散歩コース
猫又は季節の中で一番春が好きだった、ぽかぽかと暖かい陽射しの中――――――散歩も昼寝も、どちらも気持ち良く過ごせるからである。朝から君彦と響子によるドタバタ劇を目にした猫又は、恐らくこのまま一緒に居ても何か文句を言われるのではないかと思って今日一日は君彦や響子に近付くことをやめることにした。
君彦と口喧嘩をして猫又が一時的に家出をするのは日常茶飯事であったが、そのタイミングにまさか色情霊に体を乗っ取られた響子が現れるとは猫又ですら予想出来ていなかった。自分がその場に居れば色情霊を響子の体から追い出すことは朝飯前であったが、つい・・・思わず君彦が一体どうするのか? という好奇心がわいてしまったのだ。
結果的には君彦自身の力で響子の体から色情霊を追い出すことに成功したのだが、その後に自分が姿を現したらどうせ「こんな時にどこ行ってたんだ」とか何とか・・・面倒臭いことを言われるのかと思ったので、そのまま見て見ぬフリを決め込んだのである。
猫又は天気の良いぽかぽか天気のお陰で上機嫌だったので、鼻歌交じりに歌いながら家々の塀の上を歩いて行く。そんな時・・・。
『やぁ、猫又さん! 今日は随分と機嫌がよろしいようで、何か良いことでもあったんですかい?』
近所の野良猫達が2~3匹程たむろしており、猫又の姿を見つけるなり話しかけて来た。猫又の姿は霊感の強い人間にしか見ることが出来ないが、動物や他の幽霊達には当然猫又の姿を目視することが出来る。
『うんにゃ、ただ天気が良いから絶好の散歩日和だと思ってな』
塀の上から猫又が答えると、ブチ猫が何かを思い出したかのように話しかける。
『あ、そういや3丁目の猫娘さんが最近猫又さんが来てくれねぇってんで寂しがってましたぜ? 上等なお酒用意してるからたまには顔を見せて欲しいってさ、いよっ! この色男!』
『大人をあまりからかうんじゃねぇよ、でも・・・そういや最近酒飲んでねぇからな。今夜辺りにでも顔見せに行くかな』
『そん時はオレっち達にも声かけてくださいね、おこぼれおこぼれ!』
『ったくお前等はホント調子良いんだからよ、やっぱやめた! 抜き打ちで行くことにする!』
(・・・それなら毎晩猫娘さんの所にお邪魔するだけさね)
ぷいっとそっぽを向いて再び猫又が散歩コースに戻って歩を進めようとした時だった、遠くの方から半透明の物体が飛んで来たのでそれを野良猫達がいち早く気付き、その存在を猫又に教えてやる。
『猫又さん、浮幽霊のカナちゃんだぜ』
『あ?』
野良猫達の言葉に猫又が上を見上げると慌てた様子で10歳位の姿をした女の子が、真っ直ぐに猫又の方へ飛んできた。
『猫又ちゃ―――――ん! 大変だよう!』
『ありゃ君彦のダンナに何かあったんじゃね? カナちゃんてほら・・・確か君彦のダンナのことが大好きだったかんね。その気持ちを利用して猫又さんがダンナの監視役を・・・』
『おーおー、猫又さん鬼だねぇ』
『猫の風上にも置けない畜生だねぇ』
『怖いこわい』
『だぁ――――――もう、お前等うるせ―――――――――っっ!』
猫又がシャ―――――――――ッと威嚇すると、野良猫達はだらしなく笑い飛ばしながら毛づくろいなんかをし始めた。
『どうしたんだよカナ、言っとくが君彦のことならわかってんぜ。どうせあの色情女にいいように振り回されてんだろ?』
『今日はお兄ちゃんのことじゃないよ、全く・・・昨日の夜は一体どこに行ってたの!? あたし猫又ちゃんのことずっと探し回ってたんだからね!』
『わかったわかった、とにかく一体どうしたってんだよ!?』
猫又が面倒臭そうに適当にあしらいながらカナに続きの話を早くするように急かした。するとカナは何かを怖がるような表情で話し始める。
『1丁目の野良さん達に聞いたんだけど、最近この町にとっても怖い人が来たんだって! あたしが見たわけじゃないんだけど、その人・・・この町の物の怪とか幽霊とかを苛めて回ってるの! 逆らった物の怪さんの中には返り討ちに遭ってそのまま除霊されたり大怪我させられたり・・・、それ三日前の話でね!? 昨日の夜には2丁目にその人が現れて・・・、2丁目の物の怪さんや幽霊さんは喧嘩っ早いのばっかりだからたくさん怪我人が出たって! だんだんこっちの方に近付いて来てんの! 猫又ちゃん、どうしたらいい!?』
早口に言葉を並べ立てるものだから話の内容をすぐに理解することが出来ず、猫又は一旦カナに落ち着くように宥めようとした。他人の家の屋根の上に上がり、そこでもう一度順を追って話を聞く。その場にいた野良猫達も興味からか一緒になって聞いていた。
『つまり・・・そいつがだんだんこの4丁目に向かって来て、物の怪退治してるってんだな?』
『うん、でも退治されちゃったのはその人に喧嘩を仕掛けた人達だけなんだって。でも・・・何かを探してるみたいでその質問に答えられなかったら結局暴力を振るわれて、怪我させられちゃったみたい』
怯えるカナを見て猫又は安心させるように左前足で背中を撫でてやった、しかしせっかく猫又がカナを宥めているすぐ隣で完全にパニック状態に陥った野良猫達が慌ただしく逃げる準備をしている。
『やっべ、そんじゃオレ達もさっさとトンズラしねぇと!』
『怪我はイヤ~! 暴力反対~っ!』
『どうしよオレ、もうすぐ子供が生まれるんだけどな・・・』
『ッシャ―――――――――ッ! お前等うるっさいっつってんだろうがっ! ともかくカナ、お前は心配すんじゃねぇよ。この4丁目にはオレ様がいるだろうが。この町内仕切ってんのは一体誰だと思ってんだよ、そんな物騒な奴が現れてもこのオレ様が返り討ちにしてやんぜ。でももしまだ怖いってんならお前は今夜からウチに来な、君彦が側にいれば安心だろ、な?』
(カナがいれば君彦もオレ様に向かってあれこれと口うるさく言わなくなるかもしれないし・・・)
そんなことを考えながら猫又は今から町内パトロールを強化することに決めた、カナには学校に行けば君彦がいるから自分が戻るまでは君彦の側にいるように指示して、それから謎の人物に襲われた物の怪がいるという2丁目へと出かけた。
何やら不穏な空気が・・・、はてさて猫又達は一体どうなってしまうのか? 戦闘シーンの描写が苦手なのでバトル突入だけはしてほしくないものです(笑)