「来たか。」

「鬼十さん、おはよーッス!」

「黒神さん、桂木さんおはようございます。」


 2人ともちゃんと眠れたかな?


「何だ、眠れなかったのか?」

 黒神さんに顔を覗き込まれた。顔近い!!


「い、いえ///」

 ふいっと顔を背けた。桂木さんに話題を振る。


「あの後、ちゃんと帰れましたか?」

「もう、兄貴酷いんスよ~?鬼十さん聞いて下さいよ~!!オレ連れて行かれる所だったんスから。」


 何だかんだ、ちゃんと家に帰ったのか。良かった。


「取り敢えず、歩きながら話しましょうか。桂木さん、その亡くなった先輩の家に連れて行ってくれますか?」


 今日1日で何としてでも、突き止めなきゃ!また誰かに取り憑いたら、今度は何が起こるか分からない。


「オッケーッス。唯、会ってもらえるかどうか…。」

「どういう事だ?」

「先輩は、3年前にバイク事故で亡くなったんすけど、その場所にオレも一緒にいたんす…。


 ====================================


 オレは中2の頃から不良で、成績も悪かったし高校は定時制を選んだ。


 入学すると案の定、イキってたオレは先輩達にボコられた。唯一、先輩だけはオレを庇って、闘ってくれた。

 一匹狼で誰ともつるまず、強くてめちゃくちゃカッコ良かった!それからは、何処に行くのもくっついて回ってた。


「お前、俺と一緒にいて楽しいのかよ?」

「はい!一生ついていきます!!」

「困るな〜!?」


 ハハハッッと笑う先輩は、何処か寂しそうで、鬱陶しい筈のオレにはいつも優しかった。


 ある時、バイク二人乗りで走ってたら、河川敷で追いかけて来た奴等がいた。そんなのは日常茶飯事だったけど、その日はちょっと人数が多くて、4,5台のバイクに乗った連中だった。


 曇天で、パラパラ雨が降り始めた。


 オレも拳を振るった。だけど、足手纏になるだけで、どうにか出来る相手じゃなかった。


 オレが避けきれなかった木製バットが、庇ってくれた先輩の背中に当たった。


「大丈夫かっ!」


 そう言って、そいつの顔をぶん殴ってくれた。


 通りかかった人が通報したんだろう。パトカーのサイレンが遠くから響き渡る。


「ヤベッ!!オメーら行くぞ!!」

「サツだサツ!!」


 彼奴等はバイクに乗って、逃げ出した。


「俺らも行くぞ!!お前が捕まったら、お前の家族に顔向けできねぇからな!」


 そう言ってヘルメットをくれた。オレ達もバイク二人乗りで逃げ出した。


 雨が本格的に降り出して、視界も悪かった。


 パトカーのランプが奴等のバイクじゃなく、オレ達のバイクを捉えた。彼奴等よりも一歩遅れて走り出したから、しょうが無かったのかもしれない。


 先輩はスピードを上げた。交差点に差し掛かった時、右から黄色信号ギリギリで走って来た車と衝突した。


 一瞬で目の前が真っ暗になった。


 雨粒が叩きつけるアスファルトは硬く、鳴り響くサイレンは遠くなった_。


 目が覚めたら、オレは病院のベッドで、先輩は亡くなった後だった。


 ====================================


 おじさんは「お前のせいだ!」って怒ってた。オレも、そう思ってる。もっと…オレがちゃんとしてれば…。

 でも、おばさんはオレを慰めてくれた。「あなたが無事でよかった。」って…。

 オレは、どうする事も出来なくて、情けなくて、最期まで守ってもらって…。」


 涙を浮かべながら、経緯を喋ってくれた。


「そうでしたか。」


 本当に慕ってたんだ。言葉から桂木さんも大切に思われてたことが分かる。


 一軒家が建ち並ぶ、閑静な住宅街。その中でクリーム色の家の前で足を止めた。


「ここッス。」


 表札には【古田】の文字。


「何か分かることありますか?」


 黒神さんに聞いてみる。


「分からんな。いる気配もない。」


「…オレ、やっぱり来ちゃダメだった気がするっす。オレにはそんな資格ない…。」

「大丈夫です。桂木さん以上にその先輩を理解してる人は、いないと思います。」


「じゃあ、押すぞ。」


 黒神さんがインターホンを押すと、家の中に音が響く。ああドキドキする。一瞬の間を開け、「はーい」と女性の声がする。


「か、桂木です。あのっ今日は、先輩の事で会って欲しい人がいて、一緒に来てるんですが、会って頂けませんか?」


 少しの震えと強い意志が混じる。


「突然すみません。わたくし、別件でお子さんが巻き込まれた交通事故の調査をしてまして。」


 !?黒神さん急に何言ってるの!?


「少しで良いので、当時のお話をお伺いできないかと思いまして。」


 いつもと違うセリフ回しに、優しい笑顔と落ち着いた声で語りかける。本当、人って信じられん!!って人じゃないか。


「…分かりました。」


 疑いと迷いが返事を遅らせたのだろう。インターホン越しに聞こえる女性の声は先程よりも暗い。


 玄関ドアを開けてくれたのは、優しそうな女性。インターホンに出てくれた方と同じ人だ。見た目からして先輩のお母さんだろう。


「どうぞ。」

 丁寧に中へ入れてくれた。


「お邪魔します。」

 三人で家の中へ。


 通されたリビングは、とても綺麗に片付いていて広い。南側の大きな窓から差し込む光が柔らかに室内を照らす。


 視線をずらすと、襖が空いており小上がりのような和室がある。そこには、仏壇があった。


「挨拶させていただきたいのですが。」


 黒神さんが丁寧に聞く。


「…はい。どうぞ。」


 感情があまり読み取れない。そりゃ、いい気はしないだろう。私達は線香を上げ、手を合わせる。家の中でも“何か”は視えない。


「先輩ッッ。」


 桂木さんにはやはり、込み上げるものがあるらしい。


「おい!何でコイツが家にいるんだ!」


 大きな声がして振り向くと、先輩の父親だろう、凄い形相で仁王立ちしている。


「出ていけ!どの面下げて此処にいるんだ!!お前の顔は二度と見たくない!!」

「あなた、そこまで云うことないわ。この子だって、拓海の事で辛かったはずよ!」

「お前がそんなだから、なめられるんだッ!!勝手に家に入れるんじゃない!」


「突然お邪魔しまして申し訳ありません。」


 威圧感に押され固まっていると、黒神さんが割って入る。


「お前は誰だ!?」

 お父さんキレ気味だ。


「わたくし、別件で当時の事故を調べてまして、そのお話を少しで良いので、聞かせていただけないかと。こういう者です。」


 何かを渡す。名刺!?ホントに何者なの!?…死神って…怖い…


「ふーん。で、何が聞きたいんだ?人の死を掘り返してまで?!」


 怯んじゃ駄目だ。此処に来た理由、もう二度と憑依なんてさせない!!


「あ、あの!掘り返したい訳では無いんです。最近何か変わったことはなかったですか?えっと、金縛りとかポルターガイストみたいな…。」


 唐突過ぎたか?でも聞いてみなきゃ分からない。勘だけど必ず何かある!


「何言ってる?そんなことはない!!もう帰ってくれ。」


 そーですよね、急にそんな事聞かれても嫌ですよね…。


「あなた!女の子にそんな言い方。言われてみれば、最近夜うなされるって言ってたじゃない。」


「それが、事故と何の関係があるっていうんだ!」


「それは、、、」


 言っても良いかな?理解してもらえる? 私………

 ぽんっと肩に手が置かれる。黒神さん…コクッと小さく頷く。大丈夫。私には黒神さんがいる!!


「私、視えるんです。幽霊が、幽霊が視えるんです。」


「!!」


 とても驚いた表情を浮かべたが、一呼吸置いてお母さんが話し始める。


「それは、拓海が視えるということかしら…?」


「…すみません。拓海さんは視えません。ですが、」


 言いかけた時、何かがお母さんの背後にゆらりと視えた。


「じゃあ、拓海は未練がなかったというの?あんな形で行ってしまったのに…どうして、、、」


 涙を堪えるように、声は震えている。幽霊でも、見えなくても、いて欲しい。その気持ちは痛いほど分かる。だから今まで、私は関わらないように、何をされても我慢していた。


 でも、私以外に危害が及ぶなら、話は別だ。


 黒神さんがそっと私の前へ出て、話を続ける。


「浮遊霊にはなっていないが、此処にいるのは…生き霊だ。」


 黒神さんの手元にはどこから出したのか、あの鎌がある。


「生き霊…?バカなこと言うな。そんな事信じられるか!」


 お父さんは全く信じていない様子。


「私……わたしは…あなたと違う…。」


 ゆらっゆらっと、お母さんの様子がおかしい。


「お前、どうした!?」

「お、おばさん!?」


 お父さんも、桂木さんも、変化に気づく。


「生き霊って…意識があるうちに、消し去ることは出来るんですか?」


 黒神さんに聞いてみる。


「意識がなきゃ、簡単だが…起きてる時はできない!!」


「「えーーー!!!」」


 私に出来ることは…無いの!?


「お、お前!!し、しっかりしろ!!!」


 お母さんの肩を掴もうと、腕を伸ばす…とお母さんは容赦なく、お父さんの首をグッと掴む!


「ゴッッお、どうし…t…」


 とても苦しそう。だが、奥さんに手出しは出来ないようだ。私も人質がいるんじゃ、どうする事も…


「おばさん!!本当はオレの事、憎いんすよね!?だけど、おばさんは最初っからオレを責めなかった。

 逆にオレは不安だったっす!先輩がいなくなって寂しかったけど、オレより家族の方がもっと悲しいに決まってるのに!!

 オレの心配をしてくれるおばさんが、もっと辛いってことを、誰が分かってくれるんだろうって。」


 桂木さんが想いを必死で伝える。

 すると、締め付けていた腕の力がフッと抜け、お父さんは床に膝から崩れ落ちた。


「ッゲホッ…。お前に何が分かる!!お前、お前が拓海を殺したんだ!でなきゃ、こんな事には…っクソ!!!」


 お父さんはそれでも桂木さんを責める。


「それは、違うな。拓海を殺したのは、コイツじゃない。」


 黒神さんが云う。そうだけど…正論だけど、そうじゃない!


「私は誰かの親じゃないし、親は居ないから分からない。けど、子供の気持ちなら分かります!

 ウザいと言っても、酷いことを口に出しても、そばにいて欲しい。だから、桂木さんは寂しさを埋める大切な存在だったんです!」


 伝えなきゃ。助けなきゃ!


「何が言いたい!」


 お父さんは苛立ちを顕にしている。


「拓海さんのお父さん。奥さんの気持ちを聞いたことがありますか?気丈に振る舞う事が、どれだけ辛いことか分かりますか?

 拓海さんのお母さんは、拓海さんの寂しい気持ちを分かっていた。だから、その隙間を埋めてくれた桂木さんに、酷く当たれなかった。

 優しくするほど、当てのない怒りと遣る瀬無さが、拓海さんのお母さんを蝕んでいったんだと思います。」


 お父さんは愕然とした様子で、座り込んだまま黙ってしまった。

 伝わっただろうか。こんな見ず知らずの女子高生が、生意気だと思うだろう。


 カクッと力が抜け、膝立ちで涙を零すお母さんが、そっと口を開く。


「わ、私っ…。あなたが、羨ましかった。何も知らず、あの子の辛い時も見てない。なのに、桂木くんに酷く当たり散らすあなたが、羨ましかったの!

 でも、そう思う自分の心が、嫌い。怒りをぶつけても、あの子は帰ってこない。そう育ててしまった私の責任…。

 あゝ、桂木くんが、ずっと……もっと、もっーと、可愛くない子だったら良かったのにね。」


 大粒の涙を流しながら、優しい笑顔を向ける。


 ……シュワァン!とお母さんの背後に揺らめいていた“何か”は消えた。


「お疲れ様。」


 黒神さんは小さく呟き、ぽんっと大きな手が私の頭を撫でる。


「お疲れ様です。」


 終わった……。


「お前が理解してやれば、もう生き霊にはならないだろう。」


 黒神さんの口調がいつも通りになり、お父さんに釘を差した。


「悪かったな。」


 お父さんはお母さんに言葉をかけ、優しく背中を撫でる。


「お前も、たまに拓海に会いに来てやってくれ。その時は、拓海の話を聞かせてくれないか。」


 桂木さんにも話す。


 桂木さんは目尻を拭い、「はいっ!」っと力強く返事をした。


 窓から差し込むオレンジ色の光は、写真に写る男の子を優しく包んでいた。


 私達は古田家をあとにした__。

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