表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/108

響子のクセ

 響子は迷っていた。

 これ程かたくなに響子が、異性に対して心を開かないのもちゃんとした理由があった。

 しかし今ここでその理由を会ったばかりの君彦に話す気には到底なれない、響子が心の狭い人間であると君彦に誤解されても別に構わないとさえ思った。

 それだけ響子にとって異性から受けた仕打ちは、深く心の傷として刻まれていたのだ。

 勿論君彦の熱意が伝わらない響子ではない、それでも相手が異性というだけでどうしても萎縮してしまう。

 拒絶反応が出てしまう。

 彼だけは他の男と違うと・・・、そう頭でわかっていても・・・心がついて行かなかったのだ。

 だがいくら君彦のことを拒絶しようとも、彼がこのまま黙って響子を放っておいてはくれないことだけは理解出来る。

 そこで響子は妥協することに決めた。

 大きく溜め息をつきながら、頭を抱えるように渋々折れてやる。


「・・・わかった、とりあえずあんたが言いたいことはわかったわよ。 生活に支障が出ない程度にはあんたの案に乗ってあげるわ、だからと言って四六時中あんたと一緒にいるのだけは勘弁だけどね。 だって・・・、普通に考えても当たり前でしょ!? のび太としずかでさえ一日中一緒になんていないんだから。 そうね・・・とりあえず学校内だけとか、人通りの多い場所を練り歩く時とか・・・その程度でしょうね。 ・・・って、よくよく考えてみりゃやっぱ限度があるじゃない!? あんたにだって自分の生活があんだから・・・、あたし一人に合わせることなんて出来っこないわよ」


 君彦の案に乗ってはみたものの、口に出してみればやはり無謀な策であることに変わりはなかった。

 身内とかならともかく全く生活環境が異なる他人同士が、常にお互い側にいる生活など出来るはずもない。

 しかしそれがわかった響子はむしろホッとしている、異性と一日中一緒にいることが不可能と分かった途端、肩の荷が下りた気がした。

 気持ちも幾分か楽になったおかげで、都合の良い時だけ君彦を利用することが出来ると・・・プラス思考で捉えることが出来るからだ。

 安心している響子とは裏腹に君彦は難しそうな表情を浮かべながら、何かを考えている様子だ。

 何がそんなに不満なんだろうと響子が首を傾げていると、君彦がおもむろに響子の方に視線を走らせて尋ねて来た。


「志岐城さん・・・、今学校がどうのって言ってたけど・・・。 もしかしてオレが通ってる高校を知ってるんですか?」


「え? あぁ・・・だってあんた風詠かぜよみ高校の生徒でしょ? 日曜の真っ昼間から風詠の学ラン来て何してんのか知らないけど・・・、あたしもそこの高校に通ってんの」


「も、もしかして先輩でした?」


 年上相手にタメ口をきいてたかもしれないと、君彦は少し冷や汗をかきながら聞いてみる。

 だが響子自身はそんなこと全く気にしていないのか・・・、しれっとした態度で答えた。


「今年入学した1年生よ、1-B」


「あ・・・、隣のクラスだったんだね・・・よかった先輩とかじゃなくて! オレも今年入学したんだよ、1-A。 ビックリした~、志岐城さんって大人っぽい雰囲気の人だから本当は大学生位じゃないのかなって思って・・・!」 


 心底ほっとしている君彦の様子に、響子は呆れた顔になりながら心の中でつっこんだ。


(そもそも大学生が、こんな紺色のジャージを着てうろうろするか?)


『んで? 話はまとまったのかよ。 オレとしてはさっさと家に帰ってメシを食いてぇんだけどさ・・・』


 つまらなさそうに猫又がそう言うと、君彦も同意して二人(と一匹)は喫茶店を出て行った。

 すると君彦は何のためらいもなく響子に向かって右手を差し出し、それを見た響子は思い切り不快な表情を見せる。

 あまりに堂々とした拒絶に、君彦はたじろいだ。


「・・・何、これ?」


「えと、一応これからもヨロシクって言う・・・握手のつもり、なんだけど」


 当然、男嫌いの響子が君彦と握手をするはずもなかった。

 差し出された右手を見送ると、響子の視線が・・・自然と下の方へと下がって行く。

 まるで汚らわしいものを見下すような、そんな視線に君彦が気付き・・・そして背筋が凍った。


(な・・・、なんか・・・視線で犯されてるような気がするっ!)


 苦笑いしながら君彦は何とか響子の視線から逃れようと、手に持っていた学生カバンで響子の視線の先を隠そうとしてみる。

 響子が釘付けレベルで凝視していたのは、君彦の股間周辺であった。

 勿論・・・、響子の男性不信に大きな関わりを持つこの行動は、彼女にとっての防衛手段の一つでもある。


 響子に求愛行動を示してきた異性は、大きく分けて3種類に分類出来た。


 1つ目は、内気な一目惚れや、ナンパタイプ。

 これらの症状を示した異性は、一目惚れタイプの場合は交際以前にまず親しくなろうと試みるので、すぐさま抵抗の意思を見せれば案外脆く崩すことが出来る。

 続いてナンパタイプの場合は、最初から交際目的ではなく、一種の火遊び感覚を楽しもうとするだけなのでこれも前者と同じくすぐに抵抗の意思を見せれば割と危険度が低く、適当にあしらっておけば特にどうということはない。

 それでもその人物の人柄によっては危険度が増したりするのだが、自己防衛の手段を持つ響子にとっては大きな問題にはならない。


 2つ目は、積極的に交際を求めて来る、もしくはストーカータイプ。

 これは厄介、適当にあしらおうとしてもしつこく交際を迫って来るので長期戦を余儀なくされるパターンが多い。

 響子が最も疲れるタイプである、あまりにしつこくストーカーしてくる男がいたので、響子は過去に一度しつこいストーカーを正当防衛の名の元に半殺しの目に遭わせて病院送りにしたことがあった。


 3つ目は、繁殖期タイプ。

 響子が最も嫌悪感を抱くタイプである、彼等はよっぽど女に飢えているのか。

 今思えば色情霊の霊力に強く惑わされたせいか、彼等は響子を見るなり欲情し性欲全開で近付いて来る。

 いわゆる痴漢や変態、強姦といった犯罪タイプであり、見分けるのは簡単。

 その男の股間を見ればいいのだ。

 彼等のほぼ半数以上が、響子を見て勃起している。


 ・・・とまぁ、響子は自己防衛をする為とはいえ無視することが困難となる異性に対して、自然と視線が下の方へと向かってしまうクセがあるのだ。

 当然、響子のそんな悲しいクセを知らない君彦は、股間を真剣に見つめられて恥ずかしくて仕方がない様子である。


 結局、君彦と握手を交わすこともなく・・・響子は君彦の股間を凝視したまま、その場を去ることとなった。

 響子を見送るように喫茶店の前で立ち尽くす君彦、そして彼の足元で響子の背中を見送っている猫又が一言漏らす。


『・・・変な女と関わっちまったな、お前。 ま、類は友を呼ぶって言うし・・・明日からお前の学校生活が随分と楽しいものになりそうだな』


 猫又の発した言葉に、君彦は少しだけ不安になった。

 最後の彼女の行動から本当に一筋縄ではいかないかもしれないと、君彦は力一杯覚悟を決める。




 別に読まなくても物語に支障がないコーナー。

猫又君彦のプロフィール。


猫又君彦、16歳、4月12日生まれ、A型、172センチ。

趣味は料理、好きな食べ物は和食で嫌いな食べ物はない。

特技は幽霊や物の怪が見えること(一部の人間は知ってる)、料理がプロ並。

性格は至って温厚、人付き合いが良く他人に優しい、天然、猫又に対しては辛辣な態度で接する。

黒髪のショートヘア、視力が少し悪いのでメガネを愛用、日本人の淡白な顔立ち。

肌の色は普通(白くも黒くもない)、運動は苦手だが逃げ足・・・一直線に走るだけなら普通より少し早い方、勉強は比較的苦手な方で成績は良くも悪くもない。


 君彦が3歳の頃に両親を交通事故で亡くし、父方の祖父母に育てられる。

その後君彦が9歳の時に祖母が亡くなり、翌年には祖父も他界。

15歳まで施設で暮らすが中学を卒業後、両親と祖父母が残した財産で施設を出て一人暮らしを始める。

現在は安アパートで暮らしており、近所付き合いもそこそここなす。

将来のことはあまり深く考えていないが、出来るだけ早く社会に出て働きたいと思っている。

料理を作るのが嫌いではないしそれなりに自信があるということもあって、将来希望する職業にコックや板前を目指すのも悪くないと考えている。


 猫又に取り憑かれたのは中学生の頃。

このことに関してはまた後ほど本編にて語らせてもらいたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ