君彦と響子、出会う?
君彦は人通りの多い場所などを避ける傾向があった。
猫又に取り憑かれてからというもの浮幽霊などが君彦にくっついて来ることは少なくなったのだが、それでも出来るだけ目撃を避ける為に自然と通行人の少ない道を選ぶ習慣がついてしまっているのだ。
幽霊は人通りの少ない寂しい場所を好むように思われているが、実は案外人通りの多い場所を好んでいたりする。
人混みに紛れ、あわよくば誰かに憑いて行こうという『念』が強いせいだと、君彦は猫又に教わったのだ。
君彦は新しいバイトの面接を終えてアパートの自宅に帰る途中で、目の前を歩く一人の女性に注目する。
足元をぼてぼてと歩く猫又も、君彦と同じタイミングで見つけた。
『おいおい、こりゃまた大層なモンに憑かれてるみたいだな』
君彦は足を止める。
黒髪で長いおさげを結ったジャージ女性には、まるで白蛇が全身に絡まってまとわりつくようにしっかりと憑いていたのだ。
しかし白くて半透明な幽霊は蛇ではなくいつの時代の女性なのか、妖艶な笑みを浮かべながら君彦の方を向いてにっこり微笑む。
目が合った瞬間、君彦は全身に奇妙な感覚を覚えた。
金縛りとは違う……。
まるで全身に電気が走ったような痺れを感じて、ジャージ女性の後ろ姿を見ただけでも胸が熱くなって来る。
心臓の鼓動が速くなり、全身が火照った時……突然猫又が君彦の顔の辺りまでジャンプして強烈な猫パンチをかました!
『しっかりしやがれ、君彦っ! ッッシャア――ッッ!』
「いだぁ――っっ!」
左頬に猫パンチを喰らった時、一緒にメガネも飛んで行く。
悲鳴を上げて左頬の痛みに、君彦は我に返って猫又を見据えた。
今さっき自分が一体どうなったのかよく覚えていなかった。
片手で血の滲んだ爪痕に触れながら、君彦は舗装された道に落ちたメガネを拾い上げて割れていないか確認する。
「いきなり何するんだよ、お前は!」
出来るだけ小声で猫又に文句を言いながら、無事だったメガネをかけた。
猫又の姿は君彦にだけ、……もとい霊力の強い人間にしか見えないらしい。
しかしテレパシーなどで会話が出来るわけではないので、どうしても猫又と話をするには声に出さなければいけなかった。
外で猫又と会話する姿を何人かに目撃されて、君彦が『変人』だという評判が広まってしまった原因のひとつでもある。
『何言ってんだ、オレは惑わされたお前を助けてやった恩人だぜ? 君彦……あれはな、一種の色情霊ってやつだ』
鋭い眼差しで猫又が言った。
君彦は少し驚いた表情になり、もう一度ジャージ女性の方へと視線を走らせる。
しかしさっきのような奇妙な感覚はもうなく、まとわりついている幽霊と目が合っても特に何も感じなかった。
「色情霊って……、確か人間を……その、違う意味で『襲う』悪霊のことか!?」
『一般的な色情霊は人間を犯すモンだがな、あいつは逆タイプみたいだぜ!? 取り憑いた人間の色香を高めて、周囲の人間に犯させる。一般のヤツに比べたら質がワリーな。君彦、お前も色情霊の色香に惑わされて危うく痴漢に成り下がるトコだったんだ、気を付けな』
「でも、今は全然平気だけど?」
『そりゃオメー、このオレ様が憑いてんだから影響が少ないだけだ。オレ様に感謝すんだな! それより、さっさと行こうぜ! オレ腹減っちまった! ――って君彦!? お前どこ行くんだよっ!!』
「あんな霊に取り憑かれたままだなんて、……放っておけない! 色情霊の存在をあの人に教えてあげて、早くお祓いするようにしなきゃダメだ!」
『だからそういうお節介はいい加減にしろって言ってんだろうが、おい君彦っ!?』
猫又の制止も聞かず、君彦は真っ直ぐと色情霊に取り憑かれている女性の元へと歩いて行った。
君彦の接近に気付いた色情霊は、なおも君彦を誘惑するが通用しない。
「あの……、すみません!」
そう言って君彦がジャージ女性を呼び止める為に、背中を叩いた時だった。
勢いよく振り向いた女性の瞳の奥には炎が燃え盛っており、歯を食いしばりながら怒りを露わにしている。
そして……。
「ナンパされんのもいい加減ウンザリしてるって、……言ってんだろうがぁぁぁ――っっ!!」
右ストレートが、見事君彦の頬にクリーンヒットして宙を舞う。
突然の出来事に何が何だかわけがわからない君彦は、愕然としたまま倒れ伏してしまった。
そして猫又も二本足で立ち尽くしたままガ――ンと……、口をあんぐり開けている。
『き……っ、き……っ、君彦――っっ!??』
幽霊・物の怪に関する知識は、実際のものとは多少設定を変えていますのでご了承ください。
あと基本的には今回のような書き方で物語は進行していきます。
ご了承してほしいことばっかりですが、どうぞこれからも続きを読んであげてください。