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響子の心配



「おはよう、志岐城さん!」


 ―――――――朝、学校に登校している途中で君彦とばったり会った響子は満面の笑顔で挨拶をして来る君彦に対して冷たい、白い目で見据えていた。何の根拠もなくにこにこと上機嫌に微笑む君彦に、どこか気持ち悪さを感じた響子は眉根を寄せながら小さく「おはよう」と返す。その間にも響子の背中にはべったりと色情霊がまとわり憑いており、ぞろぞろと男子生徒や会社員といった男共が色情霊の色香に惑わされてついて来てたのだが、君彦と会った途端に色情霊は拒絶反応を起こすように響子から距離を離した途端―――――――響子の後ろをついて来てた男共は正気に戻っていた。

 

「猫又の妖力がまだお前に残っているのか?」


 君彦と響子の後ろから低い男の声が聞こえて振り向くと、そこには布にくるまれた長い物を手に犬塚慶尚が無愛想な表情で立っていた。彼の姿を見た途端に君彦から笑顔が消え、まるで何も見ていないとでもいうように歩を進める。


「え・・・、あっ―――――――ちょ・・・っ!」


 犬塚に挨拶をするでもなく君彦は足早に学校へと向かったので、響子は右手を伸ばして声をかけるも何て言ったらいいのかわからずに後を追いかけるタイミングすら外してしまっていた。


「何だ、随分無愛想な奴だな」


「それ、アンタが言うわけ?」


 睨みつけるように犬塚を見据えながら響子はじりじりと犬塚との距離を離す、それをちらりと見つめるも犬塚の方は全く気に留める様子もなく、てくてくと歩き出した。響子は口をへの字に曲げながら犬塚の隣にまで追いつくと文句を言ってやった。


「大体アンタが余計なことするからややこしいことになったんでしょうが!」


 横目でちらっと響子の方を一瞥するだけで、犬塚は表情一つ変えることなく淡々と答える。


「オレが何したって?」

「とぼけんな! アンタがアイツにちょっかい出して猫又を追い出すように仕向けたんでしょうが! 一体どうしてくれんのよ!」


「―――――――何でお前がキレるんだ? お前も猫又と何か関係があるのか」


 ほんの少しだけ興味がわいたのか、犬塚は歩調を緩めると小走りに隣を歩いていた響子はやっと普通に歩く速度で会話することが出来た。何を言っても、何を聞いても我関せずといった態度に響子の方も若干苛立ちを感じながら、それでも限界ギリギリまで怒りを抑えながら言葉を続ける。


「アンタも知ってるでしょ!? あたしに憑いてる色情霊のことはっ! あたしはアイツに憑いてる猫又を利用して色情霊を追っ払ってたのよ、それなのにアンタが何を言ったのか知らないけど猫又が行方不明になるし、アイツはアイツで異常な位ご機嫌を装ってるし、こっちはアイツのあんな無理矢理なハイテンションを見せつけられて迷惑してんだからねっ!?」


 犬塚はムキになって睨みつける響子を見据えながら何かを考え込む、そして15秒程思考した後にようやく言葉を発した。


「・・・あいつのことが心配なのか?」

「ちっっっがぁ―――――――うわよっ!! 一体どこをどんな風に聞いたらそんな展開になるのよ、わけわかんないっ!」


 響子は顔を真っ赤にしながら犬塚から視線を逸らした、彼女のこの態度だけで今の犬塚の言葉が図星であったことは明白である。犬塚は心の中で「心配なんだな」と呟くが、面倒臭いのか―――――――決して口には出さなかった。

 君彦のことを心配していると図星を突かれた響子は話題を逸らそうと必死になって思考を巡らせるが、異性とこんな風に会話をするという行為自体かなりご無沙汰だったということもあって、拒絶反応と緊張で思うように考えがまとまらずにいると上空の辺りから女の子の悲鳴のようなものが聞こえて来て響子はぎょっとした。


 声のする方に視線を走らせると響子は自分の目を疑う、赤いワンピースを来た黒髪の女の子が泣きながら空を飛んでいるのだ。しかしよく見るとその女の子は響子に取り憑いている色情霊と同じように少しだけ半透明に映って見えたので、あの少女もきっと幽霊か何かなんだろうと思い凍りつく。


 猫又に霊を見る力を与えられたと言っても響子は君彦のように全ての幽霊や物の怪をハッキリと見えるようになったわけではなかった、最初の内は鏡越し―――――――次第にうっすらと見えるようになったのだが明らかに「幽霊」と認識出来るものを目にしたのは色情霊以外にはあの少女の幽霊で二人目である。


 泣きながら悲鳴を上げて響子たちの上空を飛んで行くと、その後ろから気味の悪い物体が下品な笑い声を上げて追いかけているのが見えた。緑色の皮膚にカエルやトカゲのようにぬめっとした光沢を放ち、見た目には甲羅を取り上げた亀のような姿をした化け物が太くて短い手足をバタつかせながら少女を追いかけている。


 吐き気がする位に不気味な姿をした化け物を目にした響子は完全に血の気が失せて、今にも腰を抜かしそうになっていた。人型の幽霊なら色情霊でようやく慣れてきたところであったが、思い切り化け物にしか見えない物体が自分のすぐ目の前に浮かんでいる光景を目にすると、それすら悪夢のように感じられて悲鳴すら出て来なかった。


『助けて―――――――っ、猫又ちゃ―――――――ん! 君彦く―――――――んっ!』


 少女の霊が口にした名前を聞いて響子はすぐに我に返った、犬塚もそれを聞き逃さなかったようで今までやる気のない表情だった顔色がほんの少しだけ真面目になり、両足を肩幅にまで開いて構える。


「―――――――犬神、行けっ!」


 犬塚の言葉に反応したかのように、突然何もなかった場所から巨大な犬が現れて少女を追いかけている化け物めがけてジャンプした。響子は次々と起こる展開について行けずにただ呆然と事の成り行きを見守るだけであった。

 



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