無愛想な転校生
「君彦クン、おはよう!」
「おはよう、黒依ちゃん!」
教室で君彦と黒依が挨拶を交わす、どうやら昨日は家出をしていた猫又が無事だったことに安心したからなのか、君彦にいつもの明るさと笑顔が戻っていたので黒依は内心ほっとしていた。いつものように他愛のない会話をして笑っているとすぐに始業ベルが鳴って全員が席に着く。そんな時、周囲の生徒達からある噂が持ち上がっていて、君彦もその噂について席が近い黒依と小声で喋る。
「そういえばみんな噂してるね、この中途半端な時期に転校生が来るって。しかもうちのクラスらしいし」
「どんな人なのかなぁ、楽しみだね!」
黒依の微笑みに君彦がデレデレになっているといつもなら担任が教室のドアを開けて入って来るのだが、ドアの前で何やら話声が聞こえて来てなかなか入って来ないから全員が訝しげに外の様子を気にしていた。すると担任がどうやら怒声を上げて怒っている様子だった、最初は教室内がざわざわとしていたが担任が誰に対して何を怒っているのか気になった生徒の殆どが耳をダンボにして盗み聞きをし始める。
「――――――全く君と言う奴は! 本当なら今週の月曜から学校に来るはずだったろう! 転校初日から何堂々と無断欠席してるのかね!?」
しばしの沈黙、その微妙な間から察するに相手は明らかに言い訳を探している様子である。そして彼が導き出した答えがこれだった。
「――――――いや、新調した学ランが小さくなってたのでサイズを合わせてました」
「どんな成長期っ!? 転校決まってから一週間経ってないよね? 元々成長期だから制服作る時点で割と大きめに作るはずだよね!? つくならもう少しマシな嘘つこう? この際法事でも仮病でも何でもいいから正当そうな理由考えて? いちいちツッコむの先生しんどいからさぁ!」
担任が怒鳴っている相手はどうやら噂の転校生らしく、すりガラス越しから見えるシルエットから察するに190近くはありそうな長身で細長い『何か』を持っている。声は高校生にしては渋い感じの低さで何となく肝の据わったような口調だった。
担任の先生相手に全く怯むことなく、どことなく一本調子に聞こえる台詞から怖いもの知らずというイメージをクラス全員が抱いてしまっている。それからやっと話がまとまったのか担任が教室のドアを開けて入って来た。しかし顔は完全に不機嫌になっており、ひくひくと顔面が怒りから痙攣していた。そのすぐ後に転校生が入って来る。彼が入って来た途端――――――教室内が一瞬にして静まり返った。
転校生を見た瞬間、クラス全員が一致団結したかのように同じ反応を示している・・・それは。
――――――――――――怖っ!
高校生にしては身長が高く体も結構がっしりしていて見た目にはスポーツマンに見える、日に焼けた浅黒い肌に後頭部は少し刈り上げられている黒髪で基本的に短い髪型、目つきの悪い三白眼で本人は普通にしてるかもしれないが、目が合った相手を睨み殺すかのような鋭い眼光である。口は無愛想を体現したかのようにきゅっとつぐんだままの状態だった。
片手に持っているのは1メートル半はありそうな真っ直ぐとした物を白い布で覆ってある。布の包み方から見ても剣道部がよく手にしている物と似ていたので、それが竹刀か木刀だと察することが出来た。
クラスの誰もが転校生が入って来た途端に、特に男子は視線を落とした。目が合ったらいちゃもんをつけられるかもしれないと思ったせいだ。逆に女子に関しては彼の硬派で強そうなイメージから、急にそわそわと騒ぎ出している。
クラスの殆どの女子が同じような態度をしていたので君彦は急に心配になって来た、自分の前の席に座っている黒依もあの転校生のことがカッコイイなどと思っていないか・・・それだけが気がかりであった。すると黒依は椅子を後ろの方にずらして君彦に小声で話しかけて来る。
「君彦クン、あの人って何だかちょっと怖そうな人だよね」
黒依の反応はクラスの女子とは真逆のものだったので安堵の息を漏らす、そして君彦は嬉しさを隠せない表情で返事をした。
「そうだね、でもきっと大丈夫だよ! オレ達はクラスであまり目立たないタイプだから、こっちから話しかけて来ない限り関わり合いになる要素が見当たらないからね」
もはや君彦の思考回路から転校生の存在が消失してしまったようで、黒依が再び元の位置に戻ってもにこにこと満面の笑みを浮かべたまま上機嫌な様子である。そんな君彦のことを転校生はじっと鋭い眼差しで見つめ続けていた。
(――――――あれが、猫又君彦か・・・)
そう心の中で呟きながら、転校生は白い布でくるまれた竹刀か木刀を握る手に力を込めた。
はい、黄金パターンとか王道とか好きなんです。
wikiで「転校生」と調べてもやはりこのパターンはよくあるネタのようで(笑)
一応連載当初からメインキャラとして出す予定をしていた人物です、彼がどのように君彦や猫又と関わって行くのか楽しみにしていてください。
彼の登場は君彦達にとってとても大きなものとなります、キャラ的にも気に入っていただけると嬉しいのですが・・・(^^)