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 少し遡ってしておきたい話がある。高校時代の友人に70万騙し取られたという話で、これが19歳の時の一件であった。細かい内容は省くが、最終的に僕の名義でクレジットカードを作られ、彼に使い込まれてしまった。この時のカード会社はエポスカードなのだが、結局この70万は母親に立て替えてもらった。それはそうだ、そんな金をその辺の大学生が持っているわけがないのだ。とにかくこの時僕は親に70万を借りたことになる。これが最初の借金、いや奨学金があったな。なので2つ目の借金ということになった。「2回目」と表現せずに「2つ目」と書くのはこの借金は同時進行で借りっぱなしだからである。そしてこのエピソードは後々ちょっとだけキーになる。

 さて、僕は大学を辞めた。というか追い出された。あちらも慈善事業ではないということだな、うん。大学を辞めたら実家に戻り辛くなった。この時はまだ母親に中退(というか除籍)のことを言っていなかったので、あまり会いたくなかったのだ。しかも妹がいたのだが、この時妹は絶賛不登校。これ以上心労を増やしたくないという思いが、短絡的な行動を引き起こしていく。

 実家に戻らないと何が困るか。そう風呂である。僕は風呂が欲しくなった。この時住んでたアパートには風呂がない。そうすると銭湯ということになるが、夜勤だったせいで帰る頃には近所の銭湯は閉まっていたのだ。

「よーし、引っ越すぞ!」

 金もないくせに、僕はそう決意した。これ以上濡れタオルで体を洗う生活は嫌だ。スーパー銭湯は遠いし。

 決意とは裏腹に、資金はショート気味だった。この頃になると奨学金は底を尽き、アルバイト代だけで生活するようになっていた。なっていたのにも関わらず競馬は辞められなかった。食費を削り、家賃を待ってもらい、でも競馬中継が観たいので衛星放送は解約しなかった。冷暖房をケチり、冬は布団にくるまって過ごした。

 さて引っ越しである。1軒目に住んだアパートはアパートの入口に貼ってあった広告を見て直接管理会社にかけたので、不動産屋というものを挟まなかった。その上この家賃なので敷金だの礼金だのという概念はなかった。つまり本来の単身引っ越しにかかる初期費用というものについて、あまりピンときていなかった。

 とりあえず部屋を探そう。よく分からないが、とりあえず物件情報サイトとか見れば良いだろう。当時はやっとこさスマートフォンなるものを持ち始めた時分だったのでスマートフォンの中のインターネットブラウザで探す。自転車で通えて若干実家から遠いところが良いと思い(気まずいから)、風呂付きにしてサイトで検索をかける。すぐ見つかった。ネットでポチポチ内見を申し込むと、5分もしないうちにサイトにそのアパートを載せていた不動産屋から電話があった。張り付いてるの? こわい。

 とにかく、トントン拍子で新居が決まった。ここに至って精査という概念はない。そもそも前田の人生にその概念が抜け落ちているのだからしょうがない。

 そしていざ内見をして、「安いからここで良いです」と答えて、不動産屋で手続きをしようとしてふと気付いた。手数料があるのか…。敷金ってなんぞ。鍵って金要るんだな。えっこんな金なくね?

 そこで辞めときますとは言えないからこういう人生になるのだが、とにかく僕は言えば良いのに辞めときますとその時言えなかった。審査があるのでそのあとに振り込んでくれと言われ、努めてにこやかに「分かりました!」と返し不動産屋を後にした。

「えっどうするんこれ」

 困ったことになった。正確には困ったことに自らしてしまった。手元には買ってそれほど間もないスマートフォンがあった。

 とりあえずこれで調べることにした。

(お金 作り方 フリーター…っと)

 アルバイトでも給料の前借りが出来たりしないものかと思って調べたが、今思えばこんな文言で調べて出てくるのはサラ金屋のサイト一択である。

 一番上に出てきたのはアコムのホームページだった。

「へー、シミュレーションやって」

 経験を積んだ今なら分かるが、サラ金屋のサイトの先頭にある「いくら借りれるか無料シミュレーション!」とかなんとか書いたシミュレータはほとんど申し込みみたいなものなのだ。借金をする人間の返済能力をざっくりと確かめなければ幾ら貸せるかが分からないというのは当然の理屈なのだが、このシミュレータは大体名前だの電話番号だの社名だの収入だのを入力させられる。そして入力したら最後、貸せるに値する人間であったならば鬼電が待ち構えている。

 しかし当時はにっちもさっちもいっていないアホが布施の駅前で途方に暮れている。藁にもすがる思いだった。

「えっ、こんな借してくれるん?」

 こういうのは大体若干盛られて書かれている。盛られて、というか入力した条件以外の部分が全てパーフェクト人間だった前提の金額を出してくる。駿河屋の買取査定で美品前提の金額が書かれているのと同じである。

 僕はその日、アコムで金を借りることになった。

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