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死神さんは私の守護神  作者: あいはらしのや
2/10

ただいま。

「ハァ ハァ ハァ ハァ……」

 

 薄暗い学校内にパタパタッと上履きの音が響き渡る。


(間に合え!間に合え!!)ガラッと引き戸を開ける。


「アウト〜。席着け、鬼十。」

男の先生の声。

「すみません。」

そう言って教室前方の角席に着く。間に合わず…。そりゃそうだ、あの時間から走っても無理だ。はぁ~疲れた…。黒神さんは大丈夫だろうか…?


 数分前――


 学校の校門に到着。そういえば、黒神さん引っ張ってきたけど、皆に姿見えるなら教室へは連れて行け無いじゃん!!


「黒神さんは、此処で待ってて下さい。いや、取り敢えず、今日は帰って下さい。」

「連れてきたのはそっちだ!」

「最初に付いてきたのはそっちでしょ!もぅ〜時間無いし、今は大丈夫なので!行ってきます!!」

 

 傘を持たせたまま校門に放置し、学校内に向かって走って来た。

 流石に自分でも酷いと思う。あぁ~自分勝手過ぎる!!人に合わせるなんてしたこと無い。合わせる相手なんて居なかったから…。怒らせただろうな。後で謝ろう。


 ガラガラッドンッ!!! 大きな音を立て、教室のドアが開く。


「おお、今日は来たのか。桂木。」

 ふらっ、ふらっと覚束ない足取りで入って来た、金髪ヤンキー。

「ちょっと、酔ってんじゃないのー?」

「フラフラじゃね〜か!!やり合ってきたのか?」

 

 おちょくってるギャル·ヤンキー生徒たち。でも、私には視えてる。何かが憑いてる!!


「桂木ー、席着けよ。」


 返事をしないまま、自席とは反対の教室前方に歩いてくる。桂木くんがふらっと顔を上げた瞬間、私と目が合った。


「…た……あ……s……けt…え」


 ! たすけて!?コレはヤバいのでは!?でも、どうしてあげたら良いの!?幽霊本体なら無視しておけば良いけど、人に憑いてるなんて……


「ちょっと…ホントに大丈夫!?」

「体調悪いなら、今日は帰ってもいいぞ?」


生徒、先生も違和感に気づいているようだ。ざわつく教室内。すると、私の席に近づいてくる。目の前で止まった。

 

私の机にドンッと手を付き、ぐるりっと“首だけ”を180度回し、席に座っている私の顔を覗き込み、


「うわわわああああああああ!!」


叫んだ!!普通の叫びとは違う、噪音混じりの不協和音。人の声では無い。

 

其れを見た生徒たちで教室内はパニック。逃げ出す者、腰が抜けて動けなくなる者…。


「お、落ち着け!!大丈夫。今日は帰って病院に…」

そう言って先生は近づくが、

「ダマレ!!」

桂木くんはまた、ぐるりと首を回し、先生に顔を向ける。先生はバッタリ倒れ、失神した。


(流石に無理かも。)

そう思い、逃げる為そっと私も席を立つ。

すると桂木くんは瞬時に向きを変え、机越しに私の首を片手で掴み、物凄い力で持ち上げた!!

「っ!!カハッッ」


「逃…げて!」

私は他の生徒達に出せる声の限りで叫んだ。

 我先にと教室からバタバタと皆出て行く。


(苦しい…でも…何とかしなきゃ!!)

 私は自分の首を掴む腕を、両手で掴み、思いっきり足を上げ、机を蹴り上げた!


「ガァハッッ!!」


 蹴り上げた机は腹部にクリーンヒットし、首を掴んだ手は離され、桂木くんは机と共に倒れ込んだ。


「ケホッ、ケホッケホッ…」

はぁ、2回目&人で良かった。(どうして、憑依なんか…?)


 倒れて動かなくなった桂木くんを、そっと覗き込む。もしかして、やり過ぎた!?どうしよ〜!!チョン、チョン、と床に散らばったペンで突付いてみる。


 パカッ目が開き「痛ってぇーー…」と声を上げた。


「良かった。ヤったかと思った…。」

思わず言葉が出てしまった。


 でも、幽霊は?どこ行った!?辺りを見渡し、廊下も窓の外を見ても、居ない。桂木くんをもう一度見てみるが、何とも無い。(消えたのか…。)


「大丈夫?」

桂木くんに手を伸ばし差し出す。

「あっ、ありがとう。」

伸ばした手を掴んで立ち上がる桂木くん。


「オレ、どうしたんだ?みんなは?」

「憶えてない?」

「うん。えっと、誰?」

「あぁ、私鬼十結月。」

「オレ、桂木高志。何があったんだ?」


 こういう時、[幽霊に憑かれてて…]って言ったら信じないよね…。でも説明し難い…。ん〜なんて言ったら良いのか…。

 私が言葉に詰まっていると、


「…オレ、先輩の家行って…その後どうしたんだっけ?」

「先輩の家って…?」


もしかしたら、そこで憑いたのか?


「お参りに。良くしてくれてた先輩の一周忌だったんだ。おじさんに追い返されちゃったけど。」

「そうなんだ。」


この感じだと、その先輩って可能性が高いな…。本当に良い人だったのか?人に取り憑くなんて…。


「あのさ…幽霊って信じる?」


 信じてもらえるか分かんないけど。気持ち悪がられても、正直に言わないと!


「エッ!何、な、ななになに?!?!」


めっちゃビビってる。見た目誰彼構わず殴りそうな金髪ヤンキーなのに。可愛いかよ。


「落ち着いて聞いて。私、幽霊視えるんだけど、桂木くん、何かに憑依されてたんだ。だから、正気を失っていたんだと思う。」


「え…」


そ~っと移動したかと思えば、壁にピッタリと背中をくっつけて、キョロキョロしてめちゃくちゃ動揺してる。


「今は何も居ないよ。ただ、何か思い当たることがあるなら、聞かせて欲しい。その先輩の事とか。手伝える事があるかもしれないし…。」


黒神さんなら何か解決方法知ってるかも。


「先輩が憑依したって言うのか?あり得ない!人を傷つける人じゃない!絶対に違う!」


「そっか、そうだよね。ごめん。よく知りもしないのに。」


 そうだ。決めつけちゃいけない。ただ情報が無いと何も解決しない…。

 


後ろでふらりと何かが通った気がした。振り向こうとした時、


「!」


羽交い締めにされた!


「先生!何するんですか!?離してください!!」


必至の形相で桂木くんが引き離そうとしてくれる。


 あの霊、今度は気を失って倒れてた先生に入ったのか!!油断した!!


「っくっっ!!!」


もがいてみるが、流石に大人の男の人は力が強い。抜け出せない…!!私の足は浮き、どんどん締め上げられてく………!!肋骨が痛い!!!


「先生!!ッグハッッ」


先生の腕に掴みかかった桂木くんが足で蹴り飛ばされた。


「逃げ……て…」

今度こそ意識飛びそうだ。


(とにかく誰か…呼んで…)

 

伝わったかどうか分からない。声が出てない気がする。



「結月!」

暗黒の意識の中、名前を呼ばれた気がする……


「グォガオォウゥォォォ!!!!」


獣の様な呻き声と共に、締め付けられていた腕が解け、私の身体が自由になった。


 ただ、力が入らない……。


―――――――――――――――――――――――――


「ん!!っっ」

全身が痛い…此処は何処…?蛍光灯の明かりが目を刺す。


「おい、気がついたか。」

黒神さんだ。

「良かった〜。大丈夫っすか!?」

桂木くんも居る。


「…此処は?」


「学校だ。」「保健室っす。」

声が被る。


 ベッドで寝てる私の横に小さな丸椅子で2人とも座っている。桂木くんは怪我はしていなさそう。黒神さんは足を組み、呆れた様子で私を見下ろす。


「そう。はっ!!皆は?幽霊は?」

そうだった!こんな寝てる場合じゃない!!起き上がろうとするが、全身が痛くて、起き上がれない。


「やめておけ。折れては無いが、全身鞭打ちのような状態だ。」

黒神さんはぶっきらぼうだが、心配してくれてる。


「皆無事ッス。今日は取り敢えず、皆帰ることになったッス。」

「そうなんだ、皆無事なら良かった。桂木くんも痛かったよね。ごめんね。」

「大丈夫ッス。鍛えてるし!」

そう言ってお腹を軽く擦り、笑顔で答えてくれた。


「黒神さんは、どうして此処に?」


「待っていろと言われたから、待っていたんだが、何かが入っていくのが見えてな。そうしたら、大勢が移動するのが見えた。何かあったのかと思い、行ってみれば…というわけだ。」


待っててくれたんだ。帰ったと思ったのに。


「ありがとうございます。あと、ごめんなさい。放置して…。自分勝手で。助けてもらってばっかり。」


「タダじゃないからな。約束は約束だ。」

「はい。分かっています。でも、帰らなかったんですね。」

「“行ってきます”と言われたからな。」


 ???


「“おかえり”を言わねばならんだろう?」


久しぶりに聞いた言葉。死神なのに、優しいな…。


「…ただいま。」

「おかえり。結月。」


包み込むような柔らかい声で答えてくれる。



「あのぉ……オレ居るんですけど……。」

 !! 

何考えてる私!しっかりしないと……。


「状況が飲み込めないんですけど、お二人は知り合い?で良いんですよね?鬼十さんこの人誰なんですか?急に現れたかと思ったら、先生倒れるわ、鬼十さんも気絶するし、みんな憶えてないって。」


 …そうか。みんなの記憶消してくれたんだ。へぇ~。ホントに出来るんだ!


「えっと、、黒神さんは死神で、私のボディガード的な?」

「条件付きだがな。」

「し、しに、がみ?オレ、死ぬ…?…」


本当に怖いんだ。ちょっと面白い。


「ふふふっ。そんな事無いよ!大丈夫。味方だから。」

「そーなんすか!?じゃあ、命の恩人ですね!兄貴ッ!!助けて頂いてありがとうございます!!」

「兄貴って。。」

「姐さんも!オレついていきます!!」

「いやいや、姐さんはやめてよ!同い年でしょ?」

「オレ、19です。留年してるんで。」


……歳上じゃんか〜!!!


「わ、私、18なので、桂木さん。名前でお願いします。」

「そーなの!?てっきり、落ち着いてるから、留年してるのかと。でも、兄貴の彼女なら姐さんです!!」

「彼女じゃないです!とにかく、名前で呼んで下さい!」


はあビックリした~!!思わず大きな声出ちゃったよ。


「分かりました。鬼十さん。」

しゅんとしてる。


「えっと…、あの幽霊の事聞きたいんだけど。」


人に取り憑いてるなんて、見たこと無かった。黒神さんにも聞いておきたい。


「オレ、何も分かんないっす。学校来る前に先輩の一周忌の挨拶に、先輩ん家行っただけで、線香もあげられなかった。その後は覚えてなくて…」


「そこで憑依されたのだろう。」


黒神さんが言う。私もそう思っている。

が、、、


「人に憑依するなんて、そんな幽霊がいるんですか?」


「居るには居るが…今回は違う気がする。」

「どうしてですか?」

「俺の所に名簿が来ていない。」

「名簿ってなんスカ?」

「人が死ぬ間際には、所轄の死神に名簿が届いて、連れて行く。だが、俺の管轄はお前達の言う、所謂、浮遊霊の専門。つまり俺の所に名簿が来るのは、彼奴等が捕まえ損ねた幽霊だけ。なのに、この場所での名簿は届いてない。」


 そういう物なんだ。だから逃がした時、あんなに悔しがってたのか…。


「じゃあ、アレはなんだったの?」

「分からん。唯、浮遊霊以外ってことだな。」

「兄貴に分からないなんて。どうしたらいいんだ!?」

「一応斬ったが、手応えがなかった。まあ、取り敢えず消えたから、安心しろ。」


 しょうがない。分からない以上、今考えても仕方ない。また現れるまで待つか、改めて探すか…。


「そうだね。今日は帰ろうか。」

私も疲れたし。


「そんな簡単に飲み込めないっス!兄貴〜」


泣きそうな顔で縋ってる。そりゃあ、憑依されたんだもんね。怖いか…。


「明日土曜日なので、良ければ改めて、明るい時に探しに行きましょう?今日は帰りませんか?」

「分かったっス…。じゃあ、明日。絶対ッスよ!!」


「黒神さんも手伝ってくれますか?」


私が聞くと、うるうるした目で桂木さんが黒神さんの腕にしがみついてる。


「はぁ~。分かったよ…。」


面倒くさそうにポリポリ頭を掻きながら云う。

 それを聞いた桂木さんは、パァ☆表情が明るくなった。


「じゃあ、帰りましょう!」


はぁ〜長い一日だった。起き上がるため、ベッドに腕をつく。


「!った!!」

大変だ…起き上がれない!?


「しょうがねぇな。」


黒神さんはそう云うと、私の背中と両膝の下に腕を入れ、抱き抱えた。コレは…お姫様抱っこと言うやつでは!?


「ちょっ!!大丈夫です!降ろして下さい!!」

「また、“セクハラですよ!”とでも言うのか?意味ないぞ。全身痛くて歩けないだろう?いいから大人しくしておけ。」


ちょっと言い方真似して腹立つ! が、実際歩ける気がしない。


「あ、あの!おんぶでお願いします/////…。」

 

お姫様抱っこよりマシだ!


「はぁ、我儘な奴め。」

そっとベッドに座らせてくれた。


「ほら。腕。」

そう言って小さくしゃがみ、背中を向ける。


「/////失礼します…。」


 恥ずかしい!!穴があったら入りたい!!!


「荷物持っていきます!!」

何故かニコニコしながら、桂木さんは私と自分の荷物を持ち、後をついてくる。


 …本当、皆帰った後で良かった。。。



 外に出ると雨は上がり、雲間の高くから眉月が覗いていた。



「着いたぞ。」


祖父母のお店に着いた。


「此処なんすね!」

何故か桂木さんまでついてきてる。


「お、降ろして下さい。」


私の言葉にそっとしゃがみ、降ろしてくれた黒神さん。


「カバンを…」


私の言葉に、私のトートバッグをスッと差し出す桂木さん。


「お二人とも今日はありがとうございます。では。」

そう伝え、お店裏にある自宅まで壁伝いに歩き出した。けど…


「何でついてくるんですか?」

「ボディガードだからな。」

「一人は怖いので…」


 いやいやいや!!!流石に無理!!!!


「家には入れないですよ!?普通ボディガードも家の中までは入らないし、怖いからって無理です!」


「では、明日また来る。」

「えーっ!オレ怖いッスよ…兄貴…」

「そうですね。怖いなら、黒神さんに連れてってもらってください!」

「連れて…って…そう言えば、兄貴、死神…」


「一緒に行くか?」

意味深な雰囲気で黒神さんが云う。


「まだ死にたくないーッ!!」

 ギャーギャー言ってる間に私は玄関を閉めた。


 すると、、、

「おやすみ。結月。」

「鬼十さん、おやすみなさい。また明日!」


 ドア越しに聴こえた声。


「…おやすみなさい。また明日。」


 返した言葉を噛みしめる。おやすみの挨拶なんて、いつぶりだろう。“また明日”と約束をするなんて、私には来ないものだと思っていた。こんなに嬉しいものだったんだ…。


 窓から差し込む月明かりは、頬に伝う涙を照らす――。

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