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 アコムと時を同じくして、僕は1枚クレジットカードを作っている。短い登場期間ながらなかなかの存在感を放つことになるそのカードの名は楽天カードという。ポイント欲しさに作ったが、この楽天カードが俺の金銭事情を徹底的に悪化させていく。

 アコムから金を貸してもらい、手数料だの敷金だの初月の家賃だのをなんとか払った僕は、相変わらず競馬に溺れる日々だった。アコムからは10万円貸し付けてもらって、初期費用は融資分で賄えたのでアルバイト代はまるっと手に残るはずだったのだが、僕は基本的に手元にお金があると見境なく使ってしまうろくでなしだった。5万円くらい残っていたアルバイト代はあっという間に競馬に消えていった。

 この頃になると生活費と遊興費の境目が完全に消え去っていた。残すべき金なんて概念はなく、際限なく賭博と娯楽に使い込んでいく。支払いをして、競馬をして、遊びに行って、そうこうしているうちに気付けば現金がない。こうなると生活費は自然楽天カード頼みになっていく。カードというものはルーズな人間には良くない。何の計画性もないまま生活費と、なんならカードで賄える遊興費を全てカードに丸投げして、気付けば給料日間際には限度額いっぱいまで使い込んでいた。

 それが翌月か翌々月かは覚えていない。とにかく僕はあっという間に支払い困難になった。

「どうするんこれ…」

 どうするんと言いつつ、頭に浮かんでいたのは結局のところ新たな借金だった。借り癖というのは良くない。借りる術を中途半端に知っているくせに、返済の段まで頭が回っていないのだ。

 サラ金2社目はレイクだった。10万円貸してくれた。

 世の中にはクレヒスという言葉がある。略さずに言うとクレジットヒストリー、言い換えて信用情報ともいう。要するに借金の履歴である。過去に幾ら借りて幾ら返しているか、金融会社であればいくらでも調べられるというわけだ。

 そもそもこの男はこの時点では単なるフリーターである。途中思い立って就職してすぐ辞めるのだが、この段階ではまだその時ではない。単なるフリーターにこんなにポンポコ貸してくれた連中もおかしいが、これには信用情報が関わったいたのではないかと後々僕は振り返って思った。

「エポスカード 70万円 返済」

 つまるところ信用情報には直近の履歴としてこう書かれているわけだ。別に僕が返したわけではないのだが、文字の上っ面だけ見るとこいつには70万円を一括で返せるだけの返済能力が備わってそうにも見える。少なくとも一度は一括で返しているわけだ。その実績をサラ金屋が見込んだ結果がその後の泥沼を生んだのではないかと、僕はあとから考察する。

 とにかく、どんどんどんどん借金が嵩んでいく。アコム、レイク、奨学金…。母親にも70万借りている。この頃は母親と奨学金には一切返済をしていなかった。奨学金を貸してくれた団体には、返済猶予(先伸ばし)の申請をずっと出していた。出世前の若者の返済能力を考えて、30歳までは待ってくれる制度があったのだ。使わないわけがなかった。出世どころか就職もしてないけど。

 こうなってくると、本来の返済能力以上の借金になってしまっており、絵に描いたような自転車操業の体をなし始めていた。アルバイト代でアコムを返して、返したそばからアコムで借りてレイクの返済の足しにして、レイクで借りて楽天カードの支払いの足しにして、で残ったお金で家賃だの光熱費だの衛星放送の受信料(全レース競馬を観たいがためにずっと契約してた。はよ解約せえ)だのを払い、それとは別に残しておいたなけなしの現金を競馬に突っ込んでいた。教科書に載せたい借金生活とはこのことである。

 サラ金というのは最初の審査の際に限度額というものを決め、その限度額以内であれば幾らでも貸してくれるという仕組みが大半なのだが、例えば10万の枠で10万円借りて2万円返すとその後もう一度2万円借りれるのだ。ただし長く借りていると利子が嵩んでいき、その枠を利子が圧迫していく。2万円返しても利子で根詰まりを起こして1万6千円くらいしか貸してもらえなくなるのである。その先に待っているのは漏れなく破綻である。山ほどの先人が破綻したし、僕も破綻した。

 破綻すると最初にどこがショートするか。僕の場合は家賃だった。ものすごく単純な理由で、数ある支払いの中で2番目に高いのが家賃だったからだ。1番は楽天カードだがあれの支払いを滞らせてしまうと次月の生活ができなくなってしまう。そういう理由で入居数ヶ月にして家賃が遅れ気味になり始めていた。

 結局、借金までして転居した新居(俊徳道の駅前のボロアパート)は入居半年くらいで出ていってしまった。家賃が2ヶ月連続で遅れて管理会社にキレられたのと、普通にバイト先からちょっと遠かったからだ。じゃあなんでそこにしたん? わからん。自転車なら余裕かなって思ったんだけどな。

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