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 新しい就職先は超絶ブラックだった。

 この十余年で色んな職場を転々としたが、今振り返ってもこのパチンコ営業が最も黒かっただろう。後々小さな運送屋でも働くことになりそこも大概だったのだが、祝☆正社員デビューのこの会社はその運送屋から暖かみを抜いたようなところだった。

 始業は10時とパッと見遅い。仕事内容は中古のパチンコ台の問屋の営業マンである。業者用の中古台転売サイトがあるので、そこを見ながら得意先ホールが欲しがっている台を探して、見つけたら今持っている業者に電話する。メールなんてまどろっこしいやり方はすれ違い防止のためにしない。目の前の固定電話でひたすら電話である。

 台を抑えたら送ってもらうなり取りに行くなりして、それを掃除して会社の倉庫に溜めていく。それを18時くらいまで繰り返していく。

 18時を回ると他業者の事務員も自社の事務員(3人しかいなかったけど)も帰ってしまうので、そこから先は23時までひたすら事務作業をする。エクセルをこね回しながら見積書だの発注書だのを作っていく。

 本番は23時からである。新台入れ替えに人材派遣会社を使うホールもあるそうだが、こんな零細問屋が格安の中古台を卸そうかという弱小ホールにそんな金はない。ないので問屋が直接入れ替えに来る。溜め込んだパチンコ台を軽バンにパンパンに積んで、ホールの社員とどこからともなく現れた職人と一緒に片っ端から台を外して付けていく。やれ釘だ、鉋だ、曲尺だ…。

「大工やん」

 そこで僕はこの仕事の真相に気付いてしまう。昼は営業マン、夕方は事務員、夜中は大工。これを「営業事務」として職安に出すのはちょっと違うんじゃないの。

 とにかくひたすら工作を繰り返して、気付けば午前5時。一段落してさあ解散となってふと思う。

「10時出社…?」

 帰る間などありはしない。なんといっても家は東大阪。それに対して会社は堺。なんなら今いるのは忠岡のパチンコ屋。

 結局平日はずっと会社で寝る羽目になる。起きて電話をかけて書類を書いて取りに行って、夕方締めてエクセルと喧嘩して夜は力仕事。で翌朝警察の立ち会いがいるからとホールに呼び出されて、帰ってきて電話をかけて書類を云々かんぬん…。

「割に合わねえ…」

 いくら給料が1,5倍になっても労働時間が5倍になったら割に合うわけがない。ノリが完全にガテン系で心労も凄まじく、平日たまに早く終わって家に帰れてもストレスと混乱で眠れない。酎ハイのストロング缶を一気飲みして気絶して起きたら堺…。このままでは壊れてしまうと思い退職したいと上司に伝えると、今は繁忙期なのでしばらく待ってくれと言われた。

「…飛ぶか」

 一念発起、就職して3ヶ月。繁忙期の終わりを見たその日、俺は社用車のキーと退職届をポストにねじ込み堺から消えた。

 翌朝、当然の鬼電はとりあえず無視し、なんとも清々しい気持ちで地方競馬をして負けると、暇潰しと職探しをかねて元いたアダルトショップに遊びに行った。

「おはようございま~す」

「あれっ、どないしたん」

 かつて仲良く仕事をした元夜勤仲間の先輩おじさんがポケっとレジで突っ立っていた。ことのあらましを話すと、「災難やったなあ」と笑った。書き忘れていたがこのおじさんはまあまあカスである。カスなので波長が合ったとも言える。

「もう求人出してないんですか?」

「新人雇ってもうたんよなあ」

 あら残念。仕方あるまい、別のところで仕事を探すかと思って帰ろうとすると、おじさんは思い出したように言った。

「同業なら、奈良の方で寄った店で求人貼ってたで」

 遠くない? と思ったが、アダルトショップの仕事はまあまあ好きではあった。経験者なので雇われやすくもある。

「奈良のどこですか?」

「田原本」

 だから遠いっちゅうに。ただ興味はある。興味があれば前田は動く。そういう生物である。

「いっぺん行ってみます」

 翌日本当に行った。グーグルマップというのは便利だ。一応念のため履歴書を鞄に入れていった。結論即採用だった。人生のテンポが早い。

 前田嵐麻22歳になろうかという夏。職場は奈良の田原本に変わった。

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