表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/108

天敵

 昼休み、君彦は約束通り黒依と響子と共に屋上で弁当を食べようとしていた。

 しかし天気がかなり怪しい曇り空だった為、屋上に出る手前の踊り場で弁当を広げることとなる。


「天気が悪くて残念だったね。

 晴れ晴れとした青空を見ながらお弁当を食べたら、すごく美味しく感じられただろうに」


 君彦はいそいそと弁当の包みを広げながら女子二人ががっかりしないように明るい声を出す。


「そんなことないよ、天気に関係なく君彦クンが作ったお料理ってすごく美味しいよ」


 黒依は満面の笑みを浮かべて君彦を励ました、そんな黒依の言葉に君彦は天にも昇るような気持ちで舞い上がる。


(黒依ちゃん……っ!

 なんて君は心の優しいいい子なんだ。

 そんな風に言ってもらえると、朝早くに頑張っておかずを作って来た甲斐があったってもんだ!)


 傍から見てもわかりやすいリアクションでデレデレになっている君彦を白い目で見つめながら、響子は自分の弁当を黙々と食べ始めた。君彦は嬉しさの余り笑いが止まらない様子のまま、黒依達の前におかずが入った弁当箱のふたを開けて薦める。


「嫌いな食べ物がなかったらいいんだけど、とりあえず遠慮なく食べてよ。

 これはオレからの心ばかりのお礼だからさ」


 照れ臭そうに二人が食べてくれるのを待つ君彦、その時君彦が作ったほうれん草の胡麻和えを見知らぬお箸が捉えた。

 一瞬にして硬直する三人。

 見ると階段下からお箸を持った手が伸びて、そのお箸で捉えた胡麻和えを口に運んでもぐもぐと食べる男が一人……。


「……美味い」


「―――――――って、何でお前が先に食べてんだあああああっっ!」


 絶叫に近い大声で君彦は声を張り上げた、階段下には身長を活かして君彦のおかずを奪った慶尚が何食わぬ顔で平らげている。

 突然の侵入者に黒依も響子も唖然として固まっていた、君彦は女性二人の為に作った料理を先に憎き慶尚に食べられて怒り心頭の様子である。拳を震わせながら目くじら立てる君彦に対し、慶尚は特に悪びれた様子もなく事実を述べた。


「お前からの心ばかりの礼なんだろ、この料理」


「あぁそうだよ! 

 お前のせいで猫又が行方不明になったから、黒依ちゃんと志岐城さんが心配して手助けしてくれたお礼だよ!」


 君彦は憎しみをたっぷり込めながら慶尚に向かって指を指す、いつも温厚で穏やかな物腰だった君彦が慶尚を前にした途端にまるで別人のように性格が豹変したので、黒依も響子も少しばかり驚いている様子だった。

 むしろ慶尚が突然乱入して来たことよりもずっと驚愕している。

 君彦に取って犬塚慶尚という男はどうしても許せない人物であった、猫又との何気ない生活をぶち壊した張本人。

 果てには猫又の命を狙い、自分に刀傷を負わせた危険人物――――――――。

 理由はそれだけでも十分であったが、なぜか君彦は慶尚のことが苦手で仕方なかった。

 顔を見るだけで胸の奥がむかむかしてくるのだ、クラスメイトに対してそんな態度を取ってはいけないとわかっていても、君彦は猫又の一件以来どうしても慶尚をすぐに許すことが出来ず、少し意地になっていたかもしれなかった。


 そんな君彦の心中など全く介せず、慶尚は淡々と言葉を返す。


「だからオレも今朝、気絶したお前を教室まで担いで行っただろうが。

 まぁさっきの胡麻和え一口程度じゃ、礼の足しにもならねぇけどな」


「そんなもんオレは頼んだ覚えないっ! しかも何て恩着せがましい奴なんだっ!

 ――――――――ってだから、食うな! あっ、今回のメインディッシュまで!」


 君彦が罵る間もなく慶尚はどんどん箸を伸ばして弁当の中身をたいらげていった。

 唖然とする黒依と響子に、君彦は遂に我慢ならず力ずくでもこの場から邪魔者を追い出そうと立ち上がる。

 すると慶尚はある程度おかずを口にして少しは満足したのか、伸ばしていた腕を引っ込めて階段下から少し場所を移した。


「そうカリカリ怒るな、オレは別に喧嘩を仕掛けにここまで来たわけじゃないからな。

 あ、もしかしてハーレム状態を邪魔されたくなくて怒ってんなら話は別だけど」


「――――――――え、ハー……レムって?」


 慶尚の何気ない一言に君彦の怒りは一気に消沈してしまう、それからきょとんとした顔のまま自分の目の前で唖然としている黒依と響子の方へと視線を移した。

 

「両手に花の状態もハーレム状態って言うのかなぁ?」


 黒依はあっけらかんとした口調で言い放つ、すると響子は心外とでも言うように顔を真っ赤にさせながら激怒した。


「何バカなこと言ってんのよ! べ、別にそういうつもりでここに集まってるわけじゃないんだからねっ!

 ただ単に弁当食べに来ただけじゃない!」


「そ、そうだよ! オレ達が誰とどこで弁当食べようと自由じゃないかっ!

 失礼なこと言ったんだから二人に謝れよ、犬塚っ!」


 ただでさえ響子は男に対して不信感を募らせている為、君彦は変な誤解を与えないように何とか言い繕おうとする。

 すると慶尚は細かい事情を知ってか知らずか、君彦達が弁当を広げている場所まで階段を上って来るとコンビニ袋に入ったパンとコーヒーを取り出して、自分もその場で食事をし出した。


「だから! 何でそうなるんだよ!

 てゆうか普通に入ってくんなって、どんだけフリーダムなんだお前はっ!」


 けたたましく声を張り上げる君彦に対し、少しだけ機嫌を損ねたように眉根を寄せながら慶尚が適当な言葉を放つ。


「ハーレム状態だって思われるのがイヤなんだろ?

 だったらオレがこの中に入ればハーレム状態じゃなくなる、問題解決だな。

 あ、その火星人ウィンナーくれ」


「タコさんウィンナーでしょ? はい、犬塚クン」


 黒依も黒依で慶尚のことを自然に受け入れてしまったのか、彼が要求したタコ型ウィンナーの入った弁当箱を差し出してしまう。

 慶尚は普通に「サンキュ」と礼を言って黙々と、当たり前のように君彦が作った手料理弁当を平らげていった。

 その光景を目にした君彦はまるでこの世の終わりの瞬間を目撃したかのような表情で、まさにムンクの叫びの如き顔でショックを受けている様子だ。


(黒依ちゃあああん! なんでそんな奴の言うこと聞いちゃうの!? 

 しかもそれ黒依ちゃんと志岐城さんに食べてもらおうと、オレが朝早くに起きて一生懸命作った料理なのにいいっ!)


 ショックを受けた直後、君彦は確信した。

 まるで敵に対して威嚇する猫の如く、目を光らせて今にも「シャアアアッ」と言わんばかりの顔で慶尚を睨みつける君彦。


(――――――――敵だっ! こいつは紛れもなくオレの天敵だっ!)


 誰が割り込んで来ようと我関せずを貫くように終始笑みを絶やさない黒依、そしてちゃっかりとグループの中に入り込んだ慶尚、そんな慶尚に対して敵意をむき出しにする君彦。

 そんな奇妙な三つ巴風景を目にしながら響子は、内心アホらしいと思いながら君彦が作って来た手料理を口一杯に頬張った。


 


久し振りにキャラクター紹介をいたします。

読まなくても今後の物語には一切影響しませんのでご安心ください。



犬塚慶尚いぬづかけいしょう、15歳、5月27日生まれ、AB型、身長186センチ。

趣味は、AV機器や家電製品などの機械類。

好きな食べ物は、てっちり。

嫌いな食べ物は、特になし。

特技は、除霊・浄霊などの霊媒。

性格は、どこまでもマイペースで滅多なことでは感情を露わにしない。

黒髪で男前カット(笑)、肌の色は少し日に焼けていてアウトドアなイメージのある外見だが、実は意外にもインドアだったりする。

室内での過ごし方は主にPCでインターネットしたり、TVゲーム(主にアクション)をしたり、音楽(主に洋楽)を聴いたり、まったり過ごすのが好き。

出掛ける際の目的地は決まって家電製品の品揃えが豊富なOOOOへ。


慶尚の実家は代々犬神を祀る神社で、祖父はその神主をしている。

家庭の事情により現在もまだ祖父が神主をしているが、本来は慶尚が後を継ぐことになっている。しかし理由あって慶尚はそれをかたくなに拒絶。

実家を出て一人暮らしを希望したのも、神主という役職を継ぐことに反発する為だという理由があるらしい。


慶尚に関する細かい事情は、今後物語の中にも出て来ます。

殆ど無理矢理ですが遂に君彦達のグループに、敵であるはずの慶尚が仲間に加わることとなりました。

敵意むき出しの君彦、二人の間にはまだまだトラブルが続きそうな予感がしますがどうぞ生温かい目で見守ってあげてください。


いつもたくさんのアクセス、お気に入り登録ありがとうございます。

今後も面白い話が書けるように執筆頑張りますので、更新を楽しみにしていてください。よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ