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猫集会

 ―――――――その夜、君彦が帰宅したのを他人の屋根の上から確認すると猫又は再び巡回を始めた、昨日は謎の退治屋が現れなかったということもありもう一度3丁目を回ってみることにする。



 夜の10時、猫目石の女主人である猫娘の涼子は4丁目の猫集会に参加していた。というより殆ど野良猫や浮幽霊達の溜まり場と化している空き地でいつもならお酒を飲んだり踊ったりの宴会騒ぎをするだけの集まりであるが、今回に限っては謎の退治屋の件で町に住む物の怪や幽霊達が脅えているのでその情報交換や注意を促す為に緊急で集まっていた。

涼子は力の弱い物の怪達に身の守り方を教えてやる、といってもせいぜい身を隠すか退治屋に逆らわないようにアドバイスをするというだけであったが・・・。


『とにかく猫又さんがこの退治屋を何とかするまでの間だけでいいから、みんな自重しててくれないかしら。不満もあるでしょうけど命を狙われるよりはマシでしょう、とにかくこの退治屋が何を探して回っているのかわからないけど抵抗だけはしないようにね!?』


 涼子の言葉にみんなが互いに視線を送り合いながらざわめく、猫又がこの町を仕切ってからというもの平和が保たれていたせいで危機感を感じていないのか、それとも必要以上に怯えているせいか・・・どちらにしろみんなの反応はまちまちだった。


『でも涼子さん、退治屋って物の怪を退治するのが仕事なんでしょう? 抵抗しないから助かるってのもおかしい話じゃないかい?』


『そうだよ、普通は抵抗しなかったらそのまま浄化や成仏させられちゃうじゃん』


『大体探し物ってのが何なのかわからないんじゃ、それが見つかるまでそいつがずっとこの町をうろつくことになるんじゃないの? いくら猫又さんでも物の怪の天敵である退治屋相手じゃ、さすがにヤバイと思うけど・・・』


『はぁ~あ、こんな時・・・征四郎せいしろうさんがいてくれたらにゃあ・・・』


 一匹の猫が溜め息を漏らしながら口にする、するとその場にいた野良猫や物の怪、幽霊達がこぞって注目した。突然周囲から視線が集まったことに気付いた猫は瞳を大きく見開いて失言だったことを謝罪する。眉根を寄せて悩ましげな顔になりながら涼子が頭を押さえていた。


『全く・・・この場に猫又さんがいなかったからいいものの、二度とその人の名を口にするんじゃないよ!?』


『はい、ごめんなさい・・・つい』


 そんな時、話が見えない別の猫が隣に居た物の怪に小声で話しかける。


『ねぇ、今の人ってだぁれ? 猫又さんとどういう関係なの?』


 すると老人の姿をした物の怪が周囲に視線を走らせながら小さく答えた。


『いいか、ワシから聞いたことは誰にも言うなよ? 征四郎さんというのは、まぁ一言でいえば猫又の好敵手ライバルじゃな。人の身でありながら妖怪の中でもトップクラスの実力を持つ猫又と幾度となく戦い続けて来た仲でのう、征四郎さんはとある凶悪な妖怪との戦いで命を落としてしもうたんじゃ。それ以来猫又は征四郎さんの遺志を継いでこの町を守護する役目を一手に引き受けたんじゃ』


『ふ~~ん、人間の中にも凄いのっているんだねぇ』


 猫集会を始めておよそ30分、なかなか収拾がつかずに涼子が困り果てていると突然カナが蒼白な顔を更に青くさせて涼子に寄り添って来た。


『・・・どうしたの、カナちゃん?』


『涼子さん、怖いよ! 強い気が近付いて来る!』


 カナの言葉を聞いた涼子が顔色を変えて立ち上がり、空き地一帯に注意を払った。すると突然近くから悲鳴が上がった!


『ぎにゃああぁぁああ~~っ! た、助けて~~~っ!』


 見るとそこには一人の若い男が立っており、三毛猫の首根っこを掴んだままこちらを見据えていた。全員がその男の殺気に当てられて一目散に逃げ出した。まるで蜘蛛の子を散らすように一瞬にして殆どの妖怪や野良猫達が逃げ惑う中、涼子はカナを背に男を睨みつける。


『あんた一体何者なんだい!? その子を離しておやり、可哀想だろう!』


 すると男はあっさりと掴んでいた猫を解放すると、同じように鋭い眼光で涼子に狙いを絞っていた。男の異常なまでの威圧感に涼子は足が震えて今にも腰を抜かしそうだったが、同じように腰を抜かして逃げることが出来ない物の怪や野良猫達を見捨てるわけにはいかず、何とか気丈に振る舞っていた。すると男は低い声で涼子に話しかけてくる。


「お前、猫娘という妖怪だな。どう見ても『娘』には見えないが、まぁどうでもいいか。そんなことより聞きたいことがある」


 静かな口調で訊ねて来る男に、涼子は噂通りだと思った。猫又の話では退治屋は探し物の在りかを聞いて回っているそうで、いきなり攻撃を仕掛けて来るわけではなくまずはその探し物に関して尋ねて来るそうなんだと、そして今まさに男は涼子に訊ねて来ている。

 しかしこれにうまく対応しなければ、―――――――怪我人が出てしまうことに間違いなかった。


(あの格好、君彦さんと同じ制服ね。ということは少なくとも君彦さんとさほど年齢が変わらない、しかも同じ学校に通う生徒ということになるわ。どうしてそんな奴がいきなりこの町の物の怪達を襲うような真似を?)


「質問は単純明快だ、―――――――この町を仕切っている妖怪は誰だ」


『―――――――っっ!!』


 涼子は思わず動揺してしまった、強い衝撃を受けたように心臓が跳ね上がる。しかし周囲に居る物の怪達を見て、何とか必死に恐怖心を取り払おうと努めた。


『はっ、そんな奴知らないよ。あたし達はちゃんとルールを守って静かに暮らしているだけさ。町を仕切るだの何だのと、随分物騒な話じゃないの。そんな大層な奴、この町にいないわね!』


 そう勇んだ瞬間、目の前に居る男以上の恐怖が涼子達を襲った。暗闇の中に何かがいる。野獣か何かの唸り声のようなものが聞こえて来て、男の背後に居る何かに目を凝らす。するとそこから現れたのはとても大きな犬―――――――、ライオン程の大きさはありそうな巨大な柴犬が牙をむき出しにして涼子達を威嚇していたのだ。それを見て腰を抜かしていた物の怪の老人が震えた声で叫んだ。


『そいつは―――――まさか、犬神かっ!? お前・・・犬神使いだったのか!?』


『犬神使い?』


 涼子が繰り返す、すると物の怪の老人は腰を抜かしたまま後ずさるように答える。


『数多の物の怪、妖怪、魑魅魍魎ちみもうりょうをその鋭い牙で葬って来た上位妖怪だ、そんじょそこらの妖怪じゃ歯が立たん!』


 すると犬神使いの男が一歩、涼子達の方へと距離を縮めて来た、それに合わせるように涼子達も無意識に一歩ずつ下がる。男の殺気だけでも相当な威圧感があったと言うのに、その後方に犬神が控えていたことで更に圧倒的な力の差を見せつけられて成す術もなかった。


(た―――――、助けて・・・猫又さんっ!)


 犬神使いの男がすぐ近くで震えている猫に向かって睨みを利かせた、するとそれに応えるように後方に控えていた犬神が唸り声を上げながら3匹で固まって震えている猫に先程の質問を浴びせた。


『ひぃぃっ! 命だけはお助けをっ!』


 ブチ猫が震えながら叫んだ。


『なら言え、この町をおさえてる妖怪は何者で今どこにいる!?』


 犬神が叫ぶと涼子はその場に動けなかったが、何とか目線で野良猫達に訴えかけた。


(あんた達、絶対猫又さんについて何も口にするんじゃないよ!? 猫又さんのことを話したら猫又さんだけじゃない、一緒に住んでいる君彦さんにまで危害が及んでしまうんだから! それだけは絶対に―――――絶対にさせちゃダメなんだからねっ!?)


『この町を仕切ってるのは猫又っていうアメリカンショートヘア的な毛並みをした妖怪ですぅっ!』


『猫又さんは4丁目のボロアパートで猫又君彦っていう人間と一緒に住んでますぅっ!』


(バカ――――――――――――――っっっ!!)


 あっさりと白状してしまった野良猫達に心の中でツッコむ涼子、今すぐにでも3バカ野良猫達を締め上げたい所だったがすでにそんなことをしても意味がないことはよくわかっていた。見ると男は無愛想な顔のまま、探している者を突き止めたのか・・・空き地に居る物の怪達に興味を無くして、犬神と共に涼子達に背を向けて去って行った。

 へなへなと地面に腰を抜かして倒れ込んだ涼子は、その男の背中を見送り・・・それから全身の力が抜けてしまう。


『あいつの狙いが猫又さんだなんて・・・っ! 今すぐ逃げてちょうだい猫又さん、さすがの猫又さんでもあの犬神使いには勝てっこないわ。怪我だけじゃ済まない』




 住宅街を歩きながら犬神使いの男は鋭い三白眼の瞳で夜空を見上げた、それから自分が探し求めていたものに関して小さく呟く。


「猫又・・・、そいつがこの町を仕切っているのか。それにその妖怪に取り憑かれているであろう男、猫又君彦。・・・奇縁だな」


『―――――――どうした慶尚けいしょう?』


 犬神使いの男、慶尚という名の男に向かって犬神が声をかける。すると慶尚は無愛想な顔に少しだけ笑みを作り、鼻で笑った。




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