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 就職熱は突然やってくる。春の話だった。

 前田嵐麻この時21歳。来る8月には22歳になるという年だった。

 結局引っ越す前に住んでいた家賃1万5千円のアパートに戻ってきてしまった僕は、アダルトショップと風呂無しボロアパートの往復をしている間にふと思ってしまった。

「順調なら今年大学卒業やったんやな…」

 僕の最終学歴は高卒である。大学に通っていたような気もしなくもないが、中退どころか学費未納による除籍処分だった為学歴なんてものは跡形もなく砕け散ってしまっていた。そんな高卒フリーター(借金持ち)が同い年の新卒予定組に勝てる部分はどこだろうか。就職時の年齢ではないか? 今のうちに若さでごり押ししないとろくな就職先がなくなってしまうのではないか?

 思うと動くが同時なのが僕の良くないところである。精査というものを知らない。

「就職するんで辞めます!!」

 就職先が決まったわけでもないのに、店長にそう高らかと宣言してしまった。

「就職先決まったらまた言います!」

 言ったからには就職先を探さねばならない。こちとら借金まみれなのだ。無職期間は死を意味する。とはいえどうやって就活すれば良いのかあまり分かっていない。よく知らないけどこういうときはハローワークだろう。たぶん。

 とりあえず河内永和の駅前のハローワークにやってきた僕は、案内されたパソコンで求人を探してみる。今思えばハローワークというのは色とりどりのブラック求人が並んでいるところで精査必須なのだが、当時は財布が火の車な上周囲に啖呵を切った手前少し焦っていた。

「希望職種とかないけど…」

 とりあえず経験のある小売業で調べてみる。

「給料やっす」

 フリーターの自分とあんまり変わらない月給がズラリと並んでいる。せっかく正社員になるのだからどうせなら給料は上がって欲しい。

「でも資格とかないしな…」

 持っているのは普通自動車運転免許と、強いて言えば漢字検定2級(中2のときに取った)だが、履歴書に漢検2級とか書いて何か強みになり得るのか甚だ疑問である。

 ポチポチ探していると、どうも営業職で縛ると学歴も経験も資格も問わずにそこそこの給料の求人が出てくることに気付いた。

「営業って何するんかな…」

 アニメやドラマで見る営業マンは外回りと称してパチンコ屋でサボる人か飛び込みでその辺の家のインターホンを押してキレられる人なのだが、周囲に営業マンがいないので本当のところが分からない。ただ後者はなんとなく嫌である。

「あっこれ、ルート営業やって」

 見つけたのは堺のパチンコ機器の営業マンの求人だった。書いてる給料は当時貰っていたアルバイト代の1.5倍ほど。

「パチンコ打ったことないけどなあ…。まあ、とりあえず申し込んでみるか」

 まるで懸賞のノリで印刷した求人票を窓口に持っていく。持っていくと目の前で職員の人がその求人票の会社に電話をかけ始めた。

「面接可能日とかありますか?」

 電話をしながら、職員の方はそう尋ねてきた。幸い夜勤バイトなので頑張れば日中の融通は利いた。

「明日以外ならいつでも!」

 たださすがに今日の明日は眠い。そもそもハローワーク来訪も夜勤明けなのだ。なのでそう答えると、「じゃあ明後日で」と言われた。その文化は久宝寺だけだと思っていたが、実は堺にもあるらしい。持ち物は履歴書だけだった。

 2日後、指定された住所に履歴書を持って行った。七道駅のそばだった。遠くない? と思ったが、今更辞めときますとは言えなかった。

 履歴書を持ち込んでニコニコしていると、向こうの面接官(社長だと後日知った)が履歴書と僕の顔を見比べてこう聞いてきた。

「いつから来れるん?」

 どこもこんなんばっかりだな。

 さすがに今日聞かれて明日とは答えられなかった。まだアルバイト先に辞める日を言っていない。1ヶ月待ってくれと言うとあっさり了承された。

「ほぼ採用やけど、もう1人面接あるんよ。結果はとりあえず今週中に連絡するね」

 そんなことを言われた。問題が生じたのはこの後だった。

「車持ってる?」

 当然持っていなかった。首を横に振ると渋い顔をされた。

「帰宅時間が不規則になるから、車通勤の方がありがたいんやけどな…」

 じゃあ辞めときます、という台詞を前田は知らない。本当に知らない。

「そうなんですか? じゃあ用意します」

 軽く言ってしまった。要らぬ物言いが無限に波乱を引き起こす。

 帰宅後、僕はとりあえず車を探すことにした。採用結果を聞いてからでも遅くはないだろうに僕は、言ったからには車を探さんとならん、と息巻いていた。

 ここに中学時代からの親友A君というのが登場する。僕の人生を左右したわけではなかったが、影響されやすい僕は彼の影響を多大に受けた。彼は車いじりが趣味で、なおかつフットワークがヘリウム入りの風船よりも軽かった。彼はオークションサイトやフリマサイトで中古の軽自動車を買ってきて自分で直して乗るタイプのフリーターだった。そんなところに車が売ってるのかと言われれば、売っているのだ、それが。皆様が思っているよりも世の中色んなものが色んなところで売られている。

 というわけで僕も同じことをした。フリマサイトで軽自動車を探すと4万5千円で転がっていた。連絡をすると、取りに来てくれるなら譲ってくれるという話だった。

「行きます! 行きます!」

 じゃあ辞めときますとこの男は意地でも言わない。例えその車の持ち主が長崎の佐世保在住であっても言わない。在来線と高速バスで佐世保まで行ってやった。そして現地で現金4万5千円を手渡しして、そうすると高速道路に乗る金がなくなってしまったので下道で大阪まで乗って帰ってきた。暇人の極みみたいな2日間を過ごした。

 そしてそうこうしているうちに金が尽きてしまった。幾らひとつひとつでケチっても重なれば大金である。バス代、ガソリン代、車代…。しかも未だに競馬は辞めていない。

 手立てはもはや1つである。

 サラ金3社目はライフティというところだった。

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