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雨の中の決闘

長い間更新出来てなくて申し訳ありませんでした。

久々の再開でございます、どうぞご覧くださいませ。

 外は雨が降っていた。

 まるで空が悲しんで泣いているように、ここ最近ではずっと雨が続いている。


 広い神社の敷地内にある境内、そこに傘を差さずに立ち尽くしている一人の男。

 学ランを来てずぶ濡れになっている犬塚慶尚、そしてその傍らで主を守るような形で威嚇体勢を取っている大きな体をした犬神。

 対するは二又の尾に毛色はグレイ、そして虎模様の入った小太りの猫が背中の毛を逆立たせて同じように威嚇している。


『お前の用件は何だ、犬塚家の孫。

 事と次第によっちゃ容赦しないから覚悟しろよ、オレは今すこぶる機嫌が悪いんだからな!』


 猫又がドスを利かせた声で慶尚に言い放つ。

 しかし慶尚は恐れるでも挑発に乗るでもなく、ただ静かな表情のまま手に持っていた獲物の紐を解き、包んでいた布を取り去った。そこに現れたのは日本刀で、慶尚はスッと鞘から刀を引き抜く。

 降りしきる雨の中、薄暗い場所で抜かれた刃からは鈍い光が放たれる。

 

「オレはただ見極めたいだけだ、お前がこの町にとって災厄となるか・・・それとも救いとなるのか」


 猫又との間合いを取る為に慶尚は慎重な足取りで刀を構えたままゆっくりと横に移動する。

 その動きに合わせるように犬神も猫又への注意を怠ることなく、いつでも飛びかかれる体勢で唸り声を上げた。

 慶尚の言葉に猫又は鼻を鳴らすように笑うと、軽口を叩くような口調で道化を演じる。


『へっ、何が救いだ。

 オレはただ住み心地のいいこの町で、のらりくらりとやっていきたいだけさ。

 英雄気取るつもりなんてねぇ、風の吹くまま気の向くままに自由に生きて行くのが猫の性分ってやつだ』


「それで馬鹿が付く程お人好しなあいつに取り憑いて、自分勝手な自由を満喫してるというのか」


 慶尚が君彦の話題に触れた途端、猫又に隙が出来た。

 その瞬間を見逃さなかった犬神が先制攻撃を仕掛ける、素早い動きで飛びかかり鋭い爪が猫又を捉えた。

 しかし身のこなしでいえば猫の方が上であったのか猫又は体型にそぐわぬ動きで横に飛びのき、犬神の爪が境内の石畳を抉る。

 抉られた石畳は瓦礫と化し、そのまま瓦礫を石つぶてとして利用する為にもう一度前足を振り上げると、猫又めがけて瓦礫の石つぶてが数ヵ所命中する。


『つっ! やったなこのヤ・・・』


「遅い!」


 犬神に気を取られていた猫又は慶尚の接近に気付かず間合いを詰められていた、振り向いた時には慶尚の刀は完全に猫又を捉えていて鋭い刃が振り下ろされる。


(―――――しまった!)


 元々無理な体勢で犬神の攻撃を避けた上に、猫又は太り過ぎていたせいもあって自分が思っていたよりずっと動きが鈍っていた。

 

「猫又ーーーーーーーーーっっ!!」


 その叫び声に慶尚の手が止まり刃は猫又に届くことがなかった、反射的に猫又は素早いステップで後方に飛び退ると声がした方へと視線を走らせる。


 町から神社へと続く階段の先に目をやると、鳥居の下には茶髪の美少女―――――響子が息を切らして睨みつけていた。

 大慌てで階段を駆け上がったのか響子は息も絶え絶えに苦痛に喘いだ表情を浮かべながら、キッと犬塚だけではなく猫又の方にも鋭い視線を向けている。


「こんっっっな雨の中あんたら一体何やってんのよっ!」


 猫又は愕然とした表情でアゴが外れる程の大口を開けて言葉を失っていた、犬塚に関してはやはり表情は変わらず片手に刀を握り締めたまま黙って響子の方を見ている。

 慶尚と猫又との間にある並々ならぬ雰囲気に響子はどう言葉をかけたらいいのかわからなかった、ただ幽霊の女の子カナの案内でここまで来たわけだがまさか二人が戦っているとは夢にも思わなかったからである。

 見ると慶尚の手には日本刀が握られていたので、殺すつもりで戦っていたんだと思うと響子は背筋が凍った。


「あんたら・・・、一体こんな所でそんなモン振り回して・・・物騒なことしてんじゃないわよっ!

 どんな理由があるか知らないけどハッキリ言って迷惑なのよ!」


 言葉がうまく見つからないまま響子は怒声を浴びせた、今は戸惑いの他にあるのは怒りだけだったからだ。

 響子の怒りに犬塚は首を傾げるような仕草をして問いかける。

 それは恐らく猫又自身も同じことを思っていたことだろう。


「どうしてお前が怒っている?

 お前には全く関係ないことだろう、大体どうしてここに来たんだ」


 犬塚の側で威嚇したまま牙をむき出しにしている犬神に怯えているカナは、相変わらず響子の後ろに隠れたままでいた。

 響子は無意識にカナを庇うように、守るように片手で制しながら自分自身が抱いている恐怖感を振り払うように声を張り上げる。

 今は虚勢を張ることでしかこの状況の中に立つことが出来なった。


「あんたらがモメると『あいつ』が挙動不審になって、そのままこっちが被害を被るわけ!

 猫又! あんたが居なくなってからあいつ・・・まるで魂の抜けた抜け殻みたいになってんのよ!

 迷惑だからさっさと家に戻んなさい、どんな事情があろうとそんなモン却下よ却下!」


『んなっ! お前そんな勝手に・・・つか、あっさりと・・・っ!』


 今生の別れのつもりで出て行った猫又の気持ちを無視する形で言い放つ響子に、猫又は完全に毒気を抜かれていた。

 そして今度は犬塚の方へと人差し指を突き付けて声高々に文句を言ってやる響子。


「特にあんた! 何が目的か知ったこっちゃないけどこれ以上こいつらを引っ掻き回さないでよね!

 日本刀なんか振り回して、あんたは頭のイカれた侍オタクか!

 ともかくこんな馬鹿げたことはもうやめて――――――――――」


 言いかけた途端、響子は突然金縛りに遭った。

 言葉を発するどころか体のどこも動かすことが出来ず、響子は短く呻きながらどこか一部でも動かそうともがく。

 

(な・・・何これ!? 体が全然動かないっ!?)


 視線だけは動かせるようで響子は慶尚か猫又、どちらが仕掛けたのか窺った。

 

『お前がここに来た・・・ってことは、あいつも来るのか。

 だったらこんな所でモタモタしてらんねぇな、―――――――もうオレはあいつに会うわけにはいかねぇんだよ』


(猫又・・・、あんたっ!)


『お姉ちゃん、お姉ちゃんどうしたの!?

 このままじゃ猫又ちゃんが危ないよぉ、あたしじゃあの人を止められない・・・っ!

 あたしどうしたらいいのっ!? 怖いよぉお姉ちゃん!』


 響子にしがみつくように涙を流しながら必死に訴えかけてくるカナに向かって、響子はどうにか思っていることを伝えられないかどうか瞳を動かしてみる。

 まばたきしたり目線を動かして、どうにかこの犬塚神社へ向かっているであろう君彦と黒依に現状をカナが伝えに行くように。

 今この場でそれが出来るのはカナだけである、響子は必死になって鳥居の向こうへ行くように目線を右から左へ素早く動かしたりして思いを伝えようとした。


『お姉ちゃん・・・? もしかしてカナに君彦お兄ちゃんを呼びに行けって、言ってる?』


 その言葉に響子は両目を強くつむって「そうだ」という合図を送った。

 響子の意図を察したカナは瞳に力を宿し、すぐさま鳥居の向こうへと飛んで行く。

 当然カナの動きを猫又だけではなく犬塚も察知していたようで、視線だけカナの姿を追うとすぐさま互いの敵へと戻る。


「お前の真意は犬塚家に代々伝わるこの刀で聞いてやる、覚悟しろ」


『てめぇがな!』


 響子の必死の呼びかけも空しく、二人の戦いが再開されてしまう。

 化け猫と人間との戦いという異様な光景を目の当たりにして、響子は心の中で強く叫んだ。


(これを止められるのはもうあんただけよ、――――――――猫又っ!

 だから早く来なさいよ、この馬鹿ーーーーーっ!!)




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