つまらない物ですが……
ひとしきり君彦を放置した後、慶尚は「お粗末様でした」と告げ、そのまま犬神を連れて君彦の部屋から出て行こうとした。するとちょうど大家が君彦の部屋のインターホンを鳴らそうとしていた所で慶尚と目が合う。
「あらまぁ、びっくりした!
さっき犬塚君の部屋に行ったんだけどいなかったからねぇ。
もしかして君彦君の部屋かと思って来てみたけど、どうやら正解だったね!」
どうやら大家は慶尚の方に用事があったようで、その慶尚が君彦の部屋にいたことを大家の頭の中にインプットされてしまったかもしれないと思って、顔面を蒼白にさせる君彦。
大家が慶尚にアパートのルールが書いてある手書きの紙切れを渡すと、突然慶尚は何かを思い出したのか……大家に待っててくれと言ってすぐさま自分の部屋へと入って行った。
君彦も大家と同じように首を傾げていると慶尚はすぐに戻って来て、手には包装紙で包んである品物を持っている。
「遅れてすみません、これ引っ越しの挨拶代わりです」
「あらあら! そんなに気を使わなくてもいいのに~!
悪いわね~、有り難くいただくわ」
慶尚から包みをもらうと大家は上機嫌で自分の部屋へと帰ってしまった。
君彦が何ともなしに大家が部屋に戻る背中を見送っていると、慶尚が君彦に向かってにべもなく言い放つ。
「……欲しいのか」
まるで自分が物欲しげにしていたように見えたのかと思った君彦は、慌ててそれを否定する。
しかしその慌てぶりがかえって怪しく見えてしまったのか、慶尚が白い目で疑わしそうに見つめて来た。
「べ……、別に欲しかないわっ!」
そう反論する君彦に対し、慶尚がおもむろに何かを手渡した。
「実はお前の分もあったとか」
無愛想のまま大家に渡した品物と同じ大きさの箱を君彦が受け取ると、少しだけ嬉しそうな表情になりながら「気を使うなよ」と言いかけたが、すぐさまその言葉を飲み込んだ。
手渡された物は包装紙に包んですらいない裸の状態、しかも思い切り洗濯洗剤のフタが開いていた。
「――――って、使いさしかあああっっ!!
あ、でも今ちょうど洗濯洗剤切らしてたんだ。
いやいや! オレはそこまで卑しくないぞ!
使用済みの洗剤もらってまで近所付き合いしたくないわ、持って帰れ!!」
どうやら完全に敵に回したかもしれないと何となく思いながら、慶尚は特に落ち込んだり怒ったりする様子もなくただ無言で君彦をじっと見据えた。それが逆にガンをたれているように見えた君彦は無表情のままでも案外怒ったのかもしれないと思って、慶尚のことを警戒しつつ後ずさりする。
「な、なんだよ!?」
「いや別に、じゃあな。
引っ越しの手伝い、助かった」
やけに素直な慶尚の態度に若干拍子抜けした君彦は、目を丸くしながら「あぁ」と小さく返事をした。
新しく一人暮らしをすることになった部屋に入り、まだ片付け途中の小物類を片付けながら慶尚はふと……天井を見つめながら、君彦の部屋で見た遺影を思い出す。
遺影に映っていた二人の老夫婦、その中でも慶尚は君彦の祖父である征四郎の顔を思い返していた。
(……あれがあいつの祖父、―――猫又征四郎か。
確かに面影はあったな)
二日前に慶尚の夢の中に現れた人物。
姿こそ二十代の若い青年の姿で現れていたが、遺影に映っていた老人の顔と照らし合わせればわかること。
慶尚はあれが間違いなく、猫又征四郎本人であったことを確信した。
そして慶尚は夢の中で告げられた征四郎の言葉を思い出そうとした。
何もない真っ白な空間で、甚平に草履という格好をした若い男……征四郎が屈託のない表情で慶尚に向けた言葉……。
『―――慶尚君、今度こそ君彦の友達になってくれるかな?』
その言葉を聞いた瞬間、慶尚の脳裏に昔の記憶が蘇る。
まだ自分が幼かった頃……、初めて猫又家の人間に出会った日のことを。
長い間更新が遅れて申し訳ありませんでした。
少々プライベートの方で嬉しいトラブルが発生しておりまして、執筆する時間が全くなかったのです、深くお詫び申し上げます(>_<)
今後もちょっと不定期更新になってしまいますが、一週間に一話位は更新出来るように頑張りたいと思いますので見捨てないであげてください!
これからも「猫又と色情狂」をよろしくお願いいたします。