雨の日の記憶(1)~サプライズ訪問~
ちょっと表現が違うかもしれませんが、新章突入です☆
今までのサブタイと少し趣向を変えてみました。
このサブタイを見ただけで誰がメインの話になるのかすぐにわかった方、しっかり読んでくださってありがとうございます(ノ´∀`*)
――雨。
季節は梅雨の時期を迎え、じめじめと肌にまとわりつくような湿気が毎日のように降りしきる雨と共に憂鬱な気分にさせる。空はここ数日ずっと曇天であり、分厚い雨雲で覆われたせいで降り注ぐ日の光も久しく浴びていない。朝から晩までだらだらと降り続ける雨の中、遠くから蛙の鳴き声が合唱のように聞こえて来て、より一層雨が止む日は遠いのだと思い知らされるような気持ちになった。
湿気のせいで全身がぴったりと何かが張り付くような感覚を鬱陶しく思いながら、それでもガラス窓の向こうに見える中庭の紫陽花に雨水がかかって水滴を零す光景は、どこか涼しげで鬱陶しい気持ちがほんのわずかに和らぐのを君彦は感じていた。
今は猫又がガラス窓の側で丸くなって寝ている為、テレビの音が邪魔にならないように朝からずっと消したままにしてある。何よりせっかく猫又が大人しく寝ているのだ。テレビの音で起こしてしまい、メシを作れだの、遊び相手になれだのと五月蠅く言われる位なら、外から聞こえる雨音を聞きながら静かに宿題をしている方がずっと良いと君彦は思った。
雨が降っているからといって、猫又が家の中でただ大人しくしているというわけでもない。猫は水に濡れることを嫌う。現に猫又も少し獣臭くなったら君彦がお風呂へ入れようとするのだが、まるで猛獣の檻の中にでも押し込まれそうになってると言わんばかりに猫又は力の限り暴れ回る。奇声を上げ、無遠慮に爪を立てて抱き抱える君彦の腕に思い切り鉤爪を食い込ませ抵抗しようとする。
それ位水に濡れることを極端に嫌がる癖に、なぜか雨だけは違っていた。同じ「水」なのに雨が降る日は妙に大人しく、好んで外出しようとするのを君彦が止めた。水に濡れるのが嫌な癖に、雨の場合は態度を一変させる。猫又は雨に濡れることだけはあまり気にしないようで、それを知らなかった頃の君彦は知らぬ間に猫又が雨の中の散歩から帰って来た時には悲鳴を上げたものだ。
全身ずぶ濡れの泥だらけ。ぼたぼたと水滴を畳の上に落としながら意気揚々と部屋に戻って来た時、もう絶対雨の日に外出なんてさせまいと誓ったものである。
そして今は運よくぐっすり眠っている様子だ。これなら物音を立てて起こしさえしなければ平穏無事に一日をやり過ごすことが出来る。そう捉えた君彦は丸くなって眠っている猫又の大きな背中に時折視線を向けながら、静かに微笑んだ。今日はバイトも休みで、一日中好きに過ごせる。起こしさえしなければ猫又の邪魔は入らないから、宿題が終わったら次は何をしようか。掃除は大きな物音を立てる恐れがあるから今日は止めておこう。そんな風に穏やかな一日を過ごそうと思っていた矢先、君彦の部屋のインターホンが鳴った。
その音で猫又が目覚めるのかと少しひやりとしたが、猫又は背中をわずかにぴくぴくとさせただけで、特に起きる気配はない。ほっと一息ついた君彦は音を立てないようにゆっくり立つと、忍び足で玄関へ向かう。
「はーい、どちら様ですか?」
微妙な声の加減。後方に居る猫又を起こさない程度の、ただし玄関のドア一枚向こう側に居る人物に聞こえる程度の声のボリュームで君彦は訪問者へ声をかけた。君彦の部屋のインターホンは玄関の外側に取り付けてあるボタンを押すだけのもので、音声を伝える機能は備わっていなかった。よって訪問者がインターホンを鳴らした時には、わざわざ玄関の前まで行ってドア越しに声をかけるか、鍵を開けてドアを開けるかしなければいけない。
玄関のドアには大体覗き穴が付いているものだ。魚眼レンズのような覗き穴から外を窺うことが出来、大抵はそこから外の様子を窺って訪問者の姿を確認するようになっている。しかし君彦はドアにある覗き穴を故意に使わないようにしていた。
以前は誰か来た時そこから誰が来たのか覗いたものだが、そんな時は決まって君彦が見たくないもの――頭から水をかぶったようにずぶ濡れになった黒く長い髪はまるでわざと隠すように顔を覆っており、その髪の隙間からは充血した瞳を大きく見開き、覗き穴から君彦が覗くことがわかっているようにじっとこちらを睨みつけて来る女の霊。または全身火傷で肌が爛れ、歯ぐきも目も剥き出しになって、がちゃがちゃと君彦のドアを無理矢理にでもこじ開けようと、始終ドアノブを回し続ける男の霊。
そんな訪問者を覗き穴で確認したくなかった君彦は、それ以来覗き穴を使うことはやめてしまったのだ。ではどうやって生きた人間と幽霊を分別するのか? ドア越しに声をかけた所で、それが生きてる人間とは限らない。
君彦は覗き穴を使わない代わりに、誰が来たのか声をかけるようにした。生きた人間の場合、すぐさま自分がどこの誰で、何者で、どんな用事で来たのか答えてくれる。勿論答えない人間もいるが、そんな時は生きた人間であろうと幽霊であろうと、ドアは開けない。ひとまずそこで自分が知っている者であった場合、用件によって君彦は生きた人間、知り合いだと判断しドアを開ける。
姑息な霊の中には知り合いのフリをして声真似してくる輩がたまにいた。そしてそんな輩と、質問に答えない者とは共通点が必ずあった。それは君彦だからこそわかるものである。悪意ある霊ならば、必ず君彦は「察知」出来るのだ。
悪意ある霊には悪寒を感じる。仮にその霊が君彦の知り合いのフリをして訪問してきた場合、君彦が誤ってドアを開けようとする瞬間には、決まって必ず悪寒が走るのだ。射竦むような感覚、殺気、嫌な予感、尋常じゃない気配。それは鋭い者なら霊感のない人間でも本能的に備わっているものである。
そんな状態に陥った時、意を決して――心の準備をしてから覗き穴を使用するのだ。前もって気を取り直しておけば、覗き穴の向こうにどんな姿の者が映し出されようとも恐ろしさは半減される。それでも恐怖は感じるが……。君彦の場合はそうやって訪問者を分別しなければならない面倒な部分があった。
君彦が声をかけた時、ドアの向こうでは何人かの声が聞こえてくる。それは聞き覚えのある声ばかりで、君彦は傍と止まった。
今日は何か会う約束とかしてたっけ?
そう思いながら君彦は躊躇なくドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。その瞬間に君彦は覚悟した。静かで穏やかな一日はこれで幕を閉じた。騒がしくなることで静寂さは失われ、それによって猫又を起こしてしまうだろう。そうしてまた慌ただしくも賑やかな時間を過ごすことになるのだろうと思いながら、反面そんな状態も割と楽しいから構わないなという両方の思いが込み上げていた。
「黒依ちゃん、志岐城さん! ……そんで犬塚か。えっと、今日は一体どうしたの」
見ると目の前には黒い髪をポニーテールに結った黒依と、右側に髪をひとまとめにしてある響子。二人ともシンプルではあるがとても涼しげな格好をしていた。水玉のワンピースを着た黒依は梅雨の季節に合った雰囲気でとても愛らしく映っていたし、響子は無地のインナーに青いパーカー、ネイビー色のカーゴパンツというスタイルは、目鼻立ちの整った響子にしてはとてもボーイッシュに感じられる。ファッションにさほど興味がないのか、慶尚は普段着と言っても過言ではないただのスウェット姿であった。
三人とも手には何やら教材のような冊子が何冊か入ったバッグを手にしており、このまま図書館へ行って勉強でもしに行こうというような格好である。しかしそんなこと君彦は何も聞いていない。そもそも三人が君彦の家を訪ねるというようなことは何一つ聞いていないのだ。まるで一人だけ置いてけぼりにされたような状況で、目をぱちくりさせている君彦の表情を見るなり響子が慶尚に向かっていきなり文句を言い出した。
「猫又のこの顔……、犬塚……あんたまさか。こいつに何も言ってないんじゃないでしょうね?」
「あぁ、そういえば家が隣だからいつでもいいかと思って、そのまま忘れてた」
何となく状況は飲み込めた。つまり君彦がいない所でまたしても三人で何かの計画を立てて、それを君彦に伝える役割を担った慶尚が伝言し忘れたと、そういうわけらしい。君彦への伝言係が隣近所である慶尚だったことはまだ良しとしよう。そして慶尚が例の如くその伝言を君彦に伝え忘れたことも、とりあえず目を瞑っておく。しかし君彦にとってどうしても理解し難いことがあった。
(何でいつもいつもオレのいない所で何かの計画が立てられるんだ? え、何? もしかしてオレ、さり気なく除け者にされてるのか? いやいや、それなら最初から一緒に遊ぶような感じで三人が訪ねて来るなんてことないだろうし。それなら何でいっつもサプライズなわけ? どうしていっつもいきなりな訪問なわけ?)
どうにも腑に落ちないという感じが拭い切れない君彦に構うことなく、響子は犬塚の手抜きに延々文句を言っていた。話が見えてこない君彦が玄関先で固まっていると、ようやく事態を把握していない君彦に黒依が声をかけた。
「ごめんね~君彦クン。別に君彦クンに内緒で遊ぶ約束してるわけじゃないんだよ~? ただ君彦クンって平日でも夜間のバイトがあるから、いつも早く帰っちゃうでしょ? 一人暮らしだから家のことも全部自分でしないといけないみたいだから、とっても忙しそうだしなかなか一緒に居る機会もないし。学校でいつも一緒に楽しく居ても、やっぱりどこか違うじゃない。だから君彦クンのバイトがない時にみんなで一緒に遊べないか相談してたの。君彦クンは忙しいみたいだから話し合いをする時はどうしても帰り道だとかになっちゃって、本当は君彦クンも交えて相談したかったけど。一緒に居る時って他の話題になることが多いでしょ? だからってわけじゃないけど、一応決まったことは全部犬塚クンに伝えてもらうことにすれば、君彦クンとの連携にも繋がるかなって思ったんだけど。なんか使えないみたいだし、ごめんね」
最後の最後で毒の混じった台詞が聞き取れたが、君彦はその部分には激しく同意するものが含まれていたのであえて突っ込むような真似はしなかった。響子から散々お叱りを受けている慶尚にはどうやら先程の黒依の言葉は聞こえていないようである。
つまりはこういうことだ。学校の休み時間や弁当を食べる時間に一緒に居ることがあっても、その時は決まって響子の色情霊に関する話題になることが多かった。響子自身もそれが悩みの種であることに変わりはないし、君彦もどうにか救いたい気持ちがあるということもあって、飽きることなく解決策を論じることに時間を費やしていたのだ。
しかしそれではせっかくの高校生活を楽しく過ごせないのではないか? 響子の状況も大切だが、それ以上に楽しい出来事を自分達で作らなければ勿体ないのではないか。だからこそこうした休日、それも君彦のバイトが出来るだけない日にみんなで集まって高校生らしいことをする、という計画を練っていたのだ。
天気の良い日ならばどこかへ出掛けたりレジャーを楽しむ為に遠出したりすることも出来なくはないが、梅雨の時期と高校生の所持金では限度があった。何より雨の日は出掛けるのが億劫になるという傾向に陥りやすいので、屋内で楽しむ他ない。ならば誰かの家に遊びに行って宿題を一緒にしたり、ただ何でもないことを話題にして盛り上がったりするしか遊ぶ内容が思い付かなかったのが現状だった。そして今回決まった内容は、君彦の部屋で宿題をする、というものらしい。
それで三人は手に宿題や教材の入ったカバンを持っていたのである。他に用事があるわけでもないし、一人でいるよりみんなと楽しく過ごした方がきっと良い一日になると思った君彦は、とりあえず今回立てられた計画に反対することなく、彼等の訪問に快く応じた。ただ気になることは、この会話の中でも部屋の奥で眠っている猫又の存在であった。
今は大人しく寝ているが起きたらきっと騒がしい事この上ない。いつもならどこかへ行けと言う所だが、外は終始雨が降っている為、猫又を追い出し帰って来た際には「お風呂に入れる」という面倒臭い儀式が待ち受けていることは目に見えていた。
よって猫又を追い出すことは出来ず、かといって猫又が眠りから覚めて君彦達の宿題が終わるのを大人しく待っているのかと問われれば、君彦ははっきりノーと答える自信がある。
ひとまず君彦の部屋に集まって宿題をするという話を聞いていなかったとはいえ、このまま雨降る中を家に帰すわけにもいかないので君彦は伝言をきちんと伝えなかった犬塚のことは無視して二人を中へと招待した。君彦がわざと無視しようとも犬塚は自ら一緒に部屋に入って来ることは承知の上だったので、あえてそれ以上何も言うつもりはない。そもそも君彦が怒鳴り声を上げたことでせっかくすやすやと眠りに落ちている猫又をわざわざ起こしてやることもないだろうと、少なからずの配慮からしたものであった。
どうせしばらくすれば起こしてしまうとわかっていても、ほんの数分、数十分だけでも静かなひと時を君彦は保ちたかったらしい。雨の中歩いて来たせいか、隣から移動してきた慶尚は別として黒依と響子は靴を脱ぐなり少し湿った靴下のことが気になってる様子だ。君彦自身はそんなことを気にするようなタイプではないが、そこはやはり女の子だから気になってしまうんだろうと心の中で呟いた。
「うわ、靴もびしょびしょだったから仕方ないけど……。このまま上がるのはちょっと……」
見ると響子が履いて来たスニーカーはずぶ濡れになっていた。明らかに黒依の靴とは違い、響子の靴から徐々に水が染み出してセメントで出来た玄関口を濡らしていく。
「そういえば志岐城さん、来る途中で大きな水たまり踏んじゃったもんね。そのせいかも」
それならこれだけ濡れてもおかしくないと思った君彦はすぐさま箪笥からタオルを取り出し、それを響子に手渡す。
「志岐城さん、はいタオル。とりあえず濡れた靴下を脱いで乾かしておいた方がいいよ。帰りもどうせ濡れるだろうけど、このまま放っておくよりマシだと思うし」
君彦にそう促され、響子は情けない思いでタオルを受け取ると黙って靴下を脱ぎ始めた。白い靴下を脱ぐと君彦が手を差し出す。響子は慌てて脱いだ靴下を君彦から隠すように後ろ手に回すと、君彦に向かってこれだけは譲れないと断言した。
「じ……自分で干すから触らないで! で、どこにこれ干したらいいの?」
脱ぎたての濡れた靴下に触れられたくなかった響子は咄嗟にそう叫ぶ。響子の声で一瞬猫又が起きてしまったのかと思ったが、それを気にしてる素振りを響子に気付かれないようにしつつ、君彦は玄関口のすぐ側にある風呂場を指さして答えた。
「えっと、一応風呂場で干そうと思ってるんだけど……」
「わかったわ、ごめん……」
そう言って響子は君彦から手渡されたタオルで一通り濡れた部分を拭き取ると、案内される程の広い室内ではなかったが風呂場へ君彦と一緒に向かう。二人が風呂場で靴下を干してる間、黒依と慶尚は無遠慮に「お邪魔します」と一声かけて部屋に上がった。君彦が住んでるアパートはワンルームなので、玄関から入るとすぐに生活感溢れる一室が丸見えであった。その部屋は非常に質素で、男の一人暮らしに必要な物だけが置かれている。祖父母の仏壇、テレビ、箪笥、テーブル。洒落た物は何一つない実に簡素な部屋であった。
君彦自身に物欲がないのだろうと思わせる室内に娯楽道具はテレビのみ。部屋の片隅に古めかしいラジオが申し訳なさそうにぽつりと置いてあったが、もう長年使用していないのだろう。埃こそ被っていないものの、電源プラグの付いたコードはコンセントに挿し込まれることなく、しっかり丸められた状態で納められていた。
箪笥もそれ程大きな物ではなく、五段抽斗がひとつきり。元々衣服を多く取り揃えていないのか、それとも季節ごとに衣替えをするので他の季節の衣服は押し入れにしまわれているのか。それは黒依達にはわからない。一般的な高校生男子の荷物がこれだけとは思えない。少なくとも慶尚は洒落た衣服に興味があるわけではないが、今の季節に必要な衣服は恐らく君彦の箪笥の中に全てを納めることは出来ないだろうと思った。慶尚の感覚では高校生男子にしては物が圧倒的に「少ない」と感じた様子である。
慶尚が君彦の隣の部屋に引っ越してからそれ程日は経っていないが、以前君彦の部屋に入った時も自分より明らかに物が少ないように感じていた。無趣味なのか、自分と違って物に興味がないのか。同じ間取りでありながら君彦の部屋と慶尚の部屋とでは明らかに空間スペースに差があった。慶尚の部屋には所狭しとAV機器で埋め尽くされており、自由なスペースは殆どベッドの上だけと言っても過言ではない位、慶尚の部屋は物で溢れ返っていた。それに比べると君彦の部屋はどう贔屓目に見ても必要最低限の物、無駄のない物しか取り揃えていないのだと慶尚はほんの少しだけ感心していた。感心するだけで羨ましいとも尊敬するとも言い難い。むしろ自分にはこんな生活は絶対に無理だ、という程度にしか頭にないようだ。
そう手間取ることもなく直に君彦達は戻るだろうと思いながら、黒依と響子は何度も足を運んだように適当に席を陣取った。荷物を置いてテーブルの側に座る前に、黒依がアパートの裏手となる硝子戸の方へと目を向けると、丸くなってる物体に気が付く。二又の尻尾をぱたぱたとさせながら寝入っている姿を見るなり、猫又だとすぐに理解した。
黒依は猫又に声を掛けなかった。そもそも黒依は猫又の姿が「見えないこと」になっている。少なくとも慶尚以外の人間の前では。黒依が寝たまま起きる気配のない猫又をじっと見つめている様子に慶尚が気付くと、風呂場の様子に耳を傾けながら小さく問いかけようとした。しかし黒依がそれを遮るように先に口を出す。
「何もしないってば。今日はみんなで宿題をしに来たんだから、大人しくしてるわよ犬塚クン」
黒依の言葉を聞いた慶尚はそれ以上何も言うことなく、まるで何事もなかったかのように適当な場所に座った。黒依はテーブルを挟んだ向かいに座り、君彦達が戻って来るのを待っている。テレビは消したままの状態。一瞬勝手にテレビを付けてやろうかと慶尚は考えたが、そもそもリモコンが見つからなかったのですぐに諦めた。それからちらりと猫又の方へ視線を向けると、これだけの人数が部屋に入り込んでいるのに全く起きる気配のない猫又の様子を見て、少しからかうように口をついた。
「眠ったように死んでるな……」
「嫌だなぁ犬塚クンってば。それを言うなら、死んだように眠ってる……でしょ?」
とりあえず観客はいないがボケとツッコミが成立したところで、早く二人が戻ってこないものかと手持無沙汰な状態になりながらも、二人はテーブルの上に次々と宿題をする準備を進めた。
猫又は深い眠りに落ちていた。
周囲が多少騒がしくなろうとも、それに気付かない位に深く。
喧騒の中、それより猫又の耳に届くは――雨の音。
懐かしい水音、深く耳に刻まれた雨の打ち付ける音だけが、猫又を更なる深い眠りへと誘って行く。
お分かりいただけたでしょうか?(笑)
ハイ、私がこの「猫又と色情狂」を思いついた時に、絶対書きたいとず~っと思っていた話、猫又ちゃんが主役のお話です!
「雨の日の記憶」が全何話になるか今はまだ未定ですが、とても大切な部分の話になるのですごく長くなってしまうと思います。
ですがそれだけ深い話として書き上げていくつもりなので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m