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カナちゃん

「はぁ~~~・・・」


 授業中のみならず休み時間も教室の自分の席で深い溜め息をつく君彦に、黒依は首を傾げていた。聞いてみたところ今朝方志岐城響子に色々と誤解をされてしまい、そのまま喧嘩別れをしたということで君彦は落ち込んでいる様子だった。

 黒依はおもむろにノートの切れ端に何かを書き、それをすぐ隣の君彦へと手渡す。君彦はきょとんとした顔で四つ折りされた紙切れを広げてそこに書かれているメッセージを読んだ。


『きちんと話せば誤解はすぐ解けるから、元気出してね。黒依』


(黒依ちゃん・・・っ! 君は何て心優しい女の子なんだ・・・これぞまさしく地上に舞い降りた天使っ!)


 自分が落ち込んでいる姿を見て心配してくれているのだと察した君彦は感激の余り嬉し涙を流す、それから隣で自分に微笑みかけてくれる黒依に向かって能天気な笑みを浮かべながら手を振った。

 しかし誤解を解くと言っても廃工場での出来事の後、響子は君彦を殴り飛ばしてそのまま走り去ってしまった。当然君彦は遠のく意識を必死で堪えながら響子を追いかけたが結局のところ見失ってしまい、学校で会ってから改めて話し合おうと思ったが響子のクラスに行くと欠席してると言われてしまったのだ。


(・・・よっぽどショックだったんだろうな、無理もないけど。てゆうかあれってオレの方が襲ったことになってんのかなやっぱり!?早い所誤解を解きたいけどオレまで学校を欠席するわけにいかないし、志岐城さんの担任の先生に聞けばどこに家があるのか教えてもらえるかな・・・?)


 そんなことを考えながらふと窓の外に視線を向けたら、思わず吹き出してしまった。窓の外にはここが2階であるにも関わらずワンピースを来た女の子が宙に浮いたままこちらに向かって手を振っているではないか。それを見た君彦は思わずその女の子の名前を呼びそうになるが、今まさに授業中であることを思い出して言葉を飲み込んだ。

 カナはスゥーッと窓ガラスを通り抜けて君彦の元へと到着し、笑顔で話しかけて来る。


『君彦お兄ちゃん、カナ邪魔しないから今日はずっとお兄ちゃんの側にいてもいい?』


 突然そう聞かれ、君彦は驚きながらも周囲に視線を走らせ小声で問う。


「―――――――って、いきなりどうしたの!? 今オレ学校があるからカナちゃんと遊んであげること出来ないんだけど・・・」


 しかしそれで全然構わないのか、カナは無垢な笑みを浮かべながら大きく頷いている。


『カナ、大人しくしてるから! 猫又ちゃんも今日はずっと君彦お兄ちゃんの側にいろって言ってくれたし!』


(猫又の奴・・・、また余計なことを・・・っ! てゆうか一体何を企んでるんだ、あいつわ!)


 それからカナは休憩時間以外は君彦の教室の中を沈黙のままふわふわ浮かんだり、一緒になって授業を聞いたりと――――――本当に約束通り大人しくしていたことに君彦はほっとしていた。以前カナが授業中の君彦の元へ遊びに来た時は色々とイタズラをしていたので、君彦が軽くカナを叱ったことがあった。それを覚えているのかどうかはわからないが、ともかく何の問題もなく今日一日授業を無事に終えることが出来て安心する君彦。

 黒依に関しては、君彦が幽霊が見える体質であることやたまに知り合いの幽霊や物の怪なんかが君彦にちょっかいをかけてくることをあらかじめ話しており、それを理解してくれているので君彦にとってはこれ程有り難い存在はなかった。

 カナのこともあったのでとりあえず今日も黒依と下校することが出来なくて残念そうな君彦であったが、黒依はそんなことを気に病む様子もなく満面の微笑みを浮かべて別れたことに少なからず寂しさを感じていた。

 家に帰る途中に君彦はどうして急にカナが君彦の元へ来たのか直接本人に聞いてみたが、カナは思い切り何かを隠している様子で何も話そうとはしない。まるで誰かに口止めされているようにあからさまに言葉を濁すだけであった。


『あたし・・・、久しぶりにお兄ちゃんと一緒にいたかった・・・それだけだよ? ホントだよ? だから猫又ちゃんが帰って来るまではお兄ちゃんと一緒に居てもいいでしょ? ・・・ダメ?』


「いや、それは構わないけど。ただカナちゃんが猫娘さんの所に帰らないのが珍しいなって思っただけだよ。カナちゃんってお母さんを恋しがっていたから、その母親代わりに猫娘さんがなってくれてすごく喜んでいたからさ・・・」


『お姉ちゃんはお店があるから・・・、あそこは物の怪や幽霊のたまり場だし・・・狙われやすそうだからって猫又ちゃんが・・・』


「・・・え? 猫又がどうしたって?」


 思わず口が滑ってしまったカナは慌てて誤魔化そうとする。


『な・・・っ、何でもない! そんなことより、早く帰ろ!? お外が暗くなる前に早く帰った方がいいよ! 危ないよ!』


 どうにも挙動不審なカナに違和感を感じながら、これ以上カナを追及するのは可哀想だと思って何も聞かないことにした。続きは当然猫又に聞くことにして、君彦はカナと一緒に家路を急いだ。




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