第一印象から決めてました!
今回は響子視点を中心に進められます。
やっぱりコロコロ視点が変わるのは忙しく感じられますね。
なぜかあたしは喫茶店に来ていた、あたしの向かいにはさっき殴った男の子。
フザけているのかからかっているのか。
自分の名前を『猫又君彦』だなんて……。
このあたしが見知らぬ男と喫茶店!?
全く、冗談じゃないわよっ!!
それもこれもぜ~んぶ、この奇妙な猫のせいだわっっ!
この尻尾が2本ある不気味な猫は、猫又君彦の隣の椅子に座って後ろ足で首の付け根あたりを掻きまくる。
や~め~て~っ! 猫の毛が飛び散ってるから! ノミとかいないでしょうねっ!?
「あ……あの、さっきも言ったと思うけど」と、猫又君彦が改まった口調で切り出してきた。
「あ~、あたしに霊が取り憑いてるってヤツ!? 残念だけどそんなナンセンスなナンパ法じゃ、このあたしは引っかかんないから。 つーかそれ以前にあたし、男に全く興味ないし? むしろ大嫌いだし? 侮蔑の対象だし?」
どうやらこの男、あたしに霊が取り憑いてるから面倒なことになってるとかなんとか、忠告しに来たみたい。
それ以前にあたしは、この不気味な猫について説明してほしいんだけど!?
大体このあたしがわざっわざ時間を割いて大嫌いな男の誘いを受けてまで、この不気味な猫について聞いてやろうとついて来てやったってのに。
あたしが猫又君彦に目もくれずカフェラテを飲んでたら、こいつ……あたしの目の前で猫と会話をし始めたっ!
目の前で内緒話っ!?
天然か、こいつわっ!!
「をい猫又……。ど~してお前の姿は見えてるのに彼女、肝心の色情霊が見えてないんだよっ!? 色情霊を見えるようにしないと、どれだけ説明しても信じてもらえないじゃないか。一体どうすんだよ!」
『あのなぁ……、そもそもお前。見える見えない以前にこの女に忠告してやろうと意気込んでたんじゃねぇのかよ!? こういう時だけオレに頼ってんじゃねぇって、その辺はお前が何とかしろよな』
「でも彼女、二足歩行で言葉を喋るお前に興味津々みたいじゃないか。ほら、さっきからお前の方をちらっちら見てんぞ!? カフェラテ飲みながらちらっちらと何か言いたげだぞ!? お前から説明してやれば納得するんじゃないのか!? お前、物の怪の親玉みたいなモンだろうが」
『ヤだよメンドくせぇ。大体オレぁ誰が何に取り憑かれてようが、どうでもいいんだよ』
「無責任なこと言ってんなよ。彼女がお前のことを見えるようにしたのは、お前の仕業なんだろうが!? ちゃんと責任取ってだなぁ……っ!」
「あのさぁ!? 特に用事がないんならあたし、もう帰りたいんだけど!?」
我慢出来なくなったあたしは、イライラとした態度を隠しもせずに言い放ってやった。
すると猫又君彦は慌てるように両手をバタつかせながら何かを訴えようとしている、動きがほんとバカっぽい。
猫について話す気がないんなら、こんなもやしっこに用はない!
あたしは引き止めようとする猫又君彦のことを思い切り無視して席を立ち上がった。
すると……。
「よぉ姉ちゃん、そんないかにもな童貞君は放っておいてこのオレと遊ばね?」
「……はぁ!?」
金髪のリーゼントにグラサン、ここはハワイかって格好をした、いかにもチャラい男があたしに話しかけて来る。
どうやらこいつ、すぐ近くの席で食事中だった所にあたしが店に入って来て、席を立つまでずっと狙ってたみたい。
あたしはあからさまに嫌悪感たっぷりな表情を浮かべて睨みつけてやる。
こういう手合いは攻撃系で対処するに限るから!
チャラ男があたしの方に掴みかかろうとした時……。
「――っ!?」
チャラ男の腕を掴んだ猫又君彦は、怖がる様子もなくあたしをかばうように立ち塞がった。
当然自分に逆らった相手に怒りを隠せないチャラ男の顔が、みるみる赤くなっていく。
ヤバイ、こいつ下級不良タイプだわ!?(見た目からそうだけど……)
自分よりも明らかに弱い相手に限って、生意気な行動を取られたらすぐさま戦闘態勢に入るという弱い者いじめタイプっ!!
「すみません、彼女は今オレと話をしてるんです。用事があるなら後にしてもらえませんか?」
何なに!? 何なのその余裕っ!? 何、実はケンカが強いとか!?
さっきあたしに殴られて伸びてたじゃない!
明らかに弱かったじゃない!
なのにどうして自分よりケンカが強そうなチャラ男に向かってそんな強気な態度ワケ!?
やっぱバカ!? こいつバカなの!?
……うっ、動揺してるのはあたしの方みたい。
とにかく!
「ちょっとあんた……、無理してんじゃないわよ。あたしのことは大丈夫だから、巻き込まれない内にさっさとどっか行ってよね!」
「そうはいかないよ。だってこの人、君の色情霊の力に惹きつけられて惑わされてるだけだから。悪霊に惑わされた人間は、すぐに根源から引き離さなくちゃ大変なことに……」
――ん? それってちょっと待って!?
猫又君彦の言い回しに引っ掛かったあたしは、懸命に湧き上がって来る怒りを抑えながら、こいつの胸ぐらを掴んだ。
「それってなに? つまりあんたが止めに入ったのってあたしを助ける為とかじゃなくて、このチャラ男が大変なことにならないように、あたしから引き離そうとしてるだけってこと!? 今言った根源って……、諸悪の根源はこのあたしの方だってか!?」
「え、だって……君のパンチって結構スゴかったし、オレが助ける必要性を感じなかったわけで……。それにオレが言いたいのは諸悪の根源ってのは君に取り憑いてる色情霊のことであって、別に君がどうこうってわけじゃないよ!? ――あっ、ホラ! 今、色情霊がこの人のこと誘惑してるっ!! 惑わされて自我を失う前に早いとこ何とかしなくちゃ!」
――こ、こいつっ!
あたしのことは……、アウト オブ 眼中っ!?
今までこんなことは有り得なかった。
いやいや、別に自意識過剰とかそういった意味じゃなくて……っ!
あたしが自分の意志とは関係なく周囲からモテ始めてからと言うもの、あたしに注目しなかった男は今の今まで存在しなかったという意味であって……っ!
え……? なに、ってことはもしかしてこいつ。
もしこいつの言う『色情霊』っていう話が本当だったとして、最初からこの人……。
あたしに興味があって近付いたんじゃないってこと?
むしろあたしに取り憑いてるっていう『色情霊』を何とかする為に、あたしに声をかけて……お祓いしようとしてただけってこと!?
あたしの心臓が大きく跳ね上がる。
急に鼓動が早くなって、顔がだんだん熱くなって来るのがわかった。
――瞬間。
『ぎにゃああぁぁっっ!!』
「ぎゃあああぁぁっっ!!」
あたしとブサイク猫との絶叫が綺麗にハモる。
猫又君彦は何を思ったのか、椅子で毛づくろいしていたブサイク猫の首根っこを掴むとあたしの頭の上に乗せて来た。
重くはなかったけど、ブニャブニャにたるんだお腹と肉球の湿った臭いが、あたしの顔面を襲う。
平々凡々な草食男子である君彦クンが、ヤンキーに堂々と立ち向かう姿。
やはり違和感ですか?(笑)
なぜ彼が恐れることなくヤンキーに逆らえたのか、それは後日近い内に語られることとなります。
あ、前話でも書きましたけど君彦クンが「ケンカが弱い」って設定は変わりません。
ですから「実はケンカが強かった!」みたいなことにはならないので、ご安心を!