猫又活用法
今回は君彦視点でございます。
「書く」分には慣れましたが、続けて「読む」と違和感があります。
もう少し工夫するべきかもしれませんが、まだしばらくの間この手法でお付き合い願います、すみません。
とりあえずオレは勘を頼りに、椅子で無関心を決め込んでいる猫又の伸びきった首根っこを捕まえて、色情霊に取り憑かれている女性・・・志岐城響子さんの頭上にいる(ヤンキー風の男を今まさに誘惑している)色情霊目がけて猫又を突き付けてやった。
―――――――――殆ど、志岐城さんの頭の上に乗せる形になってしまったが。
だがしかし、案の定・・・!
猫又の霊力は他の霊を鎮める力があるのか、霊界に関する知識が特に詳しいわけでもないから本当の所はよくわからないけど。
とにかく志岐城さんにまとわりついている女性の姿をした色情霊が、猫又の存在によって苦しそうな表情を浮かべるとそのまま志岐城さんの体から離れて行くのがオレの目には見えた。
いつもならあれだけハッキリ見える霊だと声や悲鳴が聞こえて来そうなものなんだけど、あの色情霊は姿が見えているオレに対して何も言わなかったな・・・。
生きている人間に取り憑く霊の大半が、大体何かを訴える為に人間に取り憑くものなんだけど・・・。
オレがそんなことを思いながら猫又の体重が志岐城さんにかからないように、ずっと首根っこを捕まえて頭の上にソフトに乗せていた時だった。
色情霊の力によって惑わされていたヤンキーは、我に返ったように志岐城さんのことを上から下へ確認するように見つめている。
もっともグラサンをかけているからどんな目つきなのか、本当に見つめているのかオレには確認のしようがないけど・・・。
ようやく自分が惑わされていたことに気付いて、頭をぼりぼり掻きながら嫌悪感を露わにした表情を浮かべる。
「チッ・・・、なんだよこのイモくせぇ女は! なんでこのオレがこんなダセェ女を口説かなきゃなんねぇんだよ、胸クソワリー!」
渋谷系のような喋り方で文句をたれると、男はそのまま不満たっぷりにブツブツ呟きながら喫茶店を出て行ってしまった。
・・・勿論、ちゃんとお金は払って行ったようだが。
とりあえず良かった、何事もなく済んで。
だがしかしホッとするのも束の間、オレは安堵していて猫又を志岐城さんの頭の上に乗せっぱなしにしていたのを忘れていたのだ!
志岐城さんと猫又が大声を張り上げた後にオレの名前を何度も叫ぶのが聞こえるまで・・・、オレは不覚にも全く気付かなかった。
また志岐城さんを怒らせてしまった・・・。
とりあえずヤンキー男の態度の豹変を見て不審に思った志岐城さんは、改めてオレの話を聞く気になってくれたみたいだ。
そのままオレ達を置いて喫茶店を出て行かず、志岐城さんは再び椅子に座ると両手を組みながら今度はカプチーノを注文する。
「―――――――――で?」
ぶすっとしかめっ面をしながら、志岐城さんはたった一言・・・オレ達に事情説明を求めた。
オレは不意に右隣の椅子に座っている猫又の方に視線を送るが、さっき首根っこを掴まえたことをまだ怒っているのか・・・。
こっちの方はふくれっ面をしながらそっぽを向きやがった。
ともかくまずはさっきのことを謝った方がいいよな、・・・理由を説明しながら。
「あの、さっきのはホント・・・ごめんなさい。 志岐城さんをナンパしようとしてた男の人が色情霊に惑わされているのを見て、猫又を使えば色情霊の誘惑を断ち切ることが出来るのかと思ったから・・・、ついあんなことを」
「あ、そう・・・それで? その色情霊とか言うやつは退治出来たわけ?」
「いや、オレは別に霊媒師とかそういうのじゃないから霊魂を鎮めたり成仏させたりする能力は持ってないんだよ。 オレに出来るのはこの世に彷徨っている幽霊とか、猫又みたいな物の怪が見えるってだけで・・・。 さっきのはあくまで、猫又で一時的に志岐城さんから引き離したってだけなんだ! 多分・・・、志岐城さんの周辺に猫又の気配がなくなればまた戻って来ると思うけど」
重い沈黙が流れる。
オレの話をちゃんと信じてくれてるのだろうか? それとも頭のおかしい奴だと疑われてるんだろうか?
突然オレの脳裏に、昔の記憶がフラッシュバックする。
中学生の時、幽霊が見える話をクラスの友達にしてしまって・・・避けられたことを。
その時オレのことを助けて、かばってくれた黒依ちゃんの笑顔を。
黒依ちゃんの笑顔を思い出したら、勇気が出て来た。
「でも、諦めちゃダメだよ! きちんとした霊媒師の人に相談してお祓いしてもらえば、今みたいなことはもう起こらないから! オレも手伝うからさ、だから志岐城さんも一緒に頑張ろうよ!」
だが志岐城さんはオレを睨みつけたまま・・・、まるで値踏みするような眼差しで無言を貫いている。
やっぱり会っていきなり「悪霊に取り憑かれてますよ」って言っても、信じられるはずがないよな。
でも・・・オレは諦めたくない、目の前で困ってる人がいるのに。
しかも霊絡みで悩んでる人ならなおさら、霊を見ることが出来るオレが何とかしてあげなくちゃ!
―――――――――と、オレがもう一度説得しようとした時だった。
「・・・あんたが言ってること、どうやら本気でホントみたいね」
深い溜め息をこぼしながら、志岐城さんは観念したような口調で肩を竦める。
ちょうどその時志岐城さんが注文していたカプチーノが来たわけだが、必死で説得したせいで声が大きくなったオレの台詞をカプチーノを持って来たウェイトレスが聞いていたようだ。
微かに笑いをこらえて、しかもオレを見る目は変人扱いする眼差しそのものだった。
・・・まぁ、今更変人扱いされるのは慣れてるからオレはいいとして・・・志岐城さん、変人ワールドに巻き込んですみません。
オレはウェイトレスが完全にどっかへ行ってしまうのを横目で確認してから、さっきの志岐城さんの言葉に感謝の言葉を述べた。
「オレが言ったこと、信じてくれるんですか!?」
「信じるも何も・・・、そこの不可解な猫が存在している時点で疑いようがないでしょ!? ここの喫茶店、ペット入店お断りの看板をする位ペットの出入りを厳しくしてるってのに・・・誰一人としてその猫の存在に気付かない上に、注意すらして来ない。 そいつがあんたとあたし以外に『見えてない』って、そう思うしかないじゃないの。 だからその・・・何だっけ、色情霊? それがあたしに取り憑いてるってのも、一応・・・百歩譲って信じてあげることにしたの!」
志岐城さんがオレの言うことを信じてくれたことに、思わず嬉しくなってオレは思い切り安堵の笑みを浮かべた。
あれ・・・? 志岐城さんの顔が赤い、どうしたんだろ・・・。
オレが不思議に思っていると、すかさず猫又の奴が茶々を入れて来る。
『だから言ったろー、オレ様の姿を見えるようにすりゃどんなに頭の固いヤツだって、お前のすっとんきょーな話を信じざるを得なくなるってな・・・!』
「そんなこと一っ言も言ってないけどな!」
相変わらず偉そうな態度をしている猫又の丸まった背中を、オレは片手で逆撫でしてやる。
・・・と、猫又の相手をしている場合じゃなかった!
オレはすぐに志岐城さんの方に向き直って、早速色情霊を祓う為の話題に切り換えようとした。
しかしまたしても猫又が口を挟んで来やがる!
『君彦、意気揚々としてる所ワリーけどな・・・。 その女に憑いてる色情霊の浄霊を、そんじょそこらのインチキ霊媒師に依頼しようとしても無駄ってモンだぜ?』
「何でっ!? 一体どういうことだよ、猫又!?」
オレだけでなく志岐城さんも猫又の方に注目した。
しかも鈍感なオレは、志岐城さんの目の前で思い切り動揺した態度を取ってしまう。
一番不安で心配しているのは彼女の方なのに、本当に全く―――――――――オレのバカ!
今回出て来た「浄霊」について。
そもそも霊を祓う用語(方法)として、除霊と浄霊という2種類の言い方が存在します。今回私が選んだ浄霊というものは、除霊に類似した言葉として使われることが多いらしくその場合、除霊も浄霊も、人に取り憑いて災いをなす霊(悪霊や怨霊、水子の霊など)を除去するための霊能力、または儀式のことを指します。
この2種類の違いとして除霊の方は、悪霊や怨霊などと「対決」して「強制的」に排除しようとする霊能力の事だと、この小説ではそういった扱いをさせてもらってます。
そして今回猫又が言っている浄霊というのは、憑いている霊の不浄な部分を浄化させることで清めて、向上・・・または納得させることで災いを止めさせ、解決しようとするもの、として扱っています。
基本的に争い事を好まない君彦に対して、響子に取り憑いている霊が例えタチの悪い悪霊と言えども「除霊」という荒々しい方法は選ばない。
そんな猫又の、君彦に対する「愛」から選び取った救済方法だったのかもしれません。